半七捕物帳 半鐘の怪9

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第六話

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問題文

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(すがられたはんしちもほろりとした。ちょうないでふだつきのいたずらこぞうも、)

すがられた半七もほろりとした。町内で札付きのいたずら小僧も、

(そのちいさいこころのそこにはこうしたうつくしい、いじらしいにんじょうが)

その小さい心の底にはこうした美しい、いじらしい人情が

(ひそんでいるのであった。)

ひそんでいるのであった。

(「よし、よし、そんならあにきはかんにんしてやる」と、はんしちはやさしくいった。)

「よし、よし、そんなら兄貴は堪忍してやる」と、半七は優しく云った。

(「いまのはなしはおれひとりがきいただけにしておいて、だれにもいわねえ。)

「今の話はおれ一人が聴いただけにして置いて、だれにも云わねえ。

(そのかわりにおれのいうことをなんでもきくか」)

その代りに俺の云うことを何でも肯(き)くか」

(あいてのへんじはきくまでもなかった。ごんたろうはむろんなんでもきくと)

相手の返事は聞くまでもなかった。権太郎は無論なんでも肯くと

(ちかうようにいった。はんしちはかれのみみにくちをよせてなにごとかをささやくと、)

誓うように云った。半七は彼の耳に口をよせて何事かをささやくと、

(ごんたろうはうなずいてすぐにでていった。)

権太郎はうなずいてすぐに出て行った。

(あられはまたひとしきりふってやんだが、くもはいよいよひくくなって、)

霰は又ひとしきり降って止んだが、雲はいよいよ低くなって、

(いっしゅのさむいかげがじめんへおおいかぶさってきた。ひるでもどこのうちも)

一種の寒い影が地面へ掩(おお)いかぶさって来た。昼でもどこの家も

(しずまりかえっていた。はきだめをあさりにくるいぬもきょうはすがたをみせなかった。)

静まりかえっていた。掃溜めをあさりに来る犬もきょうは姿を見せなかった。

(あきやをしのんででたごんたろうは、ぬきあしをしていなりのやしろのまえにいって、)

空家を忍んで出た権太郎は、ぬき足をして稲荷の社のまえに行って、

(たもとからふいごまつりのみかんをいつつむっつだした。かれはきづれごうしのあいだから)

袂から鞴祭りの蜜柑を五つ六つ出した。彼は木連(きづれ)格子のあいだから

(それをそっところがしこんで、じぶんはつちのうえにひらぐものようにうつぶしていた。)

それをそっと転がし込んで、自分は土のうえに平蜘蛛のように俯伏していた。

(かれはいっしょうけんめいにいきをころしていた。)

彼は一生懸命に息を殺していた。

(はんしちはあきやにこしをかけてしばらくまっていたが、ごんたろうからは)

半七は空家に腰をかけてしばらく待っていたが、権太郎からは

(なんのほうこくもないので、かれはまちあぐんでそっとでていった。)

何の報告もないので、彼は待ちあぐんでそっと出て行った。

(「おい、ごんた、なんにもあたりはねえか」と、はんしちはこごえできくと、)

「おい、権太、なんにも当りはねえか」と、半七は小声で訊くと、

(ごんたろうはうつぶしていたくびをあげて、それをさゆうにふった。はんしちはしつぼうした。)

権太郎は俯伏していた首をあげて、それを左右に振った。半七は失望した。

など

(あられはまたおとをたててふってきたので、はんしちはあわてててぬぐいをかぶって、)

霰はまた音をたてて降って来たので、半七はあわてて手拭をかぶって、

(あられにうたれておとなしくうつぶしているごんたろうをみるにしのびないので、)

あられに打たれておとなしく俯伏している権太郎を見るに忍びないので、

(かれはこっちへこいとあごでまねくと、ごんたろうはそっとはいおきて)

彼はこっちへ来いと頤(あご)で招くと、権太郎はそっと這い起きて

(もどってきた。)

戻って来た。

(「いなりさまのなかでなんにもおとがしねえか。がたりともいわねえか」)

「稲荷さまのなかでなんにも音がしねえか。がたりともいわねえか」

(と、はんしちはまたきいた。)

と、半七はまた訊いた。

(「むむ、がたりともごそりともいわねえよ。どうもなんにもいねえらしい」)

「むむ、がたりともごそりともいわねえよ。どうもなんにも居ねえらしい」

(と、ごんたろうはしつぼうしたようにささやいた。ふたりはもとのあきやへはいった。)

と、権太郎は失望したようにささやいた。二人は元の空家へはいった。

(「おまえはまだみかんをもっているか」)

「お前はまだ蜜柑を持っているか」

(ごんたろうはたもとからみっつばかりのみかんをだした。はんしちはそれをうけとって、)

権太郎は袂から三つばかりの蜜柑を出した。半七はそれを受け取って、

(じぶんのうしろのしょうじをおとのしないようにするりとあけた。いりぐちはにじょうで、)

自分のうしろの障子を音のしないようにするりとあけた。入口は二畳で、

(そのそばにさんじょうぐらいのじょちゅうべやがつづいているらしかった。)

その傍に三畳ぐらいの女中部屋が続いているらしかった。

(はんしちはそのにじょうにはいあがって、つきあたりのふすまをあけると、そこには)

半七はその二畳に這い上がって、つき当りの襖をあけると、そこには

(ぞうさくのこぎれいなよころくじょうがあって、えんがわにむかったしょうじばかりがほねもかみも)

造作の小綺麗な横六畳があって、縁側にむかった障子ばかりが骨も紙も

(ひどくいたんでいるのが、うすぐらいなかにもめについた。ほねはところどころ)

ひどく傷んでいるのが、薄暗いなかにも眼についた。骨はところどころ

(おれていて、かみもひきめくったようにさけていた。はんしちはそのろくじょうの)

折れていて、紙も引きめくったように裂けていた。半七はその六畳の

(まんなかへみかんをふたつばかりころがしこんだ。それからじょちゅうべやのふすまをあけて、)

まん中へ蜜柑を二つばかり転がし込んだ。それから女中部屋の襖をあけて、

(そこへもひとつなげこんだ。いりぐちのしょうじをもとのようにしめきって)

そこへも一つ投げ込んだ。入口の障子を元のように閉め切って

(かれはふたたびくつぬぎへおりた。)

彼は再び沓脱へ降りた。

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