星の王子さま 9 (10/32)

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花との別れ
サン=テグジュペリ作 内藤濯訳 

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問題文

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(わたりどりたちが、ほかのほしにうつりすむのをみたおうじさまは、いいおりだとおもって、)

渡り鳥たちが、ほかの星に移り住むのを見た王子さまは、いいおりだと思って、

(ふるさとのほしをあとにしたのだとぼくはおもいます。)

ふるさとの星をあとにしたのだとぼくは思います。

(しゅっぱつのひのあさ、おうじさまは、じぶんのほしを、きちんとせいりしました。)

出発の日の朝、王子さまは、自分の星を、きちんと整理しました。

(ねんいりにかっかざんのすすはらいをしました。)

念入りに活火山のすすはらいをしました。

(そういえば、おうじさまは、かっかざんを、ふたつもっていました。)

そういえば、王子さまは、活火山を、二つ持っていました。

(ですから、あさのしょくじをあたためるには、たいそうべんりでした。)

ですから、朝の食事をあたためるには、たいそう便利でした。

(しかざんもひとつもっていました。 しかし、おうじさまもいっていましたとおり、)

死火山も一つもっていました。 しかし、王子さまもいっていましたとおり、

(それが、まったくばくはつしないものではないとはかぎらないのです。)

それが、まったく爆発しないものではないとはかぎらないのです。

(だから、おうじさまは、しかざんのすすはらいもしました。)

だから、王子さまは、死火山のすすはらいもしました。

(かざんというものは、よくすすはらいをしておきさえすれば、)

火山というものは、よくすすはらいをしておきさえすれば、

(ばくはつなんかしないで、しずかにきそくただしくけむりをはくものなのです。)

爆発なんかしないで、しずかに規則正しく煙をはくものなのです。

(かざんのばくはつは、えんとつのひとかわりありません。)

火山の爆発は、煙突の火とかわりありません。

(このちきゅうのうえでは、ぼくたちにんげんが、あんまりちいさくて、)

この地球の上では、ぼくたち人間が、あんまり小さくて、

(かざんのすすはらいをするわけにいかないことは、いうまでもありません。)

火山の煤払いをするわけにいかないことは、いうまでもありません。

(だから、ぼくたちは、かざんのばくはつのために、さんざ、なやまされるのです。)

だから、ぼくたちは、火山の爆発のために、さんざ、悩まされるのです。

(おうじさまは、つい、このごろはえたばおばぶのめを、どこかかおをくもらせて、)

王子さまは、つい、このごろ生えたバオバブの芽を、どこか顔をくもらせて、

(ぬきとりました。もう、にどとかえってこないつもりだったのです。)

ぬきとりました。もう、二度と帰ってこないつもりだったのです。

(ところで、いつもするそんなしごとも、そのあさは、ひどくみにしみました。)

ところで、いつもするそんな仕事も、その朝は、ひどく身にしみました。

(そして、わかれのしるしに、はなにみずをかけて、おおいがらすを、)

そして、わかれのしるしに、花に水をかけて、覆いガラスを、

(かけてやろうとしていると、いまにもなみだがこぼれそうになりました。)

かけてやろうとしていると、いまにも涙がこぼれそうになりました。

など

(「さようなら」と、おうじさまは、はなにいいました。)

「さようなら」と、王子さまは、花にいいました。

(しかし、はなはなんともいいません。)

しかし、花はなんともいいません。

(「さようなら」と、おうじさまはくりかえしました。)

「さようなら」と、王子さまは繰り返しました。

(はなは、せきをしました。)

花は、せきをしました。

(でも、かぜをひいているからではありませんでした。)

でも、風邪をひいているからではありませんでした。

(「あたくし、ばかでした」と、はなは、やっと、おうじさまにいいました。)

「あたくし、ばかでした」と、花は、やっと、王子さまにいいました。

(「ごめんなさい。おしあわせでね・・・」)

「ごめんなさい。おしあわせでね・・・」

(おうじさまは、はながちっともとがめるようなことをいわないので、)

王子さまは、花がちっともとがめるようなことをいわないので、

(おどろきました。 そして、おおいがらすをそらにむけたまま、)

おどろきました。 そして、覆いガラスを空に向けたまま、

(すっかりめんくらって、じっとたっていました。)

すっかりめんくらって、じっと立っていました。

(はなが、どうして、こうおとなしくしているのか、わけがわかりませんでした。)

花が、どうして、こうおとなしくしているのか、わけがわかりませんでした。

(「そりゃ、もう、あたくし、あなたがすきなんです。)

「そりゃ、もう、あたくし、あなたが好きなんです。

(あなたがそれを、ちっともしらなかったのは、)

あなたがそれを、ちっとも知らなかったのは、

(あたくしがわるかったんです。 でも、そんなこと、どうでもいいことですわ。)

あたくしがわるかったんです。 でも、そんなこと、どうでもいいことですわ。

(あたくしもそうでしたけど、あなたもやっぱり、おばかさんだったのよ。)

あたくしもそうでしたけど、あなたもやっぱり、おばかさんだったのよ。

(おしあわせでね・・・ もう、そのおおいがらすなんか、いりませんわ」)

おしあわせでね・・・ もう、その覆いガラスなんか、いりませんわ」

(「でも、かぜがふいてきたら・・・」)

「でも、風がふいてきたら・・・」

(「あたくしのかぜ、たいしたかぜじゃありませんもの・・・)

「あたくしの風邪、たいした風邪じゃありませんもの・・・

(よるのすずしいかぜにふかれたら、さっぱりしますわ・・・はななんですもの」)

夜の涼しい風にふかれたら、さっぱりしますわ・・・花なんですもの」

(「でも、けものが・・・」)

「でも、けものが・・・」

(「あたくし、ちょうちょうのおともだちになりたかったら、)

「あたくし、チョウチョウのお友だちになりたかったら、

(にひきやさんびきのけむしはがまんしなくちゃあね。)

二ひきや三びきのケムシはがまんしなくちゃあね。

(ちょうちょうって、なんだか、たいそううつくしそうですわ。)

チョウチョウって、なんだか、たいそう美しそうですわ。

(ちょうちょうでなくて、だれが、あたくしをたずねにきてくれるでしょう。)

チョウチョウでなくて、だれが、あたくしを訪ねに来てくれるでしょう。

(あなたは、とおくにいっておしまいですからね。)

あなたは、遠くに行っておしまいですからね。

(おおきなけもののことだったら、ちっともこわかないわ。)

大きなけもののことだったら、ちっともこわかないわ。

(あたくしだって、つめはもってるんだから」)

あたくしだって、爪はもってるんだから」

(はなは、そういってよっつのとげを、むじゃきにみせたあと、こうつけくわえました。)

花は、そういって四つのトゲを、むじゃきに見せたあと、こうつけ加えました。

(「そう、ぐずぐずなさるなんて、じれったいわ。)

「そう、ぐずぐずなさるなんて、じれったいわ。

(もうよそへいくことにおきめになったんだから、)

もうよそへいくことにお決めになったんだから、

(いっておしまいなさい、さっさと!」)

行っておしまいなさい、さっさと!」

(はながそういったのは、ないているかおを、おうじさまに)

花がそういったのは、泣いている顔を、王子さまに

(みせたくなかったからでした。)

見せたくなかったからでした。

(それほどよわみをみせるのがきらいなはなでした。)

それほど弱みを見せるのがきらいな花でした。

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