半七捕物帳 半鐘の怪6
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | kkk4015 | 4895 | B | 5.0 | 96.8% | 714.4 | 3614 | 117 | 59 | 2024/10/26 |
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問題文
(そのいらい、はんしょうはちっともならなくなった。はんしょうはなんにもしらないような)
三 その以来、半鐘はちっとも鳴らなくなった。半鐘はなんにも知らないような
(かおをして、ふゆのそらにたかくかかっていた。)
顔をして、冬の空に高くかかっていた。
(おきたのうちへはそのあとにひとがこしてきた。しかしひとばんでそうそうに)
お北の家へはその後に人が越してきた。しかし一と晩で早々に
(たちのいてしまった。よなかにふいにあんどんがきえて、そのおかみさんが)
立ち退いてしまった。夜なかに不意に行燈が消えて、そのおかみさんが
(なにものにかたぶさをつかんで、ふとんのそとへぐいぐいひきずりだされた)
何者にか頭髷(たぶさ)をつかんで、蒲団の外へぐいぐい引き摺り出された
(というのであった。しかもべつにふんしつぶつはなかった。なにかこのあきやに)
というのであった。しかも別に紛失物はなかった。何かこの空家に
(ひそんでいるのではないかと、いえぬしたちあいでやさがしをしたが、)
潜んでいるのではないかと、家主立ち合いで家探しをしたが、
(そのしょうたいはついにみとどけられなかった。)
その正体は遂に見とどけられなかった。
(「やっぱりばけものかしら」)
「やっぱり化け物かしら」
(こんなうわさがまたたった。ちょうないのひとたちも、ばけものかにんげんかえたいのわからない)
こんな噂がまた起った。町内の人たちも、化け物か人間か得体の解らない
(このわざわいをはらうほうほうにはあぐねはてた。そらではんしょうがならないかわりに、)
この禍いを払う方法にはあぐね果てた。空で半鐘が鳴らない代りに、
(ちのうえではやはりふしぎのできごとがやまなかった。)
地の上ではやはり不思議の出来事が止まなかった。
(そのつぎにひとみごくうにあがったのは、ばんたろうのにょうぼうのおくらであった。)
その次に人身御供にあがったのは、番太郎の女房のお倉であった。
(「ばんたろう・・・・・・おわかいかたはごぞんじありますまいね」と、はんしちろうじんは)
「番太郎……お若い方は御存じありますまいね」と、半七老人は
(せつめいしてくれた。「むかしのばんたろうというのは、まあはやくいえばちょうないの)
説明してくれた。「むかしの番太郎というのは、まあ早く云えば町内の
(ざつようをたすにんげんで、まいにちのやくめはひょうしぎをうってときをしらせてあるくんです。)
雑用を足す人間で、毎日の役目は拍子木を打って時を知らせてあるくんです。
(ばんたろうのうちはたいていじしんばんのとなりにあって、みせではわらじでもろうそくでも)
番太郎の家は大抵自身番のとなりにあって、店では草鞋でも蠟燭でも
(たどんでもしぶうちわでもなんでもうっている。つまりいっしゅのあらものやですね。)
炭団でも渋団扇でもなんでも売っている。つまり一種の荒物屋ですね。
(そのほかになつはきんぎょをうる、ふゆはやきいもをうる。はちまんたろうとばんたろうのちがいだなどと)
そのほかに夏は金魚を売る、冬は焼芋を売る。八幡太郎と番太郎の違いだなどと
(じょうだんにもいわれるくらいで、あんまりはばのきいたしょうばいじゃありませんが、)
冗談にも云われるくらいで、あんまり幅の利いた商売じゃありませんが、
(そんなふうになんでもするので、なかなかかねをためているやつがおおうござんしたよ」)
そんな風に何でもするので、なかなか金を溜めている奴が多うござんしたよ」
(そのばんたろうのとなりにちいさいふでやがあって、そのにょうぼうがくれむつ(ごごろくじ))
その番太郎のとなりに小さい筆屋があって、その女房が暮れ六ツ(午後六時)
(すぎにきゅうにさんけづいた。ふうふかけあいのうちで、ていしゅはただうろうろする)
過ぎに急に産気づいた。夫婦掛け合いの家で、亭主は唯うろうろする
(ばかりであるので、おくらはすぐにとりあげばあさんをよびにいった。)
ばかりであるので、お倉はすぐに取り上げ婆さんを呼びに行った。
(そんなつかいをたのまれていくらかのつかいちんをもらうのが、ばんたろうのにょうぼうの)
そんな使いをたのまれて幾らかの使い賃を貰うのが、番太郎の女房の
(やくとくであった。おくらはきじょうなおんなで、ことにまだよいのくちといい、このごろは)
役得であった。お倉は気丈な女で、殊にまだ宵の口といい、この頃は
(ちょうないのけいかいもげんじゅうなので、かれはへいきでげたをつっかけてかけだした。)
町内の警戒も厳重なので、かれは平気で下駄を突っかけて駈け出した。
(とりあげばあさんのところはし、ごちょうもはなれているので、おくらはむやみに)
