半七捕物帳 半鐘の怪10(終)

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第六話

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問題文

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(「しずかにしていろよ」と、かれはごんたろうにちゅういした。)

「静かにしていろよ」と、彼は権太郎に注意した。

(ふたりはいきをのみこんでひかえていると、そとのあられのおとはまたやんだ。)

二人は息をのみ込んで控えていると、外のあられの音はまた止んだ。

(うちではなんのものおともきこえないので、ごんたろうはすこしまちくたびれて)

内では何の物音もきこえないので、権太郎は少し待ちくたびれて

(きたらしかった。)

来たらしかった。

(「ここにもいねえのかしら」 「しずかにしろというのに・・・・・・」)

「ここにも居ねえのかしら」 「静かにしろと云うのに……」

(このとたんに、おくのほうでがさりというかすかなひびきがきこえたので、)

この途端に、奥の方でがさりという微かな響きが聞えたので、

(ふたりはかおをみあわせた。なにものかがしょうじのやぶれをくぐって、)

二人は顔をみあわせた。何者かが障子の破れをくぐって、

(ろくじょうのまへはいこんでくるらしくおもわれた。それはねこのようなあしおとで、)

六畳の間へ這い込んで来るらしく思われた。それは猫のような足音で、

(たたみにざらざらとふれるつめのおとがだんだんにちかづいてきた。)

畳にざらざらと触れる爪の音がだんだんに近づいて来た。

(じっとみみをすましてきいていると、そのものははんしちのなげこんだみかんを)

じっと耳をすまして聴いていると、その者は半七の投げこんだ蜜柑を

(むしゃむしゃくっているらしかった。)

むしゃむしゃ食っているらしかった。

(「ちくしょうめ」 はんしちはわらいながらごんたろうにめくばせして、ふたりはぞうりをてにもって)

「畜生め」 半七は笑いながら権太郎に眼くばせして、二人は草履を手に持って

(いちどにしょうじをあけた。つづいてつぎのふすまをけひらいて、ろくじょうのざしきへ)

一度に障子をあけた。つづいて次の襖を蹴ひらいて、六畳の座敷へ

(ばらばらおどりこむと、うすぐらいなかにはいっぴきのけものがひそんでいた。)

ばらばら跳どり込むと、うす暗いなかには一匹の獣が潜んでいた。

(けものはきかいなさけびごえをあげながら、しょうじをやぶってえんがわへにげだそうと)

獣は奇怪な叫び声をあげながら、障子を破って縁側へ逃げ出そうと

(したところを、はんしちはうしろからおいついてそのあたまをぞうりでなぐった。)

したところを、半七はうしろから追い付いてその頭を草履でなぐった。

(ごんたろうもつづいてなぐりつけた。けものはどをうしなったらしく、)

権太郎もつづいて撲り付けた。獣は度を失ったらしく、

(しろいきばをむきだしてごんたろうにとびかかってきた。こういうばあいには)

白い牙をむき出して権太郎に飛びかかって来た。こういう場合には

(へいぜいのいたずらがやくにたって、かれはものともしないでそのきかいなけものと)

平生のいたずらが役に立って、彼は物ともしないでその奇怪な獣と

(とっくんだ。かいぶつはおそろしいこえをあげてうなった。)

取っ組んだ。怪物はおそろしい声をあげて唸った。

など

(「ごんた、しっかりしろ」)

「権太、しっかりしろ」

(こえをかけてはげましながら、はんしちはあたまにかぶっていたてぬぐいをとって、)

声をかけて励ましながら、半七は頭にかぶっていた手拭を取って、

(うしろからそのてきののどにまきつけた。のどをしめられてかいぶつもさすがに)

うしろからその敵の喉に巻きつけた。喉をしめられて怪物もさすがに

(よわったらしく、いたずらにてあしをもがきながらごんたろうにとうとう)

弱ったらしく、いたずらに手足をもがきながら権太郎にとうとう

(くみしかれてしまった。きのきいているごんたろうはじぶんのおびをといて、)

