半七捕物帳 半鐘の怪8

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第六話

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問題文

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(ごんたろうはおとなしくついてきた。はんしちはろじへはいって、いなりのやしろのまえの)

四 権太郎はおとなしく付いて来た。半七は路地へはいって、稲荷の社のまえの

(あきちにたった。)

空地に立った。

(「おい、ごんた。おまえはまったくあのはんしょうをついたことはねえか」)

「おい、権太。お前はまったくあの半鐘を撞いたことはねえか」

(「おいらしらねえ」と、ごんたろうはへいきでこたえた。)

「おいら知らねえ」と、権太郎は平気で答えた。

(「はんこやのほしものにいたずらをしたおぼえもねえか」)

「印判(はんこ)屋の干物に悪戯をした覚えもねえか」

(ごんたろうはおなじくかぶりをふった。)

権太郎はおなじく頭(かぶり)をふった。

(「このうらにいためかけをおどかしたことがあるか」)

「この裏にいた妾を嚇かしたことがあるか」

(ごんたろうはやはりしらないといった。)

権太郎はやはり知らないと云った。

(「おまえにはきょうだいか、なかのよいともだちはあるか」)

「お前には兄弟か、仲のよい友達はあるか」

(「べつになかのよいというほどのともだちはねえが、あにきはある」)

「別に仲の好いというほどの友達はねえが、兄貴はある」

(「あにきはいくつだ。どこにいる」)

「兄貴は幾つだ。どこにいる」

(あられがざっとふってきたので、はんしちもたまらなくなった。かれはごんたろうのてを)

霰がざっと降って来たので、半七も堪らなくなった。かれは権太郎の手を

(ひっぱって、いぜんおきたがすんでいたというあきやののきしたにきた。)

引っ張って、以前お北が住んでいたという空家の軒下に来た。

(おもてのとにはじょうがおろしてなかったので、ひくとすぐにさらりとあいた。)

表の戸には錠が卸してなかったので、引くとすぐにさらりと明いた。

(はんしちはくつぬぎへはいって、あげいたになっているふみだんをてぬぐいでふきながら)

半七は沓脱へはいって、揚げ板になっている踏み段を手拭で拭きながら

(こしをかけた。)

腰をかけた。

(「おまえもここへかけろよ。そこで、おめえのあにきというのはうちにいるのか」)

「お前もここへ掛けろよ。そこで、おめえの兄貴というのは家にいるのか」

(「としはじゅうしちで、げたやにほうこうしているんだ」)

「年は十七で、下駄屋に奉公しているんだ」

(そのげたやはここからご、ろくちょうさきにあると、ごんたろうはせつめいした。)

その下駄屋はここから五、六町先にあると、権太郎は説明した。

(おやじがしぬとまもなく、おふくろはどこへかいってしまって、)

おやじが死ぬと間もなく、阿母(おふくろ)はどこへか行ってしまって、

など

(あにきとじぶんとはみなしごどうようにとりのこされたのであるといったときには、)

兄貴と自分とは孤児(みなしご)同様に取り残されたのであると云った時には、

(いたずらこぞうのこえもすこししずんできこえた。はんしちもなんとなくあわれをさそわれた。)

いたずら小僧の声も少し沈んできこえた。半七もなんとなく哀れを誘われた。

(「じゃあきょうだいふたりぎりか。あにきはおめえをかわいがってくれるか」)

「じゃあ兄弟二人ぎりか。兄貴はおめえを可愛がってくれるか」

(「むむ。やどさがりのときにゃあいつでもおえんまさまへいっしょにいって、)

「むむ。宿下がりの時にゃあ何日(いつ)でもお閻魔さまへ一緒に行って、

(あにきがいろんなものをくわしてくれる」と、ごんたろうはほこるようにいった。)

兄貴がいろんなものを食わしてくれる」と、権太郎は誇るように云った。

(「そりゃあいいあにきだな。おめえはしあわせだ」と、いいかけて)

「そりゃあ好い兄貴だな。おめえは仕合わせだ」と、云いかけて

(はんしちはちょうしをかえた。かれはおどすようにごんたろうのかおをじっとみた。)

半七は調子をかえた。彼は嚇すように権太郎の顔をじっと視た。

(「そのあにきをおれがいま、ふんじばったらどうする」 ごんたろうはなきだした。)

「その兄貴をおれが今、ふん縛ったらどうする」 権太郎は泣き出した。

(「おじさん、かんにんしておくれよう」)

「おじさん、堪忍しておくれよう」

(「わるいことをすりゃあしばられるのはあたりめえだ」)

