グスコーブドリの伝記5
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問題文
(「もっとのぼるんだ、もっと。もっとさ。そしたらさっきのまりをなげてごらん)
「もっとのぼるんだ、もっと。もっとさ。そしたらさっきのまりを投げてごらん
(くりのきをこすようにさ。そいつをそらになげるんだよ。なんだい。)
栗の木をこすようにさ。そいつを空になげるんだよ。なんだい。
(ふるえてるのかい。いくじなしだなあ。なげるんだよ。なげるんだよ。)
ふるえてるのかい。いくじなしだなあ。投げるんだよ。投げるんだよ。
(そら、なげるんだよ。」 ぶどりはしかたなくちからいっぱいにそれをあおぞらに)
そら、投げるんだよ。」 ブドリはしかたなく力いっぱいにそれを青空に
(なげたとおもいましたら、にわかにおひさまがまっくろにみえてさかさまにしたへ)
投げたと思いましたら、にわかにお日さまがまっくろに見えてさかさまに下へ
(おちました。そしていつか、そのおとこにうけとめられていたのでした。おとこは)
落ちました。そしていつか、その男に受けとめられていたのでした。男は
(ぶどりをじめんにおろしながらぶりぶりおこりだしました。)
ブドリを地面におろしながらぶりぶりおこりだしました。
(「おまえもいくじのないやつだ。なんというふにゃふにゃだ。おれがうけとめて)
「おまえもいくじのないやつだ。なんというふにゃふにゃだ。おれが受けとめて
(やらなかったらおまえはいまごろはあたまがはじけていたろう。おれはおまえのいのちの)
やらなかったらおまえは今ごろは頭がはじけていたろう。おれはおまえの命の
(おんじんだぞ。これからは、しつれいなことをいってはならん。ところで、さあ、)
恩人だぞ。これからは、しつれいなことをいってはならん。ところで、さあ、
(こんどはあっちのきへのぼれ。もすこしたったらごはんもたべさせてやるよ。」)
こんどはあっちの木へのぼれ。も少したったらごはんもたべさせてやるよ。」
(おとこはまたぶどりへあたらしいまりをわたしました。ぶどりははしごをもってつぎのきへ)
男はまたブドリへ新しいまりを渡しました。ブドリははしごを持って次の樹へ
(いってまりをなげました。 「よし、なかなかじょうずになった。)
行ってまりを投げました。 「よし、なかなかじょうずになった。
(「さあ、まりはたくさんあるぞ。なまけるな。きもくりのきならどれでも)
「さあ、まりはたくさんあるぞ。なまけるな。樹も栗の木ならどれでも
(いいんだ。」 おとこはぽけっとから、まりをとおばかりだしてぶどりにわたすと、)
いいんだ。」 男はポケットから、まりを十ばかりだしてブドリに渡すと、
(すたすたむこうへいってしまいました。ぶどりはまたみっつばかりそれをなげ)
すたすた向こうへ行ってしまいました。ブドリはまた三つばかりそれを投げ
(ましたが、どうしてもいきがはあはあしてからだがだるくてたまらなくなりました)
ましたが、どうしても息がはあはあしてからだがだるくてたまらなくなりました
(もういえへかえろうとおもって、そっちへいってみますと、おどろいたことには、)
もう家へ帰ろうと思って、そっちへ行ってみますと、おどろいたことには、
(いえにはいつかあかいどかんのえんとつがついて、とぐちには「いーはとーぶてぐすこうじょう」)
家にはいつか赤い土管の煙突がついて、戸口には「イーハトーブてぐす工場」
(というかんばんがかかっているのでした。そしてなかからたばこをふかしながら、)
という看板がかかっているのでした。そして中からたばこをふかしながら、
(さっきのおとこがでてきました。 「さあこども、たべものをもってきてやったぞ。)
さっきの男がでてきました。 「さあ子ども、たべものを持ってきてやったぞ。
(これをたべてくらくならないうちにもうすこしかせぐんだ。」 「ぼくはもう)
これを食べて暗くならないうちにもう少しかせぐんだ。」 「ぼくはもう
(いやだよ。うちへかえるよ。」 「うちっていうのはあすこか。あすこはおまえの)
いやだよ。うちへ帰るよ。」 「うちっていうのはあすこか。あすこはおまえの
(うちじゃない。おれのてぐすこうじょうだよ。あのいえもこのへんのもりもみんなおれが)
うちじゃない。おれのてぐす工場だよ。あの家もこのへんの森もみんなおれが
(かってあるんだからな。」 ぶどりはもうやけになって、だまってそのおとこの)
買ってあるんだからな。」 ブドリはもうやけになって、だまってその男の
(よこしたむしぱんをむしゃむしゃたべて、またまりをとおばかりなげました。)
よこしたむしパンをむしゃむしゃたべて、またまりを十ばかり投げました。