バスカヴィル家の犬１１

(しらないものはないはなしですからね。これまでそれをまじめにうけとったことは)

知らないものはない話ですからね。これまでそれを真面目に受け取った事は

(ありませんでしたが。しかしおじのしにかんしては、なにもかもがこんらんして)

ありませんでしたが。しかし叔父の死に関しては、....何もかもが混乱して

(どうかんがえてよいかわかりません。あなたもこれがけいさつのじけんかせいしょくしゃのじけんか、)

どう考えてよいかわかりません。あなたもこれが警察の事件か聖職者の事件か、

(こころをきめかねているようですね　そのとおりです　そんなおり、わたしのほてるに)

心を決めかねているようですね」「そのとおりです」「そんな折、私のホテルに

(こんなてがみがとどくというじけんがおきた。まさに、ぶたいそうちがととのったようですね)

こんな手紙が届くという事件が起きた。まさに、舞台装置が整ったようですね」

(こうやについて、わたしたちよりももっとくわしくしっているじんぶつがいるようですね)

「荒野について、私たちよりももっと詳しく知っている人物がいるようですね」

(もーてぃまーいしはいった。どうじに　ほーむずはいった。きけんを)

モーティマー医師は言った。「同時に」ホームズは言った。「危険を

(よこくしているということは、そのじんぶつはあなたにあくいをいだいていないようだ)

予告しているということは、その人物はあなたに悪意を抱いていないようだ」

(もしくは、なんらかのりゆうで、わたしをこわがらせておいはらいたいとおもっているじんぶつ)

「もしくは、何らかの理由で、私を怖がらせて追い払いたいと思っている人物

(かもしれない　なるほど、たしかにそういうかのうせいもある。もーてぃまーはかせ、)

かもしれない」「なるほど、確かにそういう可能性もある。モーティマー博士、

(こんなにいろいろとおもしろいかいしゃくをできるじけんをしょうかいしていただき、ほんとうに)

こんなに色々と面白い解釈をできる事件を紹介していただき、本当に

(ありがとうございます。しかしげんじつてきなもんだいてんとして、いまきめなければ)

ありがとうございます。しかし現実的な問題点として、今決めなければ

(ならないのは、さーへんりー、あなたがばすかヴぃるかんにいくべきか)

ならないのは、サー・ヘンリー、あなたがバスカヴィル館に行くべきか

(どうかです　いくべきではないりゆうがあるのですか？きけんがあるように)

どうかです」「行くべきではない理由があるのですか？」「危険があるように

(おもえるからです　きけんなのはばすかヴぃるけのあくまでしょうか、それとも)

思えるからです」「危険なのはバスカヴィル家の悪魔でしょうか、それとも

(なまみのにんげんにきけんなじんぶつがいるのでしょうか？それはまだわかりません)

生身の人間に危険な人物がいるのでしょうか？」「それはまだ分かりません」

(どちらにしても、わたしのこたえはきまっています。ほーむずさん、じごくのどんな)

「どちらにしても、私の答えは決まっています。ホームズさん、地獄のどんな

(あくまも、ちじょうのどんなにんげんも、わたしがせんぞだいだいのいえにいくのをひきとめることは)

悪魔も、地上のどんな人間も、私が先祖代々の家に行くのを引き止めることは

(できません。そしてこれをわたしのさいしゅうけつだんととらえていただいてけっこうです)

できません。そしてこれを私の最終決断ととらえていただいて結構です」

(かれは、こうはなしているとき、くろいまゆをよせ、かおをこうちょうさせた。ばすかヴぃるけの)

彼は、こう話しているとき、黒い眉を寄せ、顔を紅潮させた。バスカヴィル家の

(はげしいきしつが、さいごのそうぞくにんまでにみゃくみゃくとうけつがれてきたことはあきらかだった。)

激しい気質が、最後の相続人までに脈々と受け継がれてきた事は明らかだった。

(とはいえ　かれはいった。いまきいたはなしは、あまりにもとつぜんで、よくかんがえる)

「とはいえ」彼は言った。「今聞いた話は、あまりにも突然で、よく考える

(じかんがほとんどありませんでした。これはこのばでりかいしけつだんするには、)

時間がほとんどありませんでした。これはこの場で理解し決断するには、

(あまりにもおおきなもんだいです。ひとりでしずかにかんがえてけっしんするじかんがひつようです。)

あまりにも大きな問題です。一人で静かに考えて決心する時間が必要です。

(ほーむずさん、いま１１じはんです。わたしはすぐほてるにかえります。あなたと、ゆうじんの)

ホームズさん、今11時半です。私はすぐホテルに帰ります。あなたと、友人の

(わとそんはかせに２じにきていただき、ちゅうしょくをごいっしょしてもらえないでしょうか。)

ワトソン博士に2時に来て頂き、昼食をご一緒してもらえないでしょうか。

(このじけんをどううけとめるべきかについて、もっとはっきりへんとうできるように)

この事件をどう受け止めるべきかについて、もっとはっきり返答出来るように

(しておきます　それできみのつごうはいいかな、わとそん？もちろんだ)

しておきます」「それで君の都合はいいかな、ワトソン？」「もちろんだ」

(それではあとでおあいしましょう。つじばしゃをよびにやらせましょうか？)

