半七捕物帳 奥女中9

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第七話

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問題文

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(「おやくそくのおてあてはにひゃくりょう、ふうのままでただいまおわたしもうします。)

「御約束の御手当は二百両、封のままで唯今お渡しもうします。

(さあ、どうぞむすめごをこれへ」 「は、はい」)

さあ、どうぞ娘御をこれへ」 「は、はい」

(「あくまでもごふしょうちか。おやくめしゅびよくあいつとめませねば、)

「あくまでも御不承知か。お役目首尾よく相勤めませねば、

(わたくしこのばでじがいでもいたさねばあいなりませぬ」)

わたくし此の場で自害でもいたさねば相成りませぬ」

(かのじょはさらにおびのあいだからふくろにいれたかいけんのようなものをとりだして)

彼女は更に帯のあいだから袋に入れた懐剣のようなものを把(と)り出して

(みせた。そのするどいひとみのひかりにいられて、おかめはあおくなってふるえだした。)

見せた。その鋭い瞳のひかりに射られて、お亀は蒼くなってふるえ出した。

(かけあいはもうてづめになってきた。)

掛け合いはもう手詰めになって来た。

(「あのおんなはおまえしっているか」と、はんしちはこごえでおちょうにきくと、)

「あの女はおまえ識っているか」と、半七は小声でお蝶にきくと、

(おちょうはむごんでくびをふった。はんしちはすこしかんがえていたが、)

お蝶は無言で首を振った。半七はすこし考えていたが、

(やがてさんじょうからだいどころへはいだして、みずぐちからそっとおもてへぬけた。)

やがて三畳から台所へ這い出して、水口からそっと表へぬけた。

(ろじのそとはつきがあかるかった。かどからし、ごけんさきのしちやの)

路地のそとは月が明るかった。角から四、五軒さきの質屋の

(どぞうのまえには、いっちょうのかごがおろされて、そこにはふたりの)

土蔵のまえには、一挺の駕籠が下ろされて、そこには二人の

(かごかきとさっきのさむらいらしいおとこが)

駕籠舁(かごかき)と先刻(さっき)の武士(さむらい)らしい男が

(たっていた。はんしちはそれをみとどけて、こんどはおもてのこうしからはいってきた。)

立っていた。半七はそれを見とどけて、今度は表の格子からはいって来た。

(そうして、だまっておんなのまえにすわった。おんなはうけあごのほそおもてに)

そうして、黙って女のまえに坐った。女は受けあごの細おもてに

(うすげしょうをして、めのすずしい、はなのたかい、みるからにおとこまさりとでも)

薄化粧をして、眼の涼しい、鼻のたかい、見るからに男まさりとでも

(いいそうなおんなぶりで、かみはごてんふうのかたはずしにゆっていた。)

いいそうな女振りで、髪は御殿風の片はずしに結っていた。

(「ごめんくださいまし」)

「御免くださいまし」

(はんしちはなにげなくあいさつすると、おんなはだまっておうようにえしゃくした。)

半七は何げなく挨拶すると、女は黙って鷹揚に会釈した。

(「わたくしはこのおかめのみよりのものでございますが、)

「わたくしはこのお亀の親戚(みより)の者でございますが、

など

(うけたまわりますれば、こちらのむすめをごしょもうとかもうすことで。)

うけたまわりますれば、こちらの娘を御所望とか申すことで。

(なにぶんにもむことりのひとりむすめではございますが、それほどごしょもうと)

なにぶんにも婿取りの一人娘ではございますが、それほど御所望と

(おっしゃるからは、ごほうこうにさしあげまいものでもございません」)

仰しゃるからは、御奉公に差し上げまいものでもございません」

(おかめはびっくりしてはんしちのかおをみると、かれはつづけてこういった。)

お亀はびっくりして半七の顔を見ると、彼はつづけてこう云った。

(「もちろん、あなたのほうにもいろいろのごつごうもございましょうが、)

「勿論、あなたの方にもいろいろの御都合もございましょうが、

(いくらおんしんふつうのおやくそくでも、せめてごほうこうのおやしきさまのおなまえだけでも)

いくら音信不通のお約束でも、せめて御奉公の御屋敷様の御名前だけでも

(うかがっておきたいとぞんじますのが、こりゃあおやのにんじょうでございます。)

伺って置きたいと存じますのが、こりゃあ親の人情でございます。

(どうぞそれだけをおあかしくださいましたら・・・・・・」)

どうぞそれだけをお明かし下さいましたら……」

(「せっかくでありますが、おやしきのなはここではもうされません。)

「折角でありますが、御屋敷の名はここでは申されません。

(ただちゅうごくすじのあるおだいみょうともうすだけのことで・・・・・・」)

ただ中国筋のある御大名と申すだけのことで……」

(「あなたさまのおつとめは・・・・・・」 「おもてづかいをつとめております」)

「あなた様のお勤めは……」 「表使いを勤めて居ります」

(「さようでございますか」と、はんしちはほほえんだ。「では、まことに)

「左様でございますか」と、半七は微笑んだ。「では、まことに

(もうしにくうございますが、このごそうだんはおことわりもうしとうぞんじます」)

申しにくうございますが、この御相談はお断り申しとう存じます」

(おんなのめはじろりとひかった。 「なぜごふしょうちといわれます」)

女の眼はじろりと光った。 「なぜ御不承知と云われます」

(「しつれいながらおやしきのごかふうがすこしきにいりませんから」)

「失礼ながら御屋敷の御家風が少し気に入りませんから」

(「いなことを・・・・・・。おやしきのごかふうをどうしておまえはごぞんじか」と、)

「異なことを……。御屋敷の御家風をどうしてお前は御存じか」と、

(おんなはひざをたてなおした。)

女は膝をたて直した。

(「おくづとめのおじょちゅうのみぎのこゆびにばちだこがあるようでは、)

「奥勤めの御女中の右の小指に撥胝(ばちだこ)があるようでは、

(おんおくもさだめてみだれておりましょうとぞんじまして」)

御奥も定めて紊(みだ)れて居りましょうと存じまして」

(おんなのかおいろはきゅうにかわった。)

女の顔色は急に変った。

(「ごめんくだされませ。たのみます」)

「御免くだされませ。たのみます」

(こうしのそとであないをたのむおんなのこえがきこえた。)

格子の外で案内(あない)を頼む女の声がきこえた。

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