半七捕物帳 半鐘の怪3

背景
投稿者投稿者さうっちゃんいいね1お気に入り登録
プレイ回数417難易度(4.5) 2511打 長文 長文モード可
岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第六話
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kkk4015 4973 B 5.1 96.7% 482.0 2480 83 40 2024/10/21

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(それはおきたがめにみえないようかいにおびやかされてからいつかほどあとのことで)

それはお北が眼に見えない妖怪におびやかされてから五日ほど後のことで

(あった。しょとうのながじけがようやくはれたので、どこのいどばたでも)

あった。初冬の長霖(ながじけ)がようやく晴れたので、どこの井戸端でも

(おかみさんたちがせんたくものにいそがしかった。どこのものほしにもしろいそでや)

おかみさん達が洗濯物に忙しかった。どこの物干にも白い袖や

(あかいすそのかげが、あおいふゆぞらのしたにひらひらとゆれていた。)

紅い裳(すそ)のかげが、青い冬空の下にひらひらと揺れていた。

(それもひのくれるころにはしだいにかずがへって、はんこやのものほしに)

それも日の暮れる頃には次第に数が減って、印判屋(はんこや)の物干に

(かかっているこどものあかいきものにまいだけが、しょうがつのゆうぐれに)

かかっている小児(こども)のあかい着物二枚だけが、正月のゆうぐれに

(おちのこったたこのようにりょうそでをさむそうにひろげていた。ここのおかみさんが)

落ち残った凧のように両袖を寒そうに拡げていた。ここのおかみさんが

(よぼしにしておくつもりらしかった。そのきものがしぜんに)

夜干(よぼし)にして置くつもりらしかった。その着物が自然に

(あるきだしたのであった。)

あるき出したのであった。

(「あれ、あれ、きものが・・・・・・」と、おうらいをとおるものがみつけてさわぎだしたので、)

「あれ、あれ、着物が……」と、往来を通る者が見つけて騒ぎ出したので、

(きんじょのひとたちもおもてへかけだしてあおむくと、あかいきもののいちまいはさながらたましいでも)

近所の人達も表へ駈け出して仰向くと、赤い着物の一枚はさながら魂でも

(やどったようにものほしざおをはなれて、ゆうやみのなかをふらふらとまよってゆくのであった。)

宿ったように物干竿を離れて、ゆう闇の中をふらふらと迷ってゆくのであった。

(かぜにふかれたのではない、となりのやねからやねへとつたわって、あしがあるように)

風に吹かれたのではない、隣りの屋根から屋根へと伝わって、足があるように

(あるいていくのであった。ひとびともおどろいてこえをあげてさわいだ。)

歩いて行くのであった。人々もおどろいて声をあげて騒いだ。

(あるものはいしをひろってなげつけた。きもののほうでもこれにおどろかされたらしく、)

ある者は石を拾って投げ付けた。着物の方でもこれに驚かされたらしく、

(あかいすそをひいてとぶようにはしりだしたとおもううちに、しちやのたかい)

紅い裳(すそ)をひいて飛ぶように走り出したと思ううちに、質屋の高い

(どぞうのかげにきえてしまった。はんこやのおかみさんはあおくなってふるえた。)

土蔵のかげに消えてしまった。印判屋のおかみさんは蒼くなってふるえた。

(これがまたちょうないをさわがしたあとに、そのきものはしちやのうらにわのたかいえだに)

これがまた町内を騒がした後に、その着物は質屋の裏庭の高い枝に

(かかっているのをはっけんした。そこでろんぎはふたつにわかれた。)

かかっているのを発見した。そこで論議は二つに分かれた。

(おきたがおびやかされたじけんからかんがえると、それはめにみえないようかいの)

お北がおびやかされた事件からかんがえると、それは眼にみえない妖怪の

など

(しわざであるらしくもおもわれたが、はんこやのほしものをさらっていったじけんから)

仕業であるらしくも思われたが、印判屋の干物をさらって行った事件から

(そうぞうすると、それはにんげんのしわざらしくもおもわれた。もちろん、あとのばあいにも)

想像すると、それは人間の仕業らしくも思われた。勿論、後の場合にも

(だれもそのしょうたいをみとどけたものはなかったが、なにものかがそのきもののかげに)

誰もその正体を見とどけた者はなかったが、何者かがその着物のかげに

(かくれているのではないかというはんだんがつかないでもなかった。)

隠れているのではないかという判断が付かないでもなかった。

(ようかいか、にんげんか、このふたつのぎろんはよういにいっちしなかったが、)

妖怪か、人間か、この二つの議論は容易に一致しなかったが、

(ここにこうしゃのせつについてゆうりょくのしょうこがあらわれた。ちょうないのかじやのでしに)

ここに後者の説について有力の証拠があらわれた。町内の鍛冶屋の弟子に

(ごんたろうといういたずらこぞうがあって、かれがそのひのゆうがたにしちやのとなりのかきねに)

権太郎という悪戯小僧があって、彼がその日の夕方に質屋の隣りの垣根に

(よじのぼっているところをみつけたものがあった。)

攀(よ)じ登っているところを見付けた者があった。

(「ごんのやろうにそういない」)

「権の野郎に相違ない」

(ひとさわがせのいたずらものはごんたろうにきめられてしまった。ごんたろうはことしじゅうしで、)

人騒がせの悪戯者は権太郎に決められてしまった。権太郎は今年十四で、

(ちょうないでもひょうばんのいたずらこぞうにそういなかった。)

町内でも評判のいたずら小僧に相違なかった。

(「こいつ、とほうもねえやろうだ。ごきんじょへたいしてもうしわけがねえ」)

「こいつ、途方もねえ野郎だ。御近所へ対して申し訳がねえ」

(かれはおやかたやあにでしにふくろだたきにされて、それからじしんばんへひきずっていって)

かれは親方や兄弟子に袋叩きにされて、それから自身番へ引き摺って行って

(さんざんあやまらせられたが、ごんたろうはすなおにはくじょうしなかった。しちやのとなりのにわへ)

さんざん謝らせられたが、権太郎は素直に白状しなかった。質屋の隣りの庭へ

(しのびこもうとしたのは、うまそうなかきのみをぬすもうがためであって、)

忍び込もうとしたのは、うまそうな柿の実を盗もうがためであって、

(はんしょうをついたりほしものをさらったり、そんないたずらをしたおぼえはないと)

半鐘をついたり干物をさらったり、そんな悪戯をした覚えはないと

(ごうじょうをはったが、だれもそれをうけつけるものはなかった。かれがごうじょうをはれば)

強情を張ったが、誰もそれを受け付ける者はなかった。彼が強情を張れば

(はるほど、みんなにいよいよにくまれて、じしんばんではぼうでなぐられた。)

張るほど、みんなにいよいよ憎まれて、自身番では棒でなぐられた。

(おまけにりょうてをなわでしばられて、いたのまになっているろくじょうへ)

おまけに両手を縄で縛られて、板の間になっている六畳へ

(ほうりこまれてしまった。)

ほうり込まれてしまった。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告

さうっちゃんのタイピング

オススメの新着タイピング

タイピング練習講座 ローマ字入力表 アプリケーションの使い方 よくある質問

人気ランキング

注目キーワード