紫式部 源氏物語 葵 5 與謝野晶子訳

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1 りく 6054 A++ 6.2 97.6% 251.2 1559 38 26 2026/01/11

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(きょうもまちにはすきまなくくるまがでていた。うまばどのあたりでまつりのぎょうれつを) 今日も町には隙間なく車が出ていた。馬場殿あたりで祭りの行列を (みようとするのであったが、つごうのよいばしょがない。) 見ようとするのであったが、都合のよい場所がない。 (「たいかんたちがこのへんにはたくさんきていてめんどうなところだ」) 「大官たちがこの辺にはたくさん来ていて面倒な所だ」 (げんじはいって、くるまをやるのではなく、とめるのでもなく、ちゅうちょしているときに、) 源氏は言って、車をやるのではなく、停めるのでもなく、躊躇している時に、 (よいおんなぐるまでひとがいっぱいにのりこぼれたのから、おうぎをだしてげんじのともを) よい女車で人がいっぱいに乗りこぼれたのから、扇を出して源氏の供を (よぶものがあった。 「ここへおいでになりませんか。こちらのばしょを) 呼ぶ者があった。 「ここへおいでになりませんか。こちらの場所を (おゆずりしてもよろしいのですよ」 というあいさつである。) お譲りしてもよろしいのですよ」 という挨拶である。 (どこのみやびめのすることであろうとおもいながら、そこはじっさい) どこの風流女のすることであろうと思いながら、そこは実際 (よいばしょでもあったから、そのくるまにならべてげんじはくるまをすえさせた。) よい場所でもあったから、その車に並べて源氏は車を据えさせた。 (「どうしてこんなよいばしょをおとりになったかとうらやましくおもいました」) 「どうしてこんなよい場所をお取りになったかとうらやましく思いました」
(というと、ひんのよいおうぎのはしをおって、それにかいてよこした。 ) と言うと、品のよい扇の端を折って、それに書いてよこした。 (はかなしやひとのかざせるあうひゆえかみのしるしのきょうをまちける ) はかなしや人のかざせるあふひ故神のしるしの今日を待ちける (しめをはっておいでになるのですもの。 げんてんじのじであることを) 注連を張っておいでになるのですもの。 源典侍の字であることを (げんじはおもいだしたのである。どこまでわかがえりたいのであろうと) 源氏は思い出したのである。どこまで若返りたいのであろうと (みにくくおもったげんじはひにくに、 ) 醜く思った源氏は皮肉に、 (かざしけるこころぞあだにおもおゆるやそうじひとになべてあうひを ) かざしける心ぞ仇に思ほゆる八十氏人になべてあふひを (とかいてやると、はずかしくおもったおんなからまたうたがきた。 ) と書いてやると、恥ずかしく思った女からまた歌が来た。 (くやしくもかざしけるかななのみしてひとだのめなるくさはばかりを ) くやしくも挿しけるかな名のみして人だのめなる草葉ばかりを (きょうのげんじがおんなのどうじょうしゃをもっていて、みすさえあげずにきているのを) 今日の源氏が女の同乗者を持っていて、簾さえ上げずに来ているのを (ねたましくおもうひとがおおかった。みそぎのひのたんれいだったげんじが) ねたましく思う人が多かった。御禊の日の端麗だった源氏が
など
(きょうはくつろいだふうにものみぐるまのぬしになっている、ならんでのっているほどのひとは) 今日はくつろいだふうに物見車の主になっている、並んで乗っているほどの人は (なみなみのおんなではないはずであるとこんなことをみなそうぞうしたものである。) 並み並みの女ではないはずであるとこんなことを皆想像したものである。 (げんてんじではきょうそうしゃとなのってでられてももんだいにはならないとおもうと、) 源典侍では競争者と名のって出られても問題にはならないと思うと、 (げんじはすこしものたりなさをかんじたが、げんじのあいじんがいるとおもうとはれがましくて、) 源氏は少し物足りなさを感じたが、源氏の愛人がいると思うと晴がましくて、 (げんてんじのようなあつかましいろうじょでもさすがにこまらせるようなじょうだんも) 源典侍のようなあつかましい老女でもさすがに困らせるような戯談も (あまりいいだせないのである。) あまり言い出せないのである。
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