半七捕物帳 半鐘の怪4

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第六話
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kkk4015 4987 B 5.1 97.1% 816.1 4195 125 67 2024/10/22

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問題文

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(これでもんだいもまずかいけつしたとあんしんしていたちょうないのひとたちは、そのよなかに)

二 これで問題もまず解決したと安心していた町内の人たちは、その夜なかに

(またもやはんしょうのおとにおどろかされた。はんしょうはあたかもごんたろうのむじつを)

又もや半鐘の音におどろかされた。半鐘はあたかも権太郎の冤罪(むじつ)を

(しょうめいするようにあざやかなおとをたててひびいた。このあいだからしゅもくは)

証明するように鮮やかな音を立てて響いた。このあいだから撞木は

(とりはずしてあるのに、だれがどうしたのかはんしょうはやはりいつものようになった。)

取りはずしてあるのに、誰がどうしたのか半鐘はやはりいつものように鳴った。

(もうこうなるとにんげんわざではないらしくなってきた。ひとちょうないのものはまたおびえて、)

もうこうなると人間業ではないらしくなって来た。一町内の者はまたおびえて、

(ふたたびそうででひのみばしごをけいかいすることになったが、そのけいかいのきびしいあいだは、)

再び総出で火の見梯子を警戒することになったが、その警戒のきびしい間は、

(おとなしくだまっていた。けいかいがすこしゆるむと、はんしょうはまたすぐにさけびだした。)

おとなしく黙っていた。警戒が少しゆるむと、半鐘は又すぐに叫び出した。

(こんなふあんなじょうたいがこひとつきもつづいたので、にんげんのほうもつかれてきた。)

こんな不安な状態が小ひと月もつづいたので、人間の方も疲れて来た。

(もうこのうえはどうしていいかわからなくなった。)

もうこの上はどうしていいか判らなくなった。

(「おさむくなりました」 「おお、はんしちさんか。まあこっちへ」)

「お寒くなりました」 「おお、半七さんか。まあこっちへ」

(じしんばんにちょうどつめていたいえぬしがわらいがおをつくってはんしちを)

自身番にちょうど詰めていた家主(いえぬし)が笑い顔をつくって半七を

(むかえた。それははんしちろうじんがいまこのはなしをしているときとおなじような、)

迎えた。それは半七老人が今この話をしているときと同じような、

(じゅういちがつはじめのしぐれかかったひで、みせさきのおおきいろには)

十一月はじめの時雨(しぐ)れかかった日で、店さきの大きい炉には

(すみびがあかくもえていた。はんしちはみせへあがってろにてをかざした。)

炭火が紅く燃えていた。半七は店へあがって炉に手をかざした。

(「なんだかそうぞうしいことがあるというじゃありませんか。ごしんぱいですね」)

「なんだか騒々しいことがあると云うじゃありませんか。御心配ですね」

(「おまえさんもたいていおききこみだろうが、じつにこまっているんですよ」と、)

「おまえさんも大抵お聞き込みだろうが、実に困っているんですよ」と、

(いえぬしはかおをしかめていった。「どうでしょう。おまえさんのおみこみは・・・・・・」)

家主は顔をしかめて云った。「どうでしょう。お前さんのお見込みは……」

(「そうですねえ」と、はんしちもくびをかしげていた。「じつはわたくしも)

「そうですねえ」と、半七も首をかしげていた。「実はわたくしも

(くわしいはなしはしらないんですが、そのごんとかいういたずらこぞうじゃないんですね」)

詳しい話は知らないんですが、その権とかいう悪戯小僧じゃないんですね」

(「ごんをしばっておいても、はんしょうはやっぱりなるんだからしかたがない。)

「権を縛って置いても、半鐘はやっぱり鳴るんだから仕方がない。

など

(で、ごんはまずしゅじんのほうへかえしてやりましたよ」)

で、権は先ず主人の方へ帰してやりましたよ」

(このあいだからのくわしいじじょうをいえぬしからきかされて、はんしちはめをつむって)

この間からの詳しい事情を家主から聞かされて、半七は眼をつむって

(かんがえていた。)

考えていた。

(「わたくしにもまだけんとうがつきませんが、まあなんとかくふうしてみましょう。)

「わたくしにもまだ見当が付きませんが、まあ何とか工夫して見ましょう。

(もっとはやくでるとよかったんですが、ほかにいそぎのごようがあったもんですから、)

もっと早く出るとよかったんですが、ほかに急ぎの御用があったもんですから、

(ついおそくなりました。そこでまずそのはんしょうというのをいちどみせて)

つい遅くなりました。そこで先ずその半鐘というのを一度見せて

(おもらいもうしたいんですが、あがってみてもよろしゅうございますかえ」)

お貰い申したいんですが、あがって見ても宜しゅうございますかえ」

(「さあ、さあ、どうぞ」)

「さあ、さあ、どうぞ」

(いえぬしはさきにたっておもてへでた。はんしちはひのみをあおいでちょっとかんがえていたが、)

家主は先に立って表へ出た。半七は火の見を仰いでちょっと考えていたが、

(すぐにするするとはしごをつたってのぼった。かれははんしょうをあらためてまたすぐに)

すぐにするすると梯子を伝ってのぼった。彼は半鐘をあらためて又すぐに

(おりてきて、さらにきんじょをみまわった。ひのみばしごからさんけんほどゆくと、)

降りて来て、更に近所を見まわった。火の見梯子から三軒ほどゆくと、

(そこにはせまいろじがあって、ばけものにであったというかこいもののおきたは)

そこには狭い路地があって、化け物に出逢ったという囲い者のお北は

(そのろじのなかほどにすんでいた。ろじのおくにはかなりにひろいあきちがあって、)

その路地の中程に住んでいた。路地の奥には可なりに広い空地があって、

(かたすみにふるいいなりのやしろがまつられていた。あきちにはきんじょのおとこのこがこまを)

片隅に古い稲荷の社が祀られていた。あき地には近所の男の児が独楽(こま)を

(まわしていた。ろじをでるときにふとみると、おきたのうちにはかしやのふだが)

まわしていた。路地を出る時にふと見ると、お北の家には貸家の札が

(はってあった。きのよわいかこいものはばけものにおどされてみっかめに、そうそうほかへ)

貼ってあった。気の弱い囲い者は化け物におどされて三日目に、早々ほかへ

(ひっこしてしまったといえぬしがはなした。)

引っ越してしまったと家主が話した。

(はんしちはそれからかじやのまえへいった。おもてからそっとのぞいてみると、)

半七はそれから鍛冶屋の前へ行った。表からそっと覗いてみると、

(おやかたらしいしじゅうぐらいのおとこがさしずして、さんにんのしょくにんがあついかなてこから)

親方らしい四十ぐらいの男が指図して、三人の職人が熱い鉄梃(かなてこ)から

(ひばなをちらしていた。そのそばでぼんやりふいごをふかせているこぞうは、)

火花を散らしていた。その傍でぼんやり鞴(ふいご)を吹かせている小僧は、

(このあいだひどいめにあったごんたろうだといえぬしがおしえてくれた。)

この間ひどい目に遭った権太郎だと家主が教えてくれた。

(ごんたろうはしかくばったかおをまっくろにくすぶらせて、おおきなめばかりを)

権太郎は四角張った顔をまっ黒に煤(くすぶ)らせて、大きな眼ばかりを

(ひからせているようすが、みるからにいたずらそうながきだとはんしちはおもった。)

光らせている様子が、見るからに悪戯そうな餓鬼だと半七は思った。

(「いろいろありがとうございました。まだすこしほかにしかけているごようが)

「いろいろ有難うございました。まだ少しほかに仕かけている御用が

(ありますから、に、さんにちちゅうにまたまいります」と、はんしちはいえぬしにわかれてかえった。)

