半七捕物帳 お化け師匠4
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問題文
(はんしちはすこしかがんでよくみると、くろいへびはあまりおおきくなかった。)
半七は少しかがんでよく視ると、黒い蛇は余り大きくなかった。
(ようよういっしゃくぐらいのものらしく、そのおはおんなのくびすじにゆるくまきついて、)
ようよう一尺ぐらいのものらしく、その尾は女の頸筋にゆるく巻きついて、
(そのひらたいくびはふとんのうえにしんだようにぐたりとたれていた。)
その扁平(ひらた)い首は蒲団の上に死んだようにぐたりと垂れていた。
(いきているのかしらと、はんしちはゆびのさきでかるくそのあたまをはじいてみると、)
生きているのかしらと、半七は指のさきで軽くその頭を弾いてみると、
(へびはぬうとかまくびをながくあげた。それをみてすこしかんがえていたはんしちは、)
蛇はぬうと鎌首を長くあげた。それを見て少しかんがえていた半七は、
(ふところからはながみのたたんだのをだして、そのあたまをまたかるくおさえると、)
ふところから鼻紙の畳んだのを出して、その頭を又軽く押さえると、
(へびはものにおそれるようにくびをすくませて、ふとんのうえへおとなしく)
蛇は物に恐れるように首をすくませて、蒲団の上へおとなしく
(くびをたれてしまった。)
首を垂れてしまった。
(かやをぬけだしてきて、はんしちはえんがわのちょうずばちでてをあらって、)
蚊帳をぬけ出して来て、半七は縁側の手水鉢で手を洗って、
(もとのよじょうはんへもどった。)
もとの四畳半へ戻った。
(「わかりましたか」と、いえぬしはまちかねたようにきいた。)
「判りましたか」と、家主(いえぬし)は待ち兼ねたように訊いた。
(「さあ、まだなんとももうされませんね。いずれごけんしがみえたらば)
「さあ、まだ何とも申されませんね。いずれ御検視が見えたらば
(またおかかりのおかんがえもありましょう。わたくしはひとまずこれでおいとまを)
又お係りのお考えもありましょう。わたくしは一と先ずこれでお暇(いとま)を
(いたします」)
いたします」
(とりとめたへんじをうけとらないですこししつぼうしたらしいいえぬしのかおをあとにのこして、)
取り留めた返事を受け取らないで少し失望したらしい家主の顔をあとに残して、
(はんしちはそうそうにここをでると、げんじもつづいておもてへでた。)
半七は早々にここを出ると、源次もつづいて表へ出た。
(「おやぶん。どうでした」)
「親分。どうでした」
(「あのじょちゅうはまだわかいようだな。じゅうしちはちか」と、はんしちはだしぬけにきいた。)
「あの女中はまだ若いようだな。十七八か」と、半七はだしぬけに訊いた。
(「じゅうしちだということです。だが、あいつがまさかやったんじゃあ)
「十七だということです。だが、あいつが真逆(まさか)やったんじゃあ
(ありますまい」)
ありますまい」
(「むむ」と、はんしちはかんがえていた。「だが、なんともいえねえ。)
「むむ」と、半七は考えていた。「だが、なんとも云えねえ。
(おめえだからいってきかせるが、ししょうはへびがころしたんじゃあねえ。)
おめえだから云って聞かせるが、師匠は蛇が殺したんじゃあねえ。
(にんげんがしめころしておいて、あとからへびをまきつけたにそういねえ。)
人間が絞め殺して置いて、あとから蛇を巻きつけたに相違ねえ。
(おまえもそのつもりで、あのじょちゅうはもちろんのこと、ほかのでいりのものにも)
お前もそのつもりで、あの女中は勿論のこと、ほかの出入りの者にも
(きをつけろ」)
気をつけろ」
(「じゃあ、しんだもののしゅうねんじゃありませんかね」と、げんじは)
「じゃあ、死んだ者の執念じゃありませんかね」と、源次は
(まだうたがうようなめをしていた。)
まだ疑うような眼をしていた。
(「しんだもののしゅうねんもかかっているかしれねえが、いきたもののしゅうねんも)
「死んだ者の執念もかかっているか知れねえが、生きた者の執念も
(かかっているにそういねえ。おれはこれからちっとこころあたりをついてくるから、)
かかっているに相違ねえ。おれはこれからちっと心当りを突いて来るから、
(おめえもじょさいなくやってくれ。そこで、どうだろう。)
おめえも如才なくやってくれ。そこで、どうだろう。
(あのししょうはちっとはかねをもっていたらしいか」)
あの師匠はちっとは金を持っていたらしいか」
(「あのよくばりですからね。こがねをためていたでしょうよ」)
「あの慾張りですからね。小金を溜めていたでしょうよ」
(「おとこでもあったようすはねえか」)
「情夫(おとこ)でもあった様子はねえか」
(「このごろはよくいっぽうのようでしたね」)
「この頃は慾一方のようでしたね」
(「そうか。じゃあ、なにしろたのむよ」)
「そうか。じゃあ、なにしろ頼むよ」
(いいかけてふとみかえると、うちのまえにたってこわごわとのぞいている)
云いかけてふと見かえると、家の前に立ってこわごわと覗いている
(おおぜいのむれからすこしはなれて、ひとりのわかいおとこがこっちのはなしにききみみを)
大勢の群れから少し離れて、一人の若い男がこっちの話に聴き耳を
(たてているらしく、ときどきにぬすむようなめをしてふたりのかおいろを)
立てているらしく、時々に偸(ぬす)むような眼をして二人の顔色を
(うかがっているのがはんしちのめについた。)
窺っているのが半七の眼についた。
(「おい、あのおとこはなんだ。おめえしらねえか」と、はんしちはこごえでげんじにきいた。)
「おい、あの男はなんだ。おめえ知らねえか」と、半七は小声で源次に訊いた。
(「あれはちょうないのきょうじやのせがれで、やさぶろうというんです」)
「あれは町内の経師職(きょうじや)の伜で、弥三郎というんです」
(「ししょうのうちへではいりすることはねえか」)
「師匠の家へ出這入りすることはねえか」
(「きょねんまではまいばんけいこにいっていたんですが、わかいししょうがしんでから)
「去年までは毎晩稽古に行っていたんですが、若い師匠が死んでから
(ちっともあしぶみをしねえようです。あいつばかりじゃあねえ。)
ちっとも足踏みをしねえようです。あいつばかりじゃあねえ。
(わかいししょうがいなくなってから、たいていのおとこのでしはみんな)
若い師匠がいなくなってから、大抵の男の弟子はみんな
(ちってしまったようですよ。げんきんなもんですね」)
散ってしまったようですよ。現金なもんですね」
(「ししょうのてらはどこだ」)
「師匠の寺はどこだ」
(「こうとくじまえのみょうしんじです。きょねんのとむれえのときにわたしもちょうないの)
「広徳寺前の妙信寺です。去年の送葬(とむれえ)のときに私も町内の
(つきあいでいってやったから、よくしっています」)
附き合いで行ってやったから、よく知っています」
(「むむ、みょうしんじか」)
「むむ、妙信寺か」