グスコーブドリの伝記8
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問題文
(ぶどりがそのあいだを、しばらくあるいていきますと、みちのまんなかに、ふたりのひとが、)
ブドリがその間を、しばらく歩いて行きますと、道のまんなかに、二人の人が、
(おおごえでなにかけんかでもするようにいいあっていました。みぎがわのほうの)
大声で何かけんかでもするように言い合っていました。右がわのほうの
(ひげのあかいひとがいいました。 「なんでもかんでも、おれはやましはるときめた」)
ひげの赤い人がいいました。 「なんでもかんでも、おれは山師はるときめた」
(するともひとりのしろいかさをかぶったせいのたかいおじいさんがいいました。)
するとも一人の白い笠をかぶったせいの高いおじいさんが言いました。
(「やめろっていったらやめるもんだ。そんなにひりょううんといれて、)
「やめろっていったらやめるもんだ。そんなに肥料うんと入れて、
(わらはとれたって、みはひとつぶもとれるもんでない。」「うんにゃ、)
わらはとれたって、実は一粒もとれるもんでない。」 「うんにゃ、
(おれのみこみでは、ことしはいままでのさんねんぶんあついにそういない。いちねんで)
おれの見込みでは、ことしはいままでの三年ぶん暑いにそういない。一年で
(さんねんぶんとってみせる。」 「やめろ。やめろ、やめろったら。」)
三年ぶんとってみせる。」 「やめろ。やめろ、やめろったら。」
(「うんにゃ、やめない。はなはみんなうめてしまったから、こんどはまめだまをろくじゅうまい)
「うんにゃ、やめない。花はみんなうめてしまったから、こんどは豆玉を六十枚
(いれてそれからとりのふん、ひゃくだんいれるんだ。いそがしったら)
入れてそれからとりの糞、百だん入れるんだ。いそがしったら
(なんのこういそがしくなれば、ささげのつるでもいいからてつだいにたのみたい)
なんのこういそがしくなれば、ささげのつるでもいいから手伝いにたのみたい
(もんだ。」 ぶどりはおもわずちかよっておじぎをしました。)
もんだ。」 ブドリは思わず近よっておじぎをしました。
(「そんならぼくをつかってくれませんか。」 するとふたりは、ぎょっとしたように)
「そんならぼくを使ってくれませんか。」 すると二人は、ぎょっとしたように
(かおをあげて、あごにてをあててしばらくぶどりをみていましたが、あかひげが)
顔をあげて、あごに手をあててしばらくブドリを見ていましたが、赤ひげが
(にわかにわらいだしました。 「よしよし、おまえにうまのさせとりをたのむからな)
にわかに笑いだしました。 「よしよし、おまえに馬のさせとりをたのむからな
(すぐおれについていくんだ。それではまず、のるかそるか、あきまでみててくれ。)
すぐおれについて行くんだ。それではまず、のるかそるか、秋まで見ててくれ。
(さあいこう。ほんとに、ささげのつるでもいいからたのみたいときでな。」 )
さあ行こう。ほんとに、ささげのつるでもいいからたのみたいときでな。」
(あかひげは、ぶどりとおじいさんにかわるがわるいいながら、さっさとさきにたって)
赤ひげは、ブドリとおじいさんにかわるがわる言いながら、さっさと先に立って
(あるきました。あとではおじいさんが、 「としよりのいうこときかないで、)
歩きました。あとではおじいさんが、 「としよりのいうこときかないで、
(なくんだな。」とつぶやきながら、しばらくこっちをみおくっているようすでした)
泣くんだな。」とつぶやきながら、しばらくこっちを見送っているようすでした
(それからぶどりは、まいにちまいにちぬまばたけへはいってうまをつかってどろを)
それからブドリは、まいにちまいにち沼ばたけへはいって馬を使ってどろを
(かきまわしました。いちにちごとにももいろのかーどもみどりのかーどもだんだん)
かきまわしました。一日ごとに桃いろのカードもみどりのカードもだんだん
(つぶされて、どろぬまにかわるのでした。うまはたびたびぴしゃっとどろみずを)
つぶされて、どろ沼にかわるのでした。馬はたびたびぴしゃっとどろ水を
(はねあげて、みんなのかおへうちつけました。ひとつのぬまばたけがすめば、すぐ)
はねあげて、みんなの顔へ打ちつけました。一つの沼ばたけがすめば、すぐ
(つぎのぬまばたけへはいるのでした。いちにちがとてもながくて、しまいには)
つぎの沼ばたけへはいるのでした。一日がとてもながくて、しまいには
(あるいているのかどうかわからなくなったり、どろがあめのような、みずがすーぷの)
歩いているのかどうかわからなくなったり、どろがあめのような、水がスープの
(ようなきがしたりするのでした。かぜがなんべんもふいてきてちかくのどろみずに、)
ような気がしたりするのでした。風がなんべんも吹いてきて近くのどろ水に、
