バスカヴィル家の犬４９

(おなじじこくにかれがしんだことはわかっています。あなたはそのふたつのできごとの)

同じ時刻に彼が死んだことは分かっています。あなたはその二つの出来事の

(かんけいをふせています　むかんけいです　そうなると、じつにしんじがたいぐうぜんが)

関係を伏せています」「無関係です」「そうなると、実に信じがたい偶然が

(おきたということになります。しかしわたしはさいしゅうてきにふたつのかんけいをしょうめいすることが)

起きたということになります。しかし私は最終的に二つの関係を証明する事が

(できるのではないかとおもいます。あなたとははらをわってはなしあいたいですね、)

できるのではないかと思います。あなたとは腹を割って話し合いたいですね、

(らいおんずさん。われわれはこれをさつじんじけんとみなしています。そしてにゅうしゅした)

ライオンズさん。我々はこれを殺人事件と見なしています。そして入手した

(しょうこからみて、あなたのゆうじんのすていぷるとんさんだけではなく、かれのつまも)

証拠から見て、あなたの友人のステイプルトンさんだけではなく、彼の妻も

(このじけんにかんけいしているかのうせいがあるんです　じょせいはいすからさっと)

この事件に関係している可能性があるんです」女性は椅子からさっと

(たちあがった。つま！かのじょはさけんだ。これはもうひみつではない。かれのいもうとで)

立ち上がった。「妻！」彼女は叫んだ。「これはもう秘密ではない。彼の妹で

(とおっているじょせいは、ほんとうはかれのつまです　みせすらいおんずはいすに)

通っている女性は、本当は彼の妻です」ミセス・ライオンズは椅子に

(すわりなおした。かのじょはいすのひじかけをつかんでいた。つよくにぎりしめて、ぴんくの)

座りなおした。彼女は椅子の肘掛をつかんでいた。強く握りしめて、ピンクの

(つめがしろくなっているのがみえた。つま！かのじょはもういちどいった。つま！かれは)

爪が白くなっているのが見えた。「妻！」彼女はもう一度言った。「妻！彼は

(けっこんしていません　しゃーろっくほーむずはかたをすぼめた。しょうこをみせて)

結婚していません」シャーロックホームズは肩をすぼめた。「証拠を見せて

(ください！しょうこを！もししょうこがあるなら　もうれつなめのかがやきはことばいじょうに)

ください！証拠を！もし証拠があるなら....」猛烈な目の輝きは言葉以上に

(ゆうべんだった。そのつもりです　ほーむずはぽけっとからしょるいをなんさつか)

雄弁だった。「そのつもりです」ホームズはポケットから書類を何冊か

(ひっぱりだしていった。ここにふたりのしゃしんがあります。よねんまえによーくで)

引っ張り出して言った。「ここに二人の写真があります。四年前にヨークで

(とったものです。うらに　ばんでらーふさい　とかいてありますが、このおとこがだれかは)

撮ったものです。裏に『バンデラー夫妻』と書いてありますが、この男が誰かは

(おわかりでしょう。もしあなたがおあいになったことがあれば、おんなのほうも)

お分かりでしょう。もしあなたがお会いになった事があれば、女の方も

(わかるはずです。ここに、しんらいできるにんげんで、ばんでらーふさいとめんしきのあるかたが)

分かるはずです。ここに、信頼できる人間で、バンデラー夫妻と面識のある方が

(かいたじんぶつせつめいしょがあります。ふたりはそのときせんとおりばーのしがくを)

書いた人物説明書があります。二人はその時セント・オリバーの私学を

(けいえいしていました。ふうふのみもとをかくにんするのにぎもんがあるか、そのしょるいを)

経営していました。夫婦の身元を確認するのに疑問があるか、その書類を

(よんでみてください　かのじょはしょるいにぱらぱらとめをとおした。そのあとかのじょは)

読んでみてください」彼女は書類にパラパラと目を通した。その後彼女は

(じぼうじきになったじょせいのかたくこわばったひょうじょうでわたしたちをみあげた。)

自暴自棄になった女性の堅くこわばった表情で私たちを見上げた。

(ほーむずさん　かのじょはいった。このおとこは、おっととりこんするというじょうけんで、)

「ホームズさん」彼女は言った。「この男は、夫と離婚するという条件で、

(わたしにけっこんをもうしこみました。かれはわたしにうそをついていました。このあくとうは、)

私に結婚を申し込みました。彼は私に嘘をついていました。この悪党は、

(かんがえられるあらゆるほうほうでうそをつきました。ほんとうのことはひとことも)

考えられるあらゆる方法で嘘をつきました。本当のことは一言も

(はなしませんでした。でもなぜ、　なぜなの？なにもかもわたしのためだと)

話しませんでした。でもなぜ、―なぜなの？何もかも私のためだと

(おもっていました。でもいま、わたしはじぶんがただのべんりなどうぐにすぎないことが)

思っていました。でも今、私は自分がただの便利な道具に過ぎないことが

(わかりました。なぜ、ひとつもちかいをまもらないおとこのために、わたしがひみつをまもるひつようが)

