私の個人主義9
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関連タイピング
問題文
(みなこれなりといいたいくらいごろごろ)
皆是なりと云いたいくらいごろごろ
(していました。ほかのわるくちではありま)
していました。他の悪口ではありま
(せん。こういうわたしがげんにそれだったの)
せん。こういう私が現にそれだったの
(です。たとえばあるせいようじんがこうという)
です。たとえばある西洋人が甲という
(おなじせいようじんのさくもつをひょうしたのをよんだ)
同じ西洋人の作物を評したのを読んだ
(とすると、そのひょうのとうひはまるでかんがえ)
とすると、その評の当否はまるで考え
(ずに、じぶんのふにおちようがおちまい)
ずに、自分の腑に落ちようが落ちまい
(が、むやみにそのひょうをふれちらかすの)
が、むやみにその評を触れ散らかすの
(です。つまりうのみといってもよし、また)
です。つまり鵜呑と云ってもよし、また
(きかいてきのちしきといってもよし、とうてい)
機械的の知識と云ってもよし、とうてい
(わがしょゆうともちともにくともいわれない、)
わが所有とも血とも肉とも云われない、
(よそよそしいものをわがものがおにしゃべって)
よそよそしいものを我物顔にしゃべって
(あるくのです。しかるにじだいがじだいだから、)
歩くのです。しかるに時代が時代だから、
(またみんながそれをほめるのです。)
またみんながそれを賞めるのです。
(けれどもいくらひとにほめられたって、もともと)
けれどもいくら人に賞められたって、元々
(ひとのかりぎをしていばっているのだから、)
人の借着をして威張っているのだから、
(ないしんはふあんです。てもなくくじゃくのはねを)
内心は不安です。手もなく孔雀の羽根を
(みにつけていばっているようなものですから。)
身に着けて威張っているようなものですから。
(それでもうすこしうかれかをさってしじつにつかな)
それでもう少し浮華を去って摯実につかな
(ければ、じぶんのはらのなかはいつまでたったって)
ければ、自分の腹の中はいつまで経ったって
(あんしんはできないということにきがつきでしたのです。)
安心はできないという事に気がつき出したのです。
(たとえばせいようじんがこれはりっぱなしだとか、)
たとえば西洋人がこれは立派な詩だとか、
(くちょうがたいへんよいとかいっても、それはその)
口調が大変好いとか云っても、それはその
(せいようじんのみるところで、わたしのさんこうにならん)
西洋人の見るところで、私の参考にならん
(ことはないにしても、わたしにそうおもえなければ、)
事はないにしても、私にそう思えなければ、
(とうていうけうりをすべきはずのものではないのです。)
とうてい受売をすべきはずのものではないのです。
(わたしがどくりつしたいっこのにほんじんであって、けっして)
私が独立した一個の日本人であって、けっして
(えいこくじんのぬひでないいじょうはこれくらいのけんしき)
英国人の奴婢でない以上はこれくらいの見識
(はこくみんのいちいんとしてそなえていなければならない)
は国民の一員として具えていなければならない
(うえに、せかいにきょうつうなしょうじきというとくぎをおもんずる)
上に、世界に共通な正直という徳義を重んずる
(てんからみても、わたしはわたしのいけんをまげてはならな)
点から見ても、私は私の意見を曲げてはならな
(いのです。)
いのです。
(しかしわたしはえいぶんがくをせんこうする。そのほんばのひひょうかの)
しかし私は英文学を専攻する。その本場の批評家の
(いうところとわたしのかんがえとむじゅんしてはどうもふつうの)
いうところと私の考と矛盾してはどうも普通の
(ばあいきがひけることになる。そこでこうしたむじゅんが)
場合気が引ける事になる。そこでこうした矛盾が
(はたしてどこからでるかということをかんがえなければ)
はたしてどこから出るかという事を考えなければ
(ならなくなる。にんじょう、しゅうかん、さかのぼってはこくみんの)
ならなくなる。人情、習慣、溯っては国民の
(せいかくみなこのむじゅんのげんいんになっているにそういない。)
性格皆この矛盾の原因になっているに相違ない。
(それを、ふつうのがくしゃはたんにぶんがくとかがくとをこんどうして、)
それを、普通の学者は単に文学と科学とを混同して、
(こうのこくみんにきにいるものはきっとおつのこくみんのしょうさんを)
甲の国民に気に入るものはきっと乙の国民の賞讃を
(えるにきまっている、そうしたひつぜんせいがふくまれて)
得るにきまっている、そうした必然性が含まれて
(いるとごにんしてかかる。そこがまちがっているといわなければ)
いると誤認してかかる。そこが間違っていると云わなければ
(ならない。たといこのむじゅんをゆうわすることがふかのうにしても、)
ならない。たといこの矛盾を融和する事が不可能にしても、
(それをせつめいすることはできるはずだ。そうしてたんにその)
それを説明する事はできるはずだ。そうして単にその
(せつめいだけでもにほんのぶんだんにはいちどうのこうみょうをなげあたえる)
説明だけでも日本の文壇には一道の光明を投げ与える
(ことができる。こうわたしはそのときはじめてさとったのでした。)
事ができる。こう私はその時始めて悟ったのでした。
(はなはだおそまきのはなしでざんきのいたりでありますけれども、)
はなはだ遅まきの話で慚愧の至でありますけれども、
(じじつだからいつわらないところをもうしあげるのです)
事実だから偽らないところを申し上げるのです