銀河鉄道の夜 29

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九、ジョバンニの切符 1/36
宮沢賢治 作
「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」

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問題文

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(きゅう、じょばんにのきっぷ)

九、ジョバンニの切符

(「もうここらははくちょうくのおしまいです。)

「もうここらは白鳥区のおしまいです。

(ごらんなさい。あれがなだかいあるびれおのかんそくじょです。」)

ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」

(まどのそとの、まるではなびでいっぱいのような、あまのがわのまんなかに、)

窓の外の、まるで花火でいっぱいのような、天の川のまん中に、

(くろいおおきなたてものがよんむねばかりたって、)

黒い大きな建物が四棟ばかり立って、

(そのひとつのひらやねのうえに、)

その一つの平屋根の上に、

(めもさめるような、さふぁいあと)

目もさめるような、青宝石(サファイア)と

(とぱーずのおおきなふたつのすきとおったたまが、)

黄玉(トパーズ)の大きな二つのすきとおった球が、

(わになってしずかにくるくるとまわっていました。)

輪になってしずかにくるくるとまわっていました。

(きいろのがだんだんむこうへまわっていって、)

黄いろのがだんだん向こうへまわって行って、

(あおいちいさいのがこっちへすすんでき、)

青い小さいのがこっちへ進んでき、

(まもなくふたつのはじは、かさなりあって、)

間もなく二つのはじは、重なり合って、

(きれいなみどりいろのりょうめんとつれんずのかたちをつくり、)

きれいな緑いろの両面凸レンズのかたちをつくり、

(それもだんだん、まんなかがふくらみだして、)

それもだんだん、まん中がふくらみ出して、

(とうとうあおいのは、すっかりとぱーずのしょうめんにきましたので、)

とうとう青いのは、すっかりトパーズの正面にきましたので、

(みどりのちゅうしんときいろなあかるいわとができました。)

緑の中心と黄いろな明るい環とができました。

(それがまただんだんよこへはずれて、)

それがまただんだん横へ外れて、

(まえのれんずのかたちをさかさにくりかえし、)

前のレンズの形を逆さにくりかえし、

(とうとうすっとはなれて、さふぁいあはむこうへめぐり、)

とうとうすっとはなれて、サファイアは向こうへめぐり、

(きいろのはこっちへすすみ、)

黄いろのはこっちへ進み、

など

(またちょうどさっきのようなふうになりました。)

またちょうどさっきのようなふうになりました。

(ぎんがの、かたちもなくおともないみずにかこまれて、)

銀河の、かたちもなく音もない水にかこまれて、

(ほんとうにそのくろいそっこうじょが、)

ほんとうにその黒い測候所が、

(ねむっているように、しずかによこたわってたのです。)

ねむっているように、しずかによこたわってたのです。

(「あれは、みずのはやさをはかるきかいです。みずも・・・。」)

「あれは、水の速さをはかる器械です。水も・・・。」

(とりとりがいいかけたとき、)

鳥とりがいいかけたとき、

(「きっぷをはいけんいたします。」)

「切符を拝見いたします。」

(さんにんのせきのよこに、あかいぼうしをかぶったせいのたかいしゃしょうが、)

三人の席の横に、赤い帽子をかぶったせいの高い車掌が、

(いつかまっすぐにたっていていいました。)

いつかまっすぐに立っていていいました。

(とりとりは、だまってかくしから、ちいさなかみきれをだしました。)

鳥とりは、だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。

(しゃしょうはちょっとみて、すぐめをそらして、)

車掌はちょっと見て、すぐ目をそらして、

((あなたがたのは?)というように、ゆびをうごかしながら、)

(あなた方のは?)というように、指をうごかしながら、

(てをじょばんにたちのほうへだしました。)

手をジョバンニたちの方へ出しました。

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