半七捕物帳 津の国屋7
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問題文
(「まあ、かわいそうだわねえ」と、もじはるもめをうるませた。)
「まあ、可哀そうだわねえ」と、文字春も眼をうるませた。
(「それからどうしたの」)
「それからどうしたの」
(「それからはちおうじへかえって、まもなくしんでしまっといううわさだ。)
「それから八王子へ帰って、間もなく死んでしまっという噂だ。
(いまもいうとおり、みをなげたかくびをくくったかしらねえが、)
今もいう通り、身を投げたか首をくくったか知らねえが、
(なにしろつのくにやをうらんでしんだにそういねえ。むすめはまあそれとして、)
なにしろ津の国屋を恨んで死んだに相違ねえ。娘はまあそれとして、
(そのあいてときめられたやねやのたけのやろうがおとなしくだまっているのが)
その相手と決められた屋根屋の竹の野郎がおとなしく黙っているのが
(おかしいとおもっていると、それからふたつきばかりたたねえうちに、)
おかしいと思っていると、それからふた月ばかり経たねえうちに、
(ちょうどなつのえんてんにでいりばのたかいやねへあがってしごとをしているとき、)
ちょうど夏の炎天に出入り場の高い屋根へあがって仕事をしている時、
(どうしたはずみかまっさかさまにころげおちて、あたまをぶちわってそれぎりよ。)
どうしたはずみか真っ逆さまにころげ落ちて、頭をぶち割ってそれぎりよ。
(そうなるとせけんではまたいろいろのことをいって、たけのやろうはつのくにやから)
そうなると世間では又いろいろのことを云って、竹の野郎は津の国屋から
(いくらかもらって、とくしんずくでだまっていたにそういねえ。あいつがへんしをしたのは)
幾らか貰って、得心ずくで黙っていたに相違ねえ。あいつが変死をしたのは
(むすめのおもいだと、まあこういうんだ」)
娘のおもいだと、まあこういうんだ」
(「こわいわねえ。わるいことはできないわねえ」と、もじはるはいまさらのように)
「怖いわねえ。悪いことは出来ないわねえ」と、文字春は今更のように
(ためいきをついた。)
溜息をついた。
(「どっちにしてもおやすというむすめはしぬ、そのあいてだというたけのやろうも)
「どっちにしてもお安という娘は死ぬ、その相手だという竹の野郎も
(つづいてしぬ。それでまあいちがさかえたというわけなんだが、ここにひとつ)
つづいて死ぬ。それでまあ市が栄えたという訳なんだが、ここに一つ
(ふしぎなことは、わすれもしねえいまからちょうどじゅうねんまえ・・・・・・。これはししょうも)
不思議なことは、忘れもしねえ今から丁度十年前……。これは師匠も
(しっているだろうが、つのくにやのじっしのおきよさんがぶらぶらやまいで)
知っているだろうが、津の国屋の実子のお清さんがぶらぶら病いで
(しんでしまった。そりゃあろうしょうふじょうでじゅみょうずくならしかたもねえわけだが、)
死んでしまった。そりゃあ老少不定で寿命ずくなら仕方もねえわけだが、
(そのしんだのがちょうどじゅうしちのとしで、せんのおやすというむすめとおないどしだ。)
その死んだのが丁度十七の年で、先のお安という娘と同い年だ。
(おやすもじゅうしちでしんだ。おきよもじゅうしちでしんだ。こうなるとちっとおかしい。)
お安も十七で死んだ。お清も十七で死んだ。こうなるとちっとおかしい。
(おもてむきにはだれもなんともいわねえが、せんのもらいむすめのいっけんをしっているものは、)
表向きには誰もなんとも云わねえが、先の貰い娘の一件を知っているものは、
(かげでいろいろのことをいっている。それにもうひとつおかしいのは、)
蔭でいろいろのことを云っている。それにもう一つおかしいのは、
(あのおきよさんのしぬまえにちょうどこんやのようなことがあったんだ」)
あのお清さんの死ぬ前にちょうど今夜のようなことがあったんだ」
(「とうりょう」 「いや、おどかすわけじゃあねえ」と、かねきちはわざとわらってみせた。)
「棟梁」 「いや、おどかす訳じゃあねえ」と、兼吉はわざと笑ってみせた。
(「じつはね、つのくにやのそうりょうむすめがわずらいつくに、さんにちまえのばんに、)
「実はね、津の国屋の総領娘がわずらいつく二、三日まえの晩に、
(きんじょのものがそとへでると、ちょうないのかどでひとりのむすめにあった。)
近所の者が外へ出ると、町内の角で一人の娘に逢った。
(むすめはなでしこのもようのゆかたをきて・・・・・・」)
娘は撫子の模様の浴衣を着て……」
(「もうよしてください。わかりましたよ」と、もじはるはもうみうごきが)
「もう止してください。わかりましたよ」と、文字春はもう身動きが
(できなくなったらしく、かたてをたたみについたままでめをすえていた。)
出来なくなったらしく、片手を畳に突いたままで眼を据えていた。
(「いや、もうちっとだ。そのむすめがどうしてもつのくにやのもらいむすめのおやすちゃんに)
「いや、もうちっとだ。その娘がどうしても津の国屋の貰い娘のお安ちゃんに
(そういねえので、おもわずこえをかけようとすると、むすめのすがたはきえてしまった)
相違ねえので、思わず声をかけようとすると、娘の姿は消えてしまった
(というはなしだ。おいらもそのはなしをかねてきいていたが、なにをいうのかとおもって)
という話だ。おいらもその話をかねて聞いていたが、なにを云うのかと思って
(ろくにきにもとめずにいたが、こんやのししょうのはなしをきいてみると、なるほどそれも)
碌に気にも留めずにいたが、今夜の師匠の話をきいてみると、成程それも
(うそじゃなかったらしい。そのおやすちゃんがまたおむかいにやってきたんだ。)
嘘じゃなかったらしい。そのお安ちゃんがまたお迎いにやって来たんだ。
(つのくにやのおゆきちゃんはことしじゅうしちになったからね」)
津の国屋のお雪ちゃんは今年十七になったからね」
(だいどころでかたりというおとがきこえたので、もじはるはまたぎょっとした。)
台所でかたりという音がきこえたので、文字春はまたぎょっとした。
(かしをかいにいったこおんながいまようやくかえってきたのであった。)
菓子を買いに行った小女が今ようやく帰って来たのであった。