分かりました。なぜ、一つも誓いを守らない男のために、私が秘密を守る必要が

(あるのでしょうか？なぜ、かれじしんのじゃあくなおこないのけっかから、かれをかばおうと)

あるのでしょうか？なぜ、彼自身の邪悪な行いの結果から、彼を庇おうと

(しなければならないのでしょうか？なんでもたずねてください。なにもかくすつもりは)

しなければならないのでしょうか？何でも尋ねてください。何も隠すつもりは

(ありません。ひとつだけちかっておきます。わたしがあのてがみをかいたとき、わたしをいちばん)

ありません。一つだけ誓っておきます。私があの手紙を書いた時、私を一番

(しんせつにしてくれたあのろうしんしにきがいがおよぶとはゆめにもおもいませんでした)

親切にしてくれたあの老紳士に危害が及ぶとは夢にも思いませんでした」

(わたしはあなたをぜんめんてきにしんようします　しゃーろっくほーむずはいった。きっと)

「私はあなたを全面的に信用します」シャーロックホームズは言った。「きっと

(このできごとについてじぶんからはなすのはくつうでしょうから、わたしがあなたに)

この出来事について自分から話すのは苦痛でしょうから、私があなたに

(おきたことをはなせば、おそらくそのほうがらくでしょう。もしわたしがなにかじゅうだいな)

起きたことを話せば、おそらくその方が楽でしょう。もし私がなにか重大な

(まちがいをはなせば、そこをしてきしてください。このてがみをだすことは)

間違いを話せば、そこを指摘してください。この手紙を出す事は

(すていぷるとんにしじされたんですね？かれがいったとおりに)

ステイプルトンに指示されたんですね？」「彼が言ったとおりに

(たいぷしました　おそらく、かれがいっためんかいのこうじつとは、あなたのりこんに)

タイプしました」「おそらく、彼が言った面会の口実とは、あなたの離婚に

(かんけいするそしょうひようをさーちゃーるずにえんじょしてもらうということですね？)

関係する訴訟費用をサー・チャールズに援助してもらうということですね？」

(そのとおりです　あなたがてがみをだしたあとになって、かれはそこに)

「そのとおりです」「あなたが手紙を出した後になって、彼はそこに

(いかないようにせっとくしたんですね？ほかのおとこがこういうもくてきでおかねを)

行かないように説得したんですね？」「他の男がこういう目的でお金を

(ちょうたつするのは、かれのめんつをきずつけるといいました。そしてかれはまずしい)

調達するのは、彼の面子を傷つけると言いました。そして彼は貧しい

(にんげんだけれども、わたしたちをひきはなすしょうがいぶつをとりのぞくためにさいごのいちぺにーまで)

人間だけれども、私たちを引き離す障害物を取り除くために最後の一ペニーまで

(つかうと　ひじょうにいっかんせいのあるじんぶつをえんじていますね。それからあなたはしんぶんの)

使うと」「非常に一貫性のある人物を演じていますね。それからあなたは新聞の

(しぼうきじをよむまでなにもしらなかった　はい　そしてかれはあなたに)

死亡記事を読むまで何も知らなかった」「はい」「そして彼はあなたに

(さーちゃーるずとのめんかいについてたごんしないことをやくそくさせた　そうです。)

サー・チャールズとの面会について他言しないことを約束させた」「そうです。

(かれはこのしがひじょうになぞめいたものだといいました。そして、もしこのじじつが)

彼はこの死が非常に謎めいたものだと言いました。そして、もしこの事実が

(おおやけになればまちがいなくわたしがうたがわれるといったのです。かれはわたしをおどして)

おおやけになれば間違いなく私が疑われると言ったのです。彼は私を脅して

(なにもいわせないようにしました　そうでしょうね。しかしなにもぎもんを)

何も言わせないようにしました」「そうでしょうね。しかし何も疑問を

(もたなかったのですか？かのじょはちゅうちょしてめをふせた。かれのほんしょうは)

持たなかったのですか？」彼女は躊躇して目を伏せた。「彼の本性は

(わかっていました　かのじょはいった。しかしかれがちかいをまもっていれば、わたしも)

分かっていました」彼女は言った。「しかし彼が誓いを守っていれば、私も

(ずっとひみつをまもったでしょう　ぜんたいとしてかんがえれば、あなたがぶじだったのは)

ずっと秘密を守ったでしょう」「全体として考えれば、あなたが無事だったのは

(こううんでした　しゃーろっくほーむずはいった。あなたがかれのひみつをにぎり、)

幸運でした」シャーロックホームズは言った。「あなたが彼の秘密を握り、

(そしてかれもしられているとわかっていて、それでもぶじでいられたとは。)

そして彼も知られていると分かっていて、それでも無事でいられたとは。

(あなたはこのすうかげつ、まさしくぜっぺきのふちをあるいていたのです。それではこのへんで)

あなたはこの数ヵ月、まさしく絶壁の縁を歩いていたのです。それではこの辺で

(しつれいします、みせすらいおんず。また、ちかぢかもういちど)

失礼します、ミセス・ライオンズ。また、近々もう一度

(おはなしすることになるでしょう)

お話しすることになるでしょう」