取り上げ婆さんの所は四、五町もはなれているので、お倉はむやみに
(いそいでいった。こんやもしもぐもりというそらではあったが、りょうがわのあかりはうすあかるいかげを)
急いで行った。今夜も霜陰りという空ではあったが、両側の灯はうす明るい影を
(せまいまちになげていた。すぐにきてくれるようにとりあげばあさんにたのむと、)
狭い町に投げていた。すぐに来てくれるように取り上げ婆さんに頼むと、
(ばあさんはしょうちしていっしょにきた。)
婆さんは承知して一緒に来た。
(ばあさんはもうろくじゅういくつというので、あしがのろかった。ずきんにかおをつつんで)
婆さんはもう六十幾つというので、足がのろかった。頭巾に顔をつつんで
(とぼとぼとあるいてきた。おくらはじれったいのをがまんして、それにつきあって)
とぼとぼとあるいて来た。お倉はじれったいのを我慢して、それに附き合って
(あるいていると、ばあさんはなにかつまらないことをくどくどとはなしかけた。)
歩いていると、婆さんは何か詰まらないことをくどくどと話しかけた。
(きのせいているおくらはうわのそらでへんじをしながら、ばあさんをひっぱるようにして)
気の急いているお倉は上の空で返事をしながら、婆さんを引っ張るようにして
(いそいでかえった。ちょうないのあかりはもうめのまえにみえた。)
急いで帰った。町内の灯はもう目の前に見えた。
(となりちょうとのちょうざかいにどぞうがふたつならんでいるところがあって、それにつづいて)
隣り町との町境に土蔵が二つ列(なら)んでいるところがあって、それに続いて
(ざいもくやのおおきいざいもくおきばがあった。ぜんごのあかりのかげはここまでとどかないので、)
材木屋の大きい材木置場があった。前後の灯のかげはここまで届かないので、
(じゅっけんあまりのあいだにはふゆのよるのやみがうるしのようによこたわっていた。)
十間あまりの間には冬の夜の闇が漆のように横たわっていた。
(じぶんのちょうないにはいるおくらは、どうしてもこのやみをつっきっていかなければ)
自分の町内にはいるお倉は、どうしてもこの闇を突っ切って行かなければ
(ならなかった。このあいだのばん、たばこやのむすめがさいなんにあったのもこのあたりだろうと)
ならなかった。この間の晩、煙草屋の娘が災難に逢ったのも此の辺だろうと
(おもいながら、かのじょはばあさんをせきたててあるいてくると、つんであるざいもくの)
思いながら、彼女は婆さんを急き立てて歩いてくると、積んである材木の
(かげからいぬのようなものがはいだした。)
かげから犬のようなものが這い出した。
(「おや、なんだろう」)
「おや、なんだろう」
(よぼよぼしているばあさんをひっぱっているので、おくらはすぐににげだすわけにも)
よぼよぼしている婆さんを引っ張っているので、お倉はすぐに逃げ出すわけにも
(いかなかったが、きじょうなかのじょはやみのそこをじっとすかしてそのしょうたいを)
行かなかったが、気丈な彼女は闇の底をじっと透かしてその正体を
(みさだめようとするまもなく、あやしいものはせをぬすむようにみをふせてきて、)
見定めようとする間もなく、怪しい物は背をぬすむように身を伏せて来て、
(いきなりおくらのこしにとりついた。)
いきなりお倉の腰に取り付いた。
(「なにをしやあがる」)
「何をしやあがる」
(いちどはてひどくつきのけたが、にどめにはおびをとられた。ゆるんだおびが)
一度は手ひどく突き退けたが、二度目には帯を取られた。ゆるんだ帯が
(ずるずるととけてゆくので、おくらはすこしあわてた。かのじょはおおきいこえで)
ずるずると解けてゆくので、お倉は少しあわてた。彼女は大きい声で
(ひとをよんだ。ばあさんもしわがれごえをあげてすくいをさけんだ。そのこえをききつけて、)
人を呼んだ。婆さんも皺枯れ声をあげて救いを叫んだ。その声を聞き付けて、
(ちょうないのものがかけてくるあしおとに、あやしいもののほうでもあわてたらしく、かれは)
町内の者が駈けてくる足音に、怪しい物の方でも慌てたらしく、かれは
(おくらのみぎのほおをひっかいてにげた。おくらはに、さんけんおっかけていったが、)
お倉の右の頬を引っ搔いて逃げた。お倉は二、三間追っ掛けて行ったが、
(あしのはやいかれはどこへかすがたをかくしてしまった。)
足の早い彼はどこへか姿を隠してしまった。
(「ばけものなんてうそです。たしかににんげんですよ。くらくってわかりませんでした)
「化け物なんて嘘です。たしかに人間ですよ。暗くって判りませんでした
(けれど、なんでもじゅうろくしちぐらいのおとこでした」と、おくらはいった。)
けれど、何でも十六七ぐらいの男でした」と、お倉は云った。
(きじょうなかのじょのしょうげんによって、ばけもののしょうたいはいよいよにんげんときめられたが、)
気丈な彼女の証言によって、化け物の正体はいよいよ人間ときめられたが、
(さてそれがなにものであるかはわからなかった。)
さてそれが何者であるかは判らなかった。