「悪いことをすりゃあ縛られるのはあたりめえだ」

(「おいらはわるいことをしねえでもしばられた。それであんまりくやしいから」)

「おいらは悪いことをしねえでも縛られた。それであんまり口惜しいから」

(「くやしいからどうした。ええ、かくすな。しょうじきにいえ。おらあじってをもって)

「口惜しいからどうした。ええ、隠すな。正直にいえ。おらあ十手を持って

(いるんだぞ。てめえはくやしまぎれに、あにきになんかたのんだろう。)

いるんだぞ。てめえは口惜しまぎれに、兄貴になんか頼んだろう。

(さあ、はくじょうしろ」)

さあ、白状しろ」

(「たのみゃあしねえけれども、あにきもあんまりひどいってくやしがって・・・・・・。)

「頼みゃあしねえけれども、兄貴もあんまりひどいって口惜しがって……。

(なんにもしねえものをむやみにそんなめにあわせるほうはねえといった」)

なんにもしねえものを無暗にそんな目にあわせる法はねえと云った」

(「そりゃあてめえのふだんのぎょうじょうがわるいからだ。げんにてめえはかきを)

「そりゃあ手前のふだんの行状が悪いからだ。現にてめえは柿を

(ぬすもうとしたじゃねえか」とはんしちはしかった。)

盗もうとしたじゃねえか」と半七は叱った。

(「そのくらいはこどもだからしかたがねえ。しかっておいてもすむことだ。)

「そのくらいは子供だから仕方がねえ。叱って置いても済むことだ。

(それもおやかたになぐられるのはがまんするけれども、じしんばんのやつらが)

それも親方に撲(なぐ)られるのは我慢するけれども、自身番の奴らが

(むやみにぼうでなぐったり、しばったりしやあがった。ひとをしばるということは)

むやみに棒で撲ったり、縛ったりしやあがった。ひとを縛るということは

(おもいことで、むやみにできるもんじゃあねえとあにきがいった」と、ごんたろうは)

重いことで、無暗に出来るもんじゃあねえと兄貴が云った」と、権太郎は

(なきごえをふるわせた。「おいらはもうこうなりゃあなにもかもいっちまうが、)

泣き声をふるわせた。「おいらはもうこうなりゃあ何もかも云っちまうが、

(あにきがあんまりくやしいというんで、おいらのかせいでいしゅがえしを)

兄貴があんまり口惜しいというんで、おいらの加勢で意趣返しを

(してくれたんだ。おいらがかきねをのぼったなんてつげぐちをしたやつは)

してくれたんだ。おいらが垣根を登ったなんて密告(つげぐち)をした奴は

(たばこやのおちゃっぴいだ。おいらをぶんなぐってしばったやつはじしんばんの)

煙草屋のおちゃっぴいだ。おいらをぶん撲って縛った奴は自身番の

(もうろくおやじだ。こいつらをみんなひどいめにあわしてやると、)

耄碌おやじだ。こいつ等をみんなひどい目にあわしてやると、

(あにきはしょっちゅうねらっていたんだ」)

兄貴は終始(しょっちゅう)狙っていたんだ」

(「すると、たばこやのむすめとじしんばんのさへえとばんたのかかあと、)

「すると、煙草屋のむすめと自身番の佐兵衛と番太の嬶(かかあ)と、

(このさんにんにいたずらをしたやつはてめえのあにきだな」)

この三人にいたずらをした奴は手前の兄貴だな」

(「おじさん、かんにんしておくれよう」 ごんたろうはこえをあげてまたなきだした。)

「おじさん、堪忍しておくれよう」 権太郎は声をあげて又泣き出した。

(「あにきがわるいんじゃあねえ。あにきはおいらのかせいをしてくれたんだ。)

「兄貴が悪いんじゃあねえ。兄貴はおいらの加勢をしてくれたんだ。

(あにきをしばるならおいらをしばってくんねえ。あにきはいままでおいらを)

兄貴を縛るならおいらを縛ってくんねえ。兄貴は今までおいらを

(かわいがってくれたんだから、おいらがあにきのかわりにしばられてもかまわねえ。)

可愛がってくれたんだから、おいらが兄貴の代りに縛られても構わねえ。

(よう、おじさん。あにきをかんにんしてやって、おいらをしばってくんねえよ」)

よう、おじさん。兄貴を堪忍してやって、おいらを縛ってくんねえよ」

(かれはちいさいからだをはんしちにすりつけて、ないてすがった。)

彼は小さいからだを半七にすり付けて、泣いてすがった。

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