組み敷かれてしまった。気の利いている権太郎は自分の帯を解いて、

(すぐにかれをぐるぐるまきにしばりあげた。そのあいだにはんしちはえんがわのあまどを)

すぐに彼をぐるぐる巻きに縛りあげた。そのあいだに半七は縁側の雨戸を

(こじあけると、くもったひのうすいひかりがあきやのなかへながれこんだ。)

こじあけると、陰った日の薄い光りが空家のなかへ流れ込んだ。

(「ちくしょう、あんのとおりだ」 ごんたろうにいけどられたかいぶつはおおきなさるであった。)

「畜生、案の通りだ」 権太郎に生捕られた怪物は大きな猿であった。

(このかいぶつとかくとうしたかたみとして、かれはほおやてあしにに、さんかしょの)

この怪物と格闘した形見として、彼は頬や手足に二、三ヵ所の

(つめのあとをのこされた。)

爪のあとを残された。

(「なに、このくらい、いたかあねえ」と、かれはとくいらしくじぶんのえものを)

「なに、この位、痛かあねえ」と、彼は得意らしく自分の獲物を

(ながめていた。さるはしにもしないで、おそろしいめをいからせていた。)

ながめていた。猿は死にもしないで、おそろしい眼を瞋(いか)らせていた。

(「これがみやもとむさしかなにかだと、ひひたいじとか)

・・・ 「これが宮本無三四(むさし)か何かだと、狒々(ひひ)退治とか

(いってしばいやこうしゃくになだかくなるんですがね」と、はんしちろうじんはわらった。)

云って芝居や講釈に名高くなるんですがね」と、半七老人は笑った。

(「それからじしんばんへひきずっていくと、みんなもびっくりして)

「それから自身番へ引き摺って行くと、みんなもびっくりして

(ちょうないそうででけんぶつにきましたよ。なぜわたしがえてこうとけんとうを)

町内総出で見物に来ましたよ。なぜわたしが猿公(えてこう)と見当を

(つけたかというんですか。それははんしょうをあらためにのぼったときに、)

つけたかと云うんですか。それは半鐘をあらために登った時に、

(ひのみばしごにけもののつめのあとがたくさんのこっていたからですよ。)

火の見梯子に獣の爪の跡がたくさん残っていたからですよ。

(どうもねこでもないらしい。こいつはえてこうがいたずらをするんじゃないかと、)

どうも猫でもないらしい。こいつは猿公が悪戯をするんじゃないかと、

(ふいとおもいついたんです。かこいもののかさのうえにとびついたり、ものほしの)

ふいと思い付いたんです。囲い者の傘の上に飛び付いたり、物干の

(あかいきものをさらっていったり、どうしてもえてこうのしわざらしゅうござんすからね。)

あかい着物を攫って行ったり、どうしても猿公の仕業らしゅうござんすからね。

(そこで、そのえてこうがどこにかくれているのか、わたくしはいなりのやしろだろうと)

そこで、その猿公がどこに隠れているのか、わたくしは稲荷の社だろうと

(けんとうをつけたんですが、それはちっとはずれました。けれどもたぶん)

見当を付けたんですが、それはちっとはずれました。けれども多分

(さいしょのうちはやしろのおくにかくれていて、おくもつなんぞをぬすみぐいしていたのが、)

最初のうちは社の奥にかくれていて、お供物なんぞを盗み食いしていたのが、

(だんだんぞうちょうしていろいろのいたずらをはじめだして、そのうちにかこいもののうちが)

だんだん増長していろいろの悪戯を始め出して、そのうちに囲い者の家が

(あいたもんだから、そのあきだなのほうへすがえをして、またまた)

あいたもんだから、その空店(あきだな)の方へ巣替えをして、またまた

(わるさをしたんだろうとおもいます。かわいそうなのはごんたろうで、)

悪さをしたんだろうと思います。可哀そうなのは権太郎で、

(ふだんのいたずらがたたりをなしてとんだひどいめにあいましたが、)

