半七捕物帳 湯屋の二階2
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問題文
(「だって、おかしいじゃありませんか。まあきいておくんなせえ。)
「だって、おかしいじゃありませんか。まあ聴いておくんなせえ。
(きょねんのふゆからかれこれもうごじゅうにちもまいにちつづけてくるんですぜ。)
去年の冬からかれこれもう五十日も毎日つづけて来るんですぜ。
(おおみそかでも、がんじつでも、ふつかでも・・・・・・。なんぼきんばんものだって、やしきものが)
大晦日でも、元日でも、二日でも……。なんぼ勤番者だって、屋敷者が
(がんじつふつかにゆやのにかいにころがっている。そんなりくつがねえじゃありませんか。)
元日二日に湯屋の二階にころがっている。そんな理窟がねえじゃありませんか。
(おまけに、それがひとりでねえ、たいていふたりづれでやってきて、ときどきどこかへ)
おまけに、それが一人でねえ、大抵二人連れでやって来て、時々どこかへ
(でたりはいったりして、ゆうがたになるときっといっしょにつながってかえっていく。)
出たり這入ったりして、夕方になるときっと一緒に繋がって帰って行く。
(それがくどくもいうとおり、くれもしょうがつもおかまいなしに、まいにちつづくんだから)
それが諄(くど)くもいう通り、暮も正月もお構いなしに、毎日続くんだから
(きみょうでしょう。どうかんがえてもこりゃあじんじょうのさむれえじゃ)
奇妙でしょう。どう考えてもこりゃあ尋常の武士(さむれえ)じゃ
(ありませんぜ」)
ありませんぜ」
(「そうよなあ」と、はんしちはすこしまじめになってかんがえはじめた。)
「そうよなあ」と、半七は少しまじめになって考えはじめた。
(「どうです。おやぶんはそいつらをなんだとおもいます」)
「どうです。親分はそいつ等をなんだと思います」
(「にせものかな」)
「偽物かな」
(「えらい」と、くまぞうはてをうった。「わっしもきっとそれだと)
「えらい」と、熊蔵は手を拍(う)った。「わっしもきっとそれだと
(にらんでいるんです。やつらはさむれえのふりをしてなにかしごとをしているに)
睨んでいるんです。奴らは武士の振りをして何か仕事をしているに
(そういねえんです。で、ひるまはわたしのうちのにかいにあつまって、なにかこそこそ)
相違ねえんです。で、昼間は私の家の二階にあつまって、何かこそこそ
(そうだんをしておいて、よるになってあらっぽいことをしやがるにそういねえと)
相談をして置いて、夜になって暴(あら)っぽいことをしやがるに相違ねえと
(おもうんだが、どうでしょう」)
おもうんだが、どうでしょう」
(「そんなことかもしれねえ。そのふたりはどんなやつらだ」)
「そんなことかも知れねえ。その二人はどんな奴らだ」
(「どっちもわけえやつで・・・・・・。ひとりのやろうはにじゅうにさんでいろのこじろい、)
「どっちも若けえ奴で……。一人の野郎は二十二三で色の小白い、
(まんざらでもねえおとこっぷりです。もうひとりもおなじとしごろの、かたほうよりは)
まんざらでもねえ男っ振りです。もう一人もおなじ年頃の、片方よりは
(せのたかい、これもあんまりやすっぽくねえやろうです。そうとうにどうらくもした)
背の高い、これもあんまり安っぽくねえ野郎です。相当に道楽もした
(やつらだとみえて、ちゃだいのおきっぷりもわるくなし、おんなをあいてにいわしや)
奴らだとみえて、茶代の置きっ振りも悪く無し、女を相手に鰯(いわし)や
(くじらのはなしをしているほどのくにものでもなし、じつはおきちなんぞは)
鯨の話をしているほどの国者(くにもの)でも無し、実はお吉なんぞは
(そのいろのこじろいほうにすこしぽうときているらしいんで・・・・・・。あきれるじゃ)
その色の小白い方に少しぽうと来ているらしいんで……。呆れるじゃ
(ありませんか。それですからやつらがにかいでどんなそうだんをしているか、)
ありませんか。それですから奴らが二階でどんな相談をしているか、
(おきちにきいてもどうもしょうじきにいわねえようです。わたしがきょうそっとはしごの)
お吉に訊いてもどうも正直に云わねえようです。私がきょうそっと梯子の
(ちゅうとまでのぼっていって、やつらがどんなはなしをしているかと、みみをひったてて)
中途まで昇って行って、奴らがどんな話をしているかと、耳を引っ立てて
(いると、ひとりのやつがちいさいこえで、「むやみにきったりしてはいけない。)
いると、一人の奴が小さい声で、『無暗に斬ったりしてはいけない。
(すなおにいうことをきけばよし、ぐずぐずいったらしかたがない、)
素直に云うことを肯(き)けばよし、ぐずぐず云ったら仕方がない、
(おどかしてとっつかまえるのだ」と、こういっているんです。ねえ、どうです。)
嚇かして取っ捉まえるのだ』と、こう云っているんです。ねえ、どうです。
(「むむ」と、はんしちはまたかんがえた。)
「むむ」と、半七はまた考えた。
(くろふねのほかげがいずのうみをおどろかしてから、よのなかはしだいにさわがしく)
黒船の帆影が伊豆の海を驚かしてから、世の中は漸次(しだい)にさわがしく
(なった。いてきをせいばつするぐんようきんをだせとかいって、ものもちの)
なった。夷狄を征伐する軍用金を出せとか云って、富裕(ものもち)の
(まちやをおどしてあるくいっしゅのろうにんぐみがちかごろところどころにはいかいする。しかも、そのなかに)
町家を嚇してあるく一種の浪人組が近頃所々に徘徊する。しかも、その中に
(ほんとうのろうにんはすくない。たいていはたちのわるいごけにんどもや、おしろぼうずの)
ほんとうの浪人は少ない。大抵は質(たち)の悪い御家人どもや、お城坊主の
(どうらくむすこどもや、あるいはしちゅうのならずものどもが、どうきあいもとむる)
道楽息子どもや、或いは市中の無頼漢(ならずもの)どもが、同気相求むる
(ととうをくんで、ぐんようきんなどというていさいのいいみょうもくのもとに、)
徒党を組んで、軍用金などという体裁の好い名目(みょうもく)のもとに、
(りふじんのおしがりやごうとうをはたらくのである。くまぞうのにかいをさくげんちとしているらしい)
理不尽の押借りや強盗を働くのである。熊蔵の二階を策源地としているらしい
(かのふたりのあやしいぶしも、あるいはそのいっしゅではないかとはんしちはそうぞうした。)
彼(か)の二人の怪しい武士も、或いはその一種ではないかと半七は想像した。
(「じゃあ、なにしろあしたおれがみとどけにいこうよ」)
「じゃあ、なにしろ明日おれが見とどけに行こうよ」
(「おまちもうしています。ひるごろならばやつらもまちがいなくきて)
「お待ち申しています。午(ひる)ごろならば奴らも間違いなく来て
(いますから」と、くまぞうはやくそくしてかえった。)
いますから」と、熊蔵は約束して帰った。