紫式部 源氏物語 榊 2 與謝野晶子訳

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1 subaru 8041 8.3 96.5% 457.0 3811 136 58 2024/12/07
2 おもち 7718 8.0 96.2% 476.8 3828 148 58 2024/12/04
3 HAKU 7659 7.9 96.4% 483.3 3844 142 58 2024/12/06
4 ヤス 7278 7.6 94.8% 496.5 3823 209 58 2024/12/03
5 だだんどん 6711 S+ 7.2 93.3% 524.5 3789 269 58 2024/12/08

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問題文

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(まちをはなれてひろいのにでたときから、げんじはみにしむものをおぼえた。もうあきくさのはなは)

町を離れて広い野に出た時から、源氏は身にしむものを覚えた。もう秋草の花は

(みなおとろえてしまって、かれがれになくむしのこえとまつかぜのおとがまじりあい、そのなかを)

皆衰えてしまって、かれがれに鳴く虫の声と松風の音が混じり合い、その中を

(よくみみをすまさないではきかれないほどのがくおんがののみやのほうから)

よく耳を澄まさないでは聞かれないほどの楽音が野の宮のほうから

(ながれてくるのであった。えんなおもむきである。ぜんくをさせるのにむつまじいものをえらんだ)

流れて来るのであった。艶な趣である。前駆をさせるのに睦まじい者を選んだ

(じゅういくにんとずいしんとをあまりめだたせないようにしてともなったしのびのすがたではあるが、)

十幾人と随身とをあまり目だたなせないようにして伴った微行の姿ではあるが、

(ことさらにきれいによそおうてきたげんじがこののをいくことをふうりゅうずきなとものせいねんは)

ことさらにきれいに装うて来た源氏がこの野を行くことを風流好きな供の青年は

(おもしろがっていた。げんじのこころにも、なぜいままでにいくたびもこのかんじのよい)

おもしろがっていた。源氏の心にも、なぜ今までに幾度もこの感じのよい

(のなかのみちをほうもんにでなかったのであろうとくやしかった。)

野中の路を訪問に出なかったのであろうとくやしかった。

(ののみやはかんたんなこしばがきをおおがきにしてつらねたしっそなかまえである。まるきのとりいなどは)

野の宮は簡単な小柴垣を大垣にして連ねた質素な構えである。丸木の鳥居などは

(さすがにこうごうしくて、なんとなくかみのほうししゃいがいのものをはずかしくおもわせた。)

さすがに神々しくて、なんとなく神の奉仕者以外の者を恥ずかしく思わせた。

(しんかんらしいおとこたちがあちらこちらになんにんかずついて、せきをしたり、)

神官らしい男たちがあちらこちらに何人かずついて、咳をしたり、

(たちばなしをしたりしているようすなども、ほかのばしょにみられぬこうけいであった。)

立ち話をしたりしている様子なども、ほかの場所に見られぬ光景であった。

(かがりびをたいたばんしょがかすかにういてみえて、ぜんたいにひとすくななしめっぽいくうきの)

篝火を焚いた番所がかすかに浮いて見えて、全体に人少なな湿っぽい空気の

(かんぜられる、こんなところにものおもいのあるひとがいくつきもくらしつづけていたのかと)

感ぜられる、こんな所に物思いのある人が幾月も暮らし続けていたのかと

(おもうと、げんじはこいびとがいたましくてならなかった。きたのたいのしたの)

思うと、源氏は恋人がいたましくてならなかった。北の対の下の

(めだたないところにたってあんないをもうしいれるとおんがくのこえはやんでしまって、)

目だたない所に立って案内を申し入れると音楽の声はやんでしまって、

(わかいなんにんものおんなのきぬずれらしいおとがきこえた。とりつぎのおんながあとではまた)

若い何人もの女の衣摺れらしい音が聞こえた。取り次ぎの女があとではまた

(かわってでてきたりしても、じしんであおうとしないらしいのをげんじは)

変わって出て来たりしても、自身で逢おうとしないらしいのを源氏は

(あきたらずおもった。 「こいしいかたをたずねてまいるようなことも)

飽き足らず思った。 「恋しい方を訪ねて参るようなことも

(かんじょうにまかせてできたわたくしのじだいはもうすぎてしまいまして、どんなにせけんを)

感情にまかせてできた私の時代はもう過ぎてしまいまして、どんなに世間を

など

(はばかってきているかもしれませんようなわたくしに、どうじょうしてくださいますなら、)

はばかって来ているかもしれませんような私に、同情してくださいますなら、

(こんなよそよそしいおあつかいはなさらないで、あってくだすっておはなししたくて)

こんなよそよそしいお扱いはなさらないで、逢ってくだすってお話ししたくて

(ならないこともきいてくださいませんか」 とまじめにげんじがたのむと)

ならないことも聞いてくださいませんか」 とまじめに源氏が頼むと

(にょうぼうたちも、 「おっしゃることのほうがごもっともでございます。)

女房たちも、 「おっしゃることのほうがごもっともでございます。

(おきのどくなふうにいつまでもおたたせしておきましてはすみません」)

お気の毒なふうにいつまでもお立たせしておきましては済みません」

(ととりなす。どうすればよいかとみやすどころはまよった。けっさいじょについている)

ととりなす。どうすればよいかと御息所は迷った。潔斎所についている

(しんかんたちにどんなそうぞうをされるかしれないことであるし、こころよわくめんかいを)

神官たちにどんな想像をされるかしれないことであるし、心弱く面会を

(しょうだくすることによって、またもげんじのけいべつをかうのではないかと)

承諾することによって、またも源氏の軽蔑を買うのではないかと

(ちゅうちょはされても、どこまでもれいたんにはできないかんじょうにまけて、)

躊躇はされても、どこまでも冷淡にはできない感情に負けて、

(たんそくをもらしながらざしきのはしのほうへいざってくるみやすどころのようすには)

歎息を洩らしながら座敷の端のほうへ膝行ってくる御息所の様子には

(えんなひんのよさがあった。げんじは、)

艶な品のよさがあった。源氏は、

(「おえんがわだけはゆるしていただけるでしょうか」 といって、うえにあがっていた。)

「お縁側だけは許していただけるでしょうか」 と言って、上に上がっていた。

(ながいじじつをなかにしたかいごうに、むじょうでなかったいいわけをさんぶんてきにいうのも)

長い時日を中にした会合に、無情でなかった言いわけを散文的に言うのも

(きまりがわるくて、さかきのえだをすこしおっててにもっていたのを、)

きまりが悪くて、榊の枝を少し折って手に持っていたのを、

(げんじはみすのしたからいれて、 「わたくしのこころのときわないろにじしんをもって、)

源氏は御簾の下から入れて、 「私の心の常磐な色に自信を持って、

(おそれのあるばしょへもおたずねしてきたのですが、あなたはつめたくおあつかいになる」)

恐れのある場所へもお訪ねして来たのですが、あなたは冷たくお扱いになる」

(といった。 )

と言った。

(かみがきはしるしのすぎもなきものをいかにまがえておれるさかきぞ )

神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへて折れる榊ぞ

(みやすどころはこうこたえたのである。 )

御息所はこう答えたのである。

(おとめごがあたりとおもえばさかきばのかをなつかしみとめてこそおれ )

少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみとめてこそ折れ

(とげんじはいったのであった。けっさいじょのくうきにいあつされながらもみすのなかへ)

と源氏は言ったのであった。潔斎所の空気に威圧されながらも御簾の中へ

(じょうはんしんだけはいれてなげしにげんじはよりかかっているのである。みやすどころがかんぜんに)

上半身だけは入れて長押に源氏はよりかかっているのである。御息所が完全に

(げんじのものであって、しかもじょうねつのどはげんじよりもたかかったじだいに、)

源氏のものであって、しかも情熱の度は源氏よりも高かった時代に、

(げんじはまんしんしていたかたちでこのひとのしんかをみとめようとはしなかった。)

源氏は慢心していた形でこの人の真価を認めようとはしなかった。

(またいやなじけんもおこってきたときからは、じしんのこころながらも)

またいやな事件も起こって来た時からは、自身の心ながらも

(こいをなるにまかせてあった。それがむかしのようにしてかたってみると、にわかに)

恋を成るにまかせてあった。それが昔のようにして語ってみると、にわかに

(おおきなちからがげんじをとらえてみやすどころのほうへひきよせるのをげんじはかんぜずに)

大きな力が源氏をとらえて御息所のほうへ引き寄せるのを源氏は感ぜずに

(いられなかった。じぶんはこのひとがすきであったのだというにんしきのうえに)

いられなかった。自分はこの人が好きであったのだという認識の上に

(たってみると、ふたりのむかしもこいしくなり、わかれたのちのさびしさもつうせつに)

立ってみると、二人の昔も恋しくなり、別れたのちの寂しさも痛切に

(かんがえられて、げんじはなきだしてしまったのである。おんなはかんじょうをあくまでも)

考えられて、源氏は泣き出してしまったのである。女は感情をあくまでも

(おさえていようとしながらも、たえられないようになみだをながしているのをみると)

おさえていようとしながらも、堪えられないように涙を流しているのを見ると

(いよいよげんじはこころぐるしくなって、いせゆきをおもいとどまらせようとするのに)

いよいよ源氏は心苦しくなって、伊勢行きを思いとどまらせようとするのに

(みをいれてはなしていた。もうつきがおちたのか、さびしいいろにかわっているそらを)

身を入れて話していた。もう月が落ちたのか、寂しい色に変わっている空を

(ながめながら、じしんのしんじつのみとめられないことでなげくげんじをみては、)

ながめながら、自身の真実の認められないことで歎く源氏を見ては、

(みやすどころのつもりつもったうらめしさもきえていくことであろうとみえた。)

御息所の積もり積もった恨めしさも消えていくことであろうと見えた。

(ようやくあきらめができたいまになって、またどうようすることになってはならない)

ようやくあきらめができた今になって、また動揺することになってはならない

(きけんなかいけんをさけていたのであるが、よかんしていたとおりに)

危険な会見を避けていたのであるが、予感していたとおりに

(みやすどころのこころはかきみだされてしまった。)

御息所の心はかき乱されてしまった。

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