紫式部 源氏物語 末摘花 7 與謝野晶子訳

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問題文

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(にじょうのいんへかえって、げんじはまたねをしながら、なにごともくうそうしたようには)

二条の院へ帰って、源氏は又寝をしながら、何事も空想したようには

(いかないものであるとおもって、ただみぶんがなみなみのひとでないために、)

いかないものであると思って、ただ身分が並み並みの人でないために、

(いちどきりのかんけいでのいてしまうようなたいどのとれないてんをはんもんするのだった。)

一度きりの関係で退いてしまうような態度の取れない点を煩悶するのだった。

(そんなところへとうのちゅうじょうがほうもんしてきた。 「たいへんなあさねなんですね。)

そんな所へ頭中将が訪問してきた。 「たいへんな朝寝なんですね。

(なんだかわけがありそうだ」 といわれてげんじはおきあがった。)

なんだかわけがありそうだ」 と言われて源氏は起き上がった。

(「きらくなひとりねなものですから、いいきになってねぼうをしてしまいましたよ。)

「気楽な独り寝なものですから、いい気になって寝坊をしてしまいましたよ。

(ごしょからですか」 「そうです。まだうちへかえっていないのですよ。)

御所からですか」 「そうです。まだ家へ帰っていないのですよ。

(すざくいんのぎょうこうのひのがくのやくとまいのやくのじんせんがあるのだそうですから、だいじんにも)

朱雀院の行幸の日の楽の役と舞の役の人選があるのだそうですから、大臣にも

(そうだんしようとおもってたいしゅつしたのです。そしてまたすぐにごしょへかえります」)

相談しようと思って退出したのです。そしてまたすぐに御所へ帰ります」

(とうのちゅうじょうはいそがしそうである。 「じゃあいっしょにいきましょう」)

頭中将は忙しそうである。 「じゃあいっしょに行きましょう」

(こういって、げんじはかゆやこわめしのちょうしょくをきゃくとともにすませた。げんじのくるまも)

こう言って、源氏は粥や強飯の朝食を客とともに済ませた。源氏の車も

(よういされてあったがふたりはひとつのくるまにのったのである。あなたはねむそうだなどと)

用意されてあったが二人は一つの車に乗ったのである。あなたは眠そうだなどと

(ちゅうじょうはいって、 「わたくしにかくすようなひみつをあなたはたくさんもっていそうだ」)

中将は言って、 「私に隠すような秘密をあなたはたくさん持っていそうだ」

(ともうらんでいた。 そのひごしょではいろんなけっていじこうがおおくてげんじもしゅうじつきゅうちゅうで)

とも恨んでいた。 その日御所ではいろんな決定事項が多くて源氏も終日宮中で

(くらした。しんろうはそのよくあさにはやくてがみをおくり、だいにやからのほうもんをちゅうじつに)

暮らした。新郎はその翌朝に早く手紙を送り、第二夜からの訪問を忠実に

(つづけることがいっぱんのれいぎであるから、じしんででかけられないまでも、せめて)

続けることが一般の礼儀であるから、自身で出かけられないまでも、せめて

(てがみをおくってやりたいとげんじはおもっていたが、ひまをえてゆうがたにつかいを)

手紙を送ってやりたいと源氏は思っていたが、閑暇を得て夕方に使いを

(だすことができた。あめがふっていた。こんなよるにちょっとでもいってみようと)

出すことができた。雨が降っていた。こんな夜にちょっとでも行ってみようと

(いうほどにもげんじのこころをひくものはさくやのしんぷにみいだせなかった。)

いうほどにも源氏の心を惹くものは昨夜の新婦に見いだせなかった。

(あちらではじこくをはかってまっていたがげんじはこない。みょうぶもにょおうをいたましく)

あちらでは時刻を計って待っていたが源氏は来ない。命婦も女王をいたましく

など

(おもっていた。にょおうじしんはただはずかしくおもっているだけで、けさくるべきはずの)

思っていた。女王自身はただ恥ずかしく思っているだけで、今朝来るべきはずの

(てがみがよるになってまでこないことがなんのくろうにもならなかった。 )

手紙が夜になってまで来ないことが何の苦労にもならなかった。

(ゆうぎりのはるるけしきもまだみぬにいぶせさそうるよいのあめかな )

夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬにいぶせさ添ふる宵の雨かな

(このはれまをどんなにわたくしはまちどおしくおもうことでしょう。 とげんじのてがみには)

この晴れ間をどんなに私は待ち遠しく思うことでしょう。 と源氏の手紙には

(あった。きそうもないようすににょうぼうたちはひかんした。へんじだけはぜひおかきに)

あった。来そうもない様子に女房たちは悲観した。返事だけはぜひお書きに

(なるようにとすすめても、まださくやからあたまをこんらんさせているにょおうは、けいしきてきに)

なるようにと勧めても、まだ昨夜から頭を混乱させている女王は、形式的に

(いえばいいこんなときのへんかもつくれない。よがふけてしまうからとじじゅうが)

言えばいいこんな時の返歌も作れない。夜が更けてしまうからと侍従が

(きをもんでだいさくした。 )

気をもんで代作した。

(はれぬよのつきまつさとをおもいやれおなじこころにながめせずとも )

晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心にながめせずとも

(かくことだけはじしんでなければならないとみなからいわれて、むらさきいろのかみであるが、)

書くことだけは自身でなければならないと皆から言われて、紫色の紙であるが、

(じはさすがにちからのあるじでかいた。ちゅうこのしょふうである。ひとところもちらしてはかかず)

字はさすがに力のある字で書いた。中古の書風である。一所も散らしては書かず

(じょうげそろえてかかれてあった。 しつぼうしてげんじはてがみをてからすてた。)

上下そろえて書かれてあった。 失望して源氏は手紙を手から捨てた。

(こんやじぶんのいかないことでおんなはさぞはんもんをしているであろうとそんなじょうけいを)

今夜自分の行かないことで女はさぞ煩悶をしているであろうとそんな情景を

(こころにえがいてみるげんじもはんもんはしているのだった。けれどもいまさらしかたのない)

心に描いてみる源氏も煩悶はしているのだった。けれども今さらしかたのない

(ことである、いつまでもすてずにあいしてやろうと、げんじはけつろんとして)

ことである、いつまでも捨てずに愛してやろうと、源氏は結論として

(こうおもったのであるが、それをしらないひたちのみやけのひとびとはだれもだれも)

こう思ったのであるが、それを知らない常陸の宮家の人々はだれもだれも

(くらいきもちからすくわれなかった。)

暗い気持ちから救われなかった。

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