半七捕物帳 帯取りの池1

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第八話

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問題文

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(「いまではすっかりうめられてしまってあとかたものこっていませんが、)

一 「今ではすっかり埋められてしまって跡方も残っていませんが、

(ここがむかしのおびとりのいけというんですよ。えどのじだいには)

ここが昔の帯取りの池と云うんですよ。江戸の時代には

(まだちゃんとのこっていました。ごらんなさい。これですよ」)

まだちゃんと残っていました。御覧なさい。これですよ」

(はんしちろうじんはまんえんばんのえどえずをひろげてみせてくれた。)

半七老人は万延版の江戸絵図をひろげてみせてくれた。

(いちがやのげっけいじのにし、びしゅうけのなかやしきのしたにおびとりのいけという、)

市ヶ谷の月桂寺の西、尾州家の中屋敷の下におびとりの池という、

(かなりおおきそうないけがみずいろにそめられてあった。)

かなり大きそうな池が水色に染められてあった。

(「きょうとのきんじょにもおなじようなこせきがあるそうですが、)

「京都の近所にも同じような古蹟があるそうですが、

(えどのえずにもこのとおりしるしてありますからうそじゃありません。)

江戸の絵図にもこの通り記してありますから嘘じゃありません。

(このいけをおびとりというのは、むかしからこういうふしぎなでんせつが)

この池を帯取りというのは、昔からこういう不思議な伝説が

(あるからです。もちろん、とおいむかしのことでしょうが、このいけのうえに)

あるからです。勿論、遠い昔のことでしょうが、この池の上に

(うつくしいにしきのおびがういているのを、とおりがかりのたびびとなどがみつけて、)

美しい錦の帯が浮いているのを、通りがかりの旅人などが見付けて、

(それをとろうとしてうっかりちかよると、たちまちそのおびにまきこまれて、)

それを取ろうとしてうっかり近寄ると、忽ちