紫式部 源氏物語 葵 2 與謝野晶子訳
関連タイピング
-
プレイ回数271長文2953打
-
プレイ回数76長文2309打
-
プレイ回数84長文1623打
-
プレイ回数86長文2622打
-
プレイ回数151長文かな1691打
-
プレイ回数110長文5251打
-
プレイ回数8142長文1732打
-
プレイ回数151長文3622打
問題文
(そのころぜんだいのかものさいいんがおやめになってこうたいごうばらのいんのにょさんのみやがあたらしく)
そのころ前代の加茂の斎院がおやめになって皇太后腹の院の女三の宮が新しく
(さいいんにさだまった。いんもたいこうもことにあいしておいでになったないしんのうであるから、)
斎院に定まった。院も太后もことに愛しておいでになった内親王であるから、
(かみのほうししゃとしてじょうじんとちがったせいかつへおはいりになることをごおやごころに)
神の奉仕者として常人と違った生活へおはいりになることを御親心に
(くるしくおぼしめしたが、ほかにてきとうなかたがなかったのである。)
苦しく思召したが、ほかに適当な方がなかったのである。
(さいいんしゅうにんのはじめのぎしきはふるくからきまったしんじのひとつで)
斎院就任の初めの儀式は古くから決まった神事の一つで
(かんたんにおこなわれるときもあるが、こんどはきわめてはでなふうにおこなわれるらしい。)
簡単に行われる時もあるが、今度はきわめて派手なふうに行われるらしい。
(さいいんのごせいりょくのたしょうにこんなこともよるらしいのである。)
斎院の御勢力の多少にこんなこともよるらしいのである。
(ごけいのひにぐぶするだいじんはていいんのほかにとくにせんじがあって)
御禊の日に供奉する大臣は定員のほかに特に宣旨があって
(げんじのうだいしょうをもくわえられた。ものみぐるまででようとするひとたちは、)
源氏の右大将をも加えられた。物見車で出ようとする人たちは、
(そのひをたのしみにおもいはれがましくもおもっていた。)
その日を楽しみに思い晴がましくも思っていた。
(にじょうのおおどおりはものみのくるまとひととですきもない。あちこちにできたさじきは、)
二条の大通りは物見の車と人とで隙もない。あちこちにできた桟敷は、
(しつらいのしゅみのよさをきそって、みすのしたからだされたおんなのそでぐちにもとくしょくが)
しつらいの趣味のよさを競って、御簾の下から出された女の袖口にも特色が
(それぞれあった。まつりもまつりであるがこれらはけんぶつするかちを)
それぞれあった。祭りも祭りであるがこれらは見物する価値を
(じゅうぶんにもっている。さだいじんけにいるあおいふじんはそうしたところへでかけるようなことは)
十分に持っている。左大臣家にいる葵夫人はそうした所へ出かけるようなことは
(あまりこのまないうえに、せいりてきになやましいころであったから、けんぶつのことを、)
あまり好まない上に、生理的に悩ましいころであったから、見物のことを、
(ねんとうにおいていなかったが、 「それではつまりません。)
念頭に置いていなかったが、 「それではつまりません。
(わたくしたちどうしでけんぶつにでますのではみじめではりあいがございません。)
私たちどうしで見物に出ますのではみじめで張り合いがございません。
(きょうはただたいしょうさまをおみあげすることにきょうみがあつまっておりまして、)
今日はただ大将様をお見上げすることに興味が集まっておりまして、
(ろうどうしゃもとおいちほうのひとまでも、はるばるとつまやこをつれて)
労働者も遠い地方の人までも、はるばると妻や子をつれて
(きょうへのぼってきたりしておりますのにおくさまがおでかけにならないのは)
京へ上って来たりしておりますのに奥様がお出かけにならないのは
(あまりでございます」 とにょうぼうたちのいうのをははぎみのみやさまがおききになって、)
あまりでございます」 と女房たちの言うのを母君の宮様がお聞きになって、
(「きょうはちょうどあなたのきぶんもよくなっていることだから。でないことは)
「今日はちょうどあなたの気分もよくなっていることだから。出ないことは
(にょうぼうたちがものたりなくおもうことだし、いっていらっしゃい」 こうおいいに)
女房たちが物足りなく思うことだし、行っていらっしゃい」 こうお言いに
(になった。それでにわかにともまわりをつくらせて、あおいふじんはみそぎのぎょうれつのものみぐるまのひとと)
なった。それでにわかに供廻りを作らせて、葵夫人は御禊の行列の物見車の人と
(なったのである。やしきをでたのはずっとあさもおそくなってからだった。)
なったのである。邸を出たのはずっと朝もおそくなってからだった。
(このいっこうはそれほどたいそうにもみせないふうででた。くるまのこみあうなかへ)
この一行はそれほどたいそうにも見せないふうで出た。車のこみ合う中へ
(いくつかのさだいじんけのくるまがつづいてでてきたので、どこへけんぶつのばしょをとろうかと)
幾つかの左大臣家の車が続いて出て来たので、どこへ見物の場所を取ろうかと
(まようばかりであった。きぞくのおんなのじょうようらしいくるまがおおくとまっていて、)
迷うばかりであった。貴族の女の乗用らしい車が多くとまっていて、
(つまらぬもののすくないところをえらんで、じゃまになるくるまはみなのけさせた。そのなかに)
つまらぬ物の少ない所を選んで、じゃまになる車は皆除けさせた。その中に
(そとみはあじろぐるまのすこしふるくなったものにすぎぬが、みすのしたのとばりのこのみも)
外見は網代車の少し古くなった物にすぎぬが、御簾の下のとばりの好みも
(きわめてじょうひんで、ずっとおくのほうへよってのったひとびとのふくそうのゆうびないろも)
きわめて上品で、ずっと奥のほうへ寄って乗った人々の服装の優美な色も
(どうじょのうわぎのかざみのはしのすこしずつもれてみえるようすにも、)
童女の上着の汗袗の端の少しずつ洩れて見える様子にも、
(わざわざめだたぬようにしてきじょのきていることがおもわれるようなくるまが)
わざわざ目立たぬようにして貴女の来ていることが思われるような車が
(にだいあった。)
二台あった。