半七捕物帳 お化け師匠7

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投稿者投稿者さうっちゃんいいね2お気に入り登録
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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第五話

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問題文

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(「おまえさんごきとくにまいつきこのはかへおまいりにきなさるそうですね」と、)

「おまえさん御奇特に毎月この墓へお詣りに来なさるそうですね」と、

(はんしちはまずなにげなしにいった。)

半七は先ず何げなしに云った。

(「へえ、わかいししょうのところへはちっとばかりけいこにいったもんですから」と、)

「へえ、若い師匠のところへはちっとばかり稽古に行ったもんですから」と、

(やさぶろうはていねいにこたえた。かれはきのうのあさいらい、はんしちのみぶんを)

弥三郎は丁寧に答えた。彼はきのうの朝以来、半七の身分を

(たいていさっしているらしかった。)

大抵察しているらしかった。

(「そこで、くどいことはいわねえ、てみじかにはなしをかたづけるが、)

「そこで、くどいことは云わねえ、手短に話を片付けるが、

(おまえさんはしんだわかいししょうとどうかしていたんだろうね」)

おまえさんは死んだ若い師匠とどうかしていたんだろうね」

(やさぶろうのかおいろはかわった。かれはだまってうつむいて、ひざのしたのあおいはを)

弥三郎の顔色は変った。かれは黙って俯向いて、膝の下の青い葉を

(むしっていた。)

むしっていた。

(「ねえ、しょうじきにいってもらおうじゃねえか。おまえさんがわかいししょうと)

「ねえ、正直に云って貰おうじゃねえか。おまえさんが若い師匠と

(どうかしていた。ところが、ししょうはあんなみじめなしにざまをした。)

どうかしていた。ところが、師匠はあんな惨めな死に様をした。

(ちょうどそのいっしゅうきにおおししょうがまたこんなことになった。いんねんといえばふしぎな)

丁度その一周忌に大師匠が又こんなことになった。因縁といえば不思議な

(いんねんだが、ただふしぎだとばかりいっちゃいられねえ。わかいししょうのかたきを)

因縁だが、ただ不思議だとばかり云っちゃいられねえ。若い師匠のかたきを

(とるために、おまえさんがおおししょうをどうかしたんじゃねえかと、)

取るために、お前さんが大師匠をどうかしたんじゃねえかと、

(せけんでもっぱらひょうばんしている。それがかみのみみにもはいっている」)

世間で専(もっぱ)ら評判している。それが上(かみ)の耳にもはいっている」

(「とんでもねえこと・・・・・・。わたくしがどうしてそんな・・・・・・」と、)

「飛んでもねえこと……。わたくしがどうしてそんな……」と、

(やさぶろうはくちびるをふるわせながらあわててうちけそうとした。)

弥三郎は口唇(くちびる)をふるわせながら慌てて打ち消そうとした。

(「いや、おまえさんがしたんでねえことはわたしはしっている。)

「いや、おまえさんがしたんでねえことは私は知っている。

(わたしはかんだのはんしちというごようききだ。せけんのひょうばんをあてにして)

わたしは神田の半七という御用聞きだ。世間の評判をあてにして

(つみとがもねえものをむやみにどうするのこうするのと、そんなむじひな)

罪科(つみとが)もねえ者を無暗にどうするの斯うするのと、そんな無慈悲な

など

(ことはしたくねえ。そのかわりになにもかもしょうじきにいってくれなけりゃあこまる。)

ことはしたくねえ。その代わりに何もかも正直に云ってくれなけりゃあ困る。

(いいかい、わかったかね。そこでいまのいっけんだが、おまえさん、まったくわかいししょうと)

いいかい、判ったかね。そこで今の一件だが、お前さん、まったく若い師匠と

(どうかしていたんだろうね。え、うそをいっちゃあいけねえ。このはかのなかには)

どうかしていたんだろうね。え、嘘をいっちゃあいけねえ。この墓の中には

(わかいししょうがはいっているんだぜ。そのまえでうそをつかれたぎりじゃああるめえ」)

若い師匠がはいっているんだぜ。その前で嘘をつかれた義理じゃああるめえ」

(と、はんしちははかをさしておどすようにいった。)

と、半七は墓を指して嚇(おど)すように云った。

(はなたてのはなもきょうはもうしおれて、ききょうもおみなえしもかわいたはを)

花立ての花もきょうはもう萎(しお)れて、桔梗も女郎花も乾いた葉を

(たれていた。やさぶろうはじっとそれをみつめているうちに、)

垂れていた。弥三郎はじっとそれを見つめているうちに、

(かれのまつげはいつかうるんできた。)

彼の睫毛はいつかうるんで来た。

(「おやぶん。なにもかもしょうじきにもうしあげます、じつはおととしのなつごろから)

「親分。なにもかも正直に申し上げます、実はおととしの夏頃から

(ししょうのところへまいばんけいこにいくうちに、わかいししょうと・・・・・・。けれども、おやぶん、)

師匠のところへ毎晩稽古にいくうちに、若い師匠と……。けれども、親分、

(しょうじきのところ、いちどもわるいことはしたおぼえはありません。ししょうはあのとおりの)

正直のところ、一度も悪いことはした覚えはありません。師匠はあの通りの

(びょうしんですし、わたくしもこのとおりきのよわいほうですから、おおししょうのめをしのんで)

病身ですし、わたくしもこの通り気の弱い方ですから、大師匠の眼を忍んで

(ただまあうちとけてはなしをするぐらいのことで・・・・・・。それでもたったいちど、)

唯まあ打ち解けて話をするぐらいのことで……。それでもたった一度、

(きょねんのはるでした。わかいししょうといっしょにここにはかまいりにきたことがありました。)

去年の春でした。若い師匠と一緒にここに墓参りに来たことがありました。

(そのときにししょうは、どうしてもうちにいられないことがあるから、)

その時に師匠は、どうしても家にいられないことがあるから、

(どこへかつれていってくれというんです。いまおもえば、いっそそのときに)

どこへか連れて行ってくれと云うんです。今思えば、いっそその時に

(おもいきってどうかすればよかったんですが、わたくしもりょうしんはあり、)

思い切ってどうかすればよかったんですが、わたくしも両親はあり、

(おとうとやいもうとはあり、それをうっちゃってかけおちをするわけにも)

弟や妹はあり、それを打捨(うっちゃ)って駈け落ちをするわけにも

(いかないので、ともかくもししょうをなだめてぶじにかえしたんですが、)

行かないので、ともかくも師匠をなだめて無事に帰したんですが、

(それからまもなくししょうはどっとねつくようになって、とうとうあんなことに)

それから間もなく師匠はどっと寝付くようになって、とうとうあんなことに

(なってしまいました。それをかんがえると、わたくしはなんだかししょうをみごろしに)

なってしまいました。それを考えると、わたくしは何だか師匠を見殺しに

(したようで、あけてもくれてもきがとがめてなりませんから、まいつきそのわびながら)

したようで、明けても暮れても気が咎めてなりませんから、毎月その詫びながら

(はかまいりにはかかさずにくるようにしています。ただそれだけのことで、)

墓参りには欠かさずに来るようにしています。唯それだけのことで、

(こんどのおおししょうのことにはなんにもかかりあいはありません。)

今度の大師匠のことには何にもかかり合いはありません。

(おおししょうがへびにころされたときいたときには、わたくしはおもわずぞっとしました。)

大師匠が蛇に殺されたと聞いた時には、わたくしは思わずぞっとしました。

(なにしろ、それがちょうどわかいししょうのいっしゅうきというんですから」)

なにしろ、それが丁度若い師匠の一周忌というんですから」

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