「それでは後でお会いしましょう。辻馬車を呼びにやらせましょうか？」

(わたしはあるいていきたいですね。このはなしをきいて、かなりこんらんしてしまいました)

「私は歩いて行きたいですね。この話を聞いて、かなり混乱してしまいました」

(もちろん、わたしもつきあうよ　もーてぃまーいしがいった。ではまた２じに)

「もちろん、私も付き合うよ」モーティマー医師が言った。「ではまた2時に

(おあいしましょう。さようなら　ほうもんしゃがかいだんをおりていき、げんかんのとびらが)

お会いしましょう。さようなら」訪問者が階段を降りて行き、玄関の扉が

(ばたんとしまるおとがきこえた。そのしゅんかん、ほーむずはけだるいむそうかから)

バタンと閉まる音が聞こえた。その瞬間、ホームズはけだるい夢想家から

(こうどうのおとこへとへんぼうをとげた。ぼうしとくつを、わとそん、いそげ！いっしゅんもむだに)

行動の男へと変貌を遂げた。「帽子と靴を、ワトソン、急げ！一瞬も無駄に

(するな！かれはがうんをきたままじぶんのへやにとびこみ、すうびょうでうわぎをきて)

するな！」彼はガウンを着たまま自分の部屋に飛び込み、数秒で上着を着て

(もどってきた。わたしたちはいっしょにいそいでかいだんをおりてとおりにでた。)

戻ってきた。私たちは一緒に急いで階段を降りて通りに出た。

(おっくすふぉーどどおりのほうこうにむかうもーてぃまーいしとばすかヴぃるしのすがたは)

オックスフォード通りの方向に向かうモーティマー医師とバスカヴィル氏の姿は

(ぜんぽうやく２００やーどあたりにみえていた。わたしがはしっていって)

前方約200ヤードあたりに見えていた。「私が走っていって

(よびとめようか？それはぜったいだめだ、わとそん。きみがいっしょにきてくれるのは)

呼び止めようか？」「それは絶対だめだ、ワトソン。君が一緒に来てくれるのは

(ほんとうにありがたいが、ぼくのおもうようにさせてほしい。あのふたりはけんめいだったよ、)

本当にありがたいが、僕の思うようにさせてほしい。あの二人は賢明だったよ、

(まちがいなくさんぽにはぜっこうのひだ　かれは、ふたりまでのきょりがやくはんぶんになるまで、)

間違いなく散歩には絶好の日だ」彼は、二人までの距離が約半分になるまで、

(いそぎあしであるいた。それから、まだ１００やーどこうほうにはりついたまま、)

急ぎ足で歩いた。それから、まだ100ヤード後方に張り付いたまま、

(おっくすふぉーどがいにはいり、りーじぇんとがいをくだって、ぴったりとあとをつけた。)

オックスフォード街に入り、リージェント街を下って、ぴったりと後をつけた。

(かれらはいちどたちどまってみせのうぃんどーをのぞきこんだ。これにたいしてほーむずも)

彼らは一度立ち止まって店のウィンドーを覗き込んだ。これに対してホームズも

(おなじようなこうどうをとった。そのちょくご、かれはちいさくまんぞくするようなさけびをあげた。)

同じような行動をとった。その直後、彼は小さく満足するような叫びを上げた。

(そして、かれがくいいるようにみているしせんのほうこうをたどり、わたしはおとこがひとりだけ)

そして、彼が食い入るように見ている視線の方向をたどり、私は男が一人だけ

(のっているにりんばしゃをみつけた。それはとおりのはんたいがわにとまっていたが、また、)

乗っている二輪馬車を見つけた。それは通りの反対側に止まっていたが、また、

(ゆっくりとうごきだした。あれがもくてきのおとこだ、わとそん！こい！なにはともあれ、)

ゆっくりと動き出した。「あれが目的の男だ、ワトソン！来い！何はともあれ、

(あのおとこをじっくりかんさつしよう　そのしゅんかん、みだれたくろいあごひげをはやし、)

あの男をじっくり観察しよう」その瞬間、乱れた黒い顎髭を生やし、

(つきさすようなめをしたおとこが、ばしゃのまどごしにこちらをみたのがわかった。)

突き刺すような目をした男が、馬車の窓越しにこちらを見たのが分かった。

(すぐにずじょうのはねあげとがぱっとひらき、ぎょしゃになにかさけぶこえがきこえ、ばしゃは)

すぐに頭上の跳ね上げ戸がぱっと開き、御者に何か叫ぶ声が聞こえ、馬車は

(りーじぇんとがいをけたたましくとぶようにさっていった。ほーむずはべつのばしゃが)

リージェント街をけたたましく飛ぶように去っていった。ホームズは別の馬車が

(ないかとひっしでみまわしたがくうしゃはみつからなかった。そのあとかれは、いちかばちか)

ないかと必死で見回したが空車は見つからなかった。その後彼は、いちかばちか

(かけだしてばしゃのおうらいのあいだにおいかけようとした。しかしはっしゃがひじょうに)

駆け出して馬車の往来の間に追いかけようとした。しかし発車が非常に

(すばやかったので、ばしゃはすでにしかいからきえていた。)

素早かったので、馬車は既に視界から消えていた。