(さかなのうろこのようななみをたて、とおくのみずをぶりきいろにしていきました。)
さかなのうろこのような波をたて、遠くの水をブリキいろにして行きました。
(そらでは、まいにちあまくすっぱいようなくもが、ゆっくりゆっくりながれていて、)
空では、まいにち甘くすっぱいような雲が、ゆっくりゆっくりながれていて、
(じつにうらやましそうにみえました。こうしてはつかばかりたちますと、やっと)
じつにうらやましそうに見えました。こうして二十日ばかりたちますと、やっと
(ぬまばたけはすっかりどろどろになりました。つぎのあさからしゅじんはまるで)
沼ばたけはすっかりどろどろになりました。つぎの朝から主人はまるで
(きがたって、あちこちからあつまってきたひとたちといっしょに、そのぬまばたけに)
気がたって、あちこちから集まってきた人たちといっしょに、その沼ばたけに
(みどりいろのやりのようなおりざのなえをいちめんにうえました。)
みどりいろのやりのようなオリザの苗をいちめんに植えました。
(それがとおかばかりですむと、こんどはぶどりたちをつれて、いままでてつだって)
それが十日ばかりですむと、こんどはブドリたちをつれて、いままで手伝って
(もらったひとたちのいえへまいにちはたらきにでかけました。それもやっとひとまわり)
もらった人たちの家へまいにち働きにでかけました。それもやっとひとまわり
(すむと、こんどはまたじぶんのぬまばたけへもどってきて、まいにちまいにち)
すむと、こんどはまたじぶんの沼ばたけへもどってきて、まいにちまいにち
(くさとりをはじめました。ぶどりのしゅじんのなえはおおきくなってまるで)
草とりをはじめました。ブドリの主人の苗は大きくなってまるで
(くろいくらいなのに、となりのぬまばたけはぼんやりしたうすいみどりいろでした)
黒いくらいなのに、となりの沼ばたけはぼんやりしたうすいみどりいろでした
(から、とおくからみても、ふたりのぬまばたけははっきりさかいまでみわかりました。)
から、遠くから見ても、二人の沼ばたけははっきりさかいまで見わかりました。
(なのかばかりでくさとりがすむと、またほかへてつだいにいきました。ところがあるあさ)
七日ばかりで草とりがすむと、またほかへ手伝いに行きました。ところがある朝
(しゅじんはぶどりをつれて、じぶんのぬまばたけをとおりながら、にわかに、「あっ。」)
主人はブドリをつれて、自分の沼ばたけを通りながら、にわかに、「あっ。」
(とさけんでぼうだちになってしまいました。みるとくちびるのいろまで)
とさけんで棒立ちになってしまいました。見るとくちびるのいろまで
(みずいろになって、ぼんやりまっすぐをみつめているのです。 )
水いろになって、ぼんやりまっすぐを見つめているのです。
(「びょうきがでたんだ。」しゅじんがやっといいました。 「あたまでもいたいんですか。」)
「病気が出たんだ。」主人がやっと言いました。 「頭でも痛いんですか。」
(ぶどりはききました。 「おれでないよ。おりざよ。それ。」しゅじんは)
ブドリはききました。 「おれでないよ。オリザよ。それ。」主人は
(まえのおりざのかぶをゆびさしました。ぶどりはしゃがんでしらべてみますと、)
前のオリザの株を指さしました。ブドリはしゃがんでしらべて見ますと、
(どのはにも、いままでみたことのないあかいてんてんがついていました。しゅじんは)
どの葉にも、いままで見たことのない赤いてんてんがついていました。主人は
(だまってしおしおとぬまばたけをひとまわりしましたが、いえへかえりはじめました。)
だまってしおしおと沼ばたけを一まわりしましたが、家へ帰りはじめました。
(ぶどりもしんぱいしてついていきますと、しゅじんはだまってきれをみずでしぼって)
ブドリも心配してついて行きますと、主人はだまって布を水でしぼって
(あたまにのせると、そのままいたのまにねてしまいました。するとまもなく、)
頭にのせると、そのまま板の間に寝てしまいました。するとまもなく、
(しゅじんのおかみさんがおもてからかけこんできました。 「おりざへびょうきが)
主人のおかみさんがおもてからかけこんで来ました。 「オリザへ病気が
(でたというのはほんとうかい。」 「ああ、もうだめだよ。」)
出たというのはほんとうかい。」 「ああ、もうだめだよ。」
(「どうにかならないのかい。」 「だめだろう、すっかりごねんまえのとおりだ。」)
「どうにかならないのかい。」 「だめだろう、すっかり五年前のとおりだ。」
(「だから、あたしはあんたにやましをやめろといったんじゃないか。)
「だから、あたしはあんたに山師をやめろといったんじゃないか。
(おじいさんもあんなにとめたんじゃないか。」)
おじいさんもあんなにとめたんじゃないか。」
(おかみさんはおろおろなきはじめました。)
おかみさんはおろおろ泣きはじめました。