ふだんの悪戯が祟りをなして飛んだひどい目に遭いましたが、

(あにきのことはわたしのほかにだれもしりません。なにもかもみんなえてこうの)

兄貴のことは私のほかに誰も知りません。なにもかもみんな猿公の

(いたずらということになってしまいました。ごんたろうもそのばけものをたいじしてから、)

悪戯ということになってしまいました。権太郎もその化け物を退治してから、

(ちょうないのひとたちにもかわいがられるようになりましてね。)

町内の人達にも可愛がられるようになりましてね。

(とうとういちにんまえのしょくにんになりましたよ」)

とうとう一人前の職人になりましたよ」

(「いったいそのさるはどこからきたんです」と、わたしはきいた。)

「一体その猿はどこから来たんです」と、わたしは訊いた。

(「それがおかしいんです。そのえてこうはね、りょうごくのさるしばいのやくしゃなんです。)

「それが可笑しいんです。その猿公はね、両国の猿芝居の役者なんです。

(それがどうしてかにげだして、どこのやねをつたったかえんのしたをくぐったか、)

それがどうしてか逃げ出して、どこの屋根を伝ったか縁の下をくぐったか、

(このちょうないにまぐれこんできて、とうとうこんなさわぎをしでかしたんですが、)

この町内にまぐれ込んで来て、とうとうこんな騒ぎを仕出来したんですが、

(だんだんしらべてみると、こいつはおんながたでやおやおしちをだしものにしていたんです。)

だんだん調べてみると、こいつは女形で八百屋お七を出し物にしていたんです。

(ね、おもしろいじゃありませんか、ふだんからひのみやぐらにあがって、)

ね、面白いじゃありませんか、ふだんから火の見櫓にあがって、

(うてばうたるるやぐらのたいこ、かなにかやっていたもんだから、)

打てば打たるる櫓の太鼓、か何かやっていたもんだから、

(おなじいたずらをするにしても、ひのみばしごへかけあがって、はんしょうを)

同じいたずらをするにしても、火の見梯子へ駈けあがって、半鐘を

(じゃんじゃんぶっつけたとみえるんですね。えてこうにしばいがかりで)

じゃんじゃん打(ぶ)っ付けたと見えるんですね。猿公に芝居がかりで

(いたずらをされちゃあたまりませんや。はははははは。わたくしもながねんのあいだ、)

悪戯をされちゃあ堪まりませんや。はははははは。わたくしも長年の間、

(いろいろのとりものをしましたがね、えてこうにおなわをかけたのは)

いろいろの捕物をしましたがね、猿公にお縄をかけたのは

(とんだおわらいぐさですよ」)

飛んだお笑いぐさですよ」

(「そのさるはどうしました」と、わたしはこうきしんにそそられてまたきいた。)

「その猿はどうしました」と、わたしは好奇心にそそられて又訊いた。

(「そのかいぬしはいっかんもんのとがりょう、えてこうはせけんをさわがしたという)

「その飼主は一貫文の科料(とがりょう)、猿公は世間をさわがしたという

(つみでえんとう、えいたいばしからえんとうぶねにのせられてはちじょうじまへおくられました。)

罪で遠島、永代橋から遠島船に乗せられて八丈島へ送られました。

(やつはしばいごやなんぞできゅうくつなおもいをしているよりも、しまへいってのばなしに)

奴は芝居小屋なんぞで窮屈な思いをしているよりも、島へ行って野放しに

(されたほうがしあわせだったかもしれません。ちくしょうのことですもの、)

された方が仕合わせだったかも知れません。畜生のことですもの、

(しまのやくにんだってげんじゅうにしばっておいたりするもんですか、)

島の役人だって厳重に縛って置いたりするもんですか、

(どこかへおっぱなしてしまいますよ」)

どこかへおっ放してしまいますよ」

(さるのえんとうーーこんなめずらしいはなしをきかされて、わたしはきょうもわざわざ)

猿の遠島ーーこんな珍しい話を聴かされて、わたしは今日もわざわざ

(たずねてきたかいがあったとおもった。)

たずねて来た甲斐があったと思った。

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