ありますから、二、三日中にまた参ります」と、半七は家主に別れて帰った。

(ほかにてばなすことのできないようをかかえていたので、に、さんにちというやくそくが)

ほかに手放すことのできない用を抱えていたので、二、三日という約束が

(し、ごにちにのびて、はんしちはそのちょうないへあしをむけることができなかった。)

四、五日に延びて、半七はその町内へ足を向けることが出来なかった。

(すると、し、ごにちのあいだにまたいろいろのじけんがうみだされて、)

すると、四、五日のあいだに又いろいろの事件が生み出されて、

(ちょうないのひとたちをおどろかした。)

町内の人たちを驚かした。

(まずだいいちにおびやかされたのは、ちょうないのたばこやのおさきということしじゅうしちの)

まず第一におびやかされたのは、町内の煙草屋のお咲という今年十七の

(むすめであった。おさきはほんじょのしんるいへいって、むっつはん(ごごしちじ)ごろに)

娘であった。お咲は本所の親類へ行って、六ツ半(午後七時)頃に

(かえってくると、ふゆのひはとうにくれてしまって、きたかぜがかるいすなをころがして)

帰って来ると、冬の日はとうに暮れてしまって、北風が軽い砂を転がして

(ふいてゆくのがよめにもしろくみえた。このごろふしぎのおおいじぶんのちょうないへ)

吹いてゆくのが夜目にも白く見えた。このごろ不思議の多い自分の町内へ

(ちかづくにしたがって、わかいむすめのむねはどうきをうった。もっとはやくかえればよかったと)

近づくにしたがって、若い娘の胸は動悸を打った。もっと早く帰ればよかったと

(くやみながら、おさきはうつむいてりょうそでをしっかりとだきあわせて、こきざみにあしを)

悔みながら、お咲は俯向いて両袖をしっかりと抱きあわせて、小刻みに足を

(はやめてあるいてくると、うしろからおなじくきざみあしにつけてくるような)

早めて歩いて来ると、うしろから同じく刻み足に尾(つ)けて来るような

(かるいひびきがかすかにきこえた。おさきはみずをあびたようにぞっとしたが、)

軽いひびきが微かにきこえた。お咲は水を浴びたようにぞっとしたが、

(とてもふりかえってみるゆうきはないので、すくみがちのあしをいそがせて、)

とても振り返って見る勇気はないので、すくみ勝ちの足を急がせて、

(ようようじぶんのちょうないのかどをまがったかとおもうと、あたかもしろいすながうずをまいて)

ようよう自分の町内の角を曲がったかと思うと、あたかも白い砂が渦をまいて

(おさきのあしもとからむねのあたりまでまいあがってきたので、かのじょはりょうそでで)

お咲の足もとから胸のあたりまで舞いあがって来たので、彼女は両袖で

(おもわずかおをおさえたそのとたんに、うしろからつけてきたらしいあやしいものは、)

思わず顔をおさえたその途端に、うしろから尾けて来たらしい怪しいものは、

(つむじかぜのようにかけよってきておさきをつきとばした。)

旋風(つむじかぜ)のように駈け寄って来てお咲を突き飛ばした。

(むすめのひめいをききつけて、きんじょのものがかけつけてみると、おさきはきをうしなって)

娘の悲鳴を聞きつけて、近所の者が駈け付けてみると、お咲は気を失って

(たおれていた。かのじょのしまだのまげはむごたらしくかきむしられていた。)

倒れていた。彼女の島田の髷はむごたらしくかきむしられていた。

(ひざがしらをすこしすりむいただけで、ほかにたいしたけがもなかったが、)

膝がしらを少し摺り剝いただけで、ほかに大した怪我もなかったが、

(あまりのおどろきにおさきはそせいのあともぼんやりしていた。)

あまりの驚愕(おどろき)にお咲は蘇生の後もぼんやりしていた。

(そのばんからねつがでて、みっかばかりとこについた。)

その晩から熱が出て、三日ばかり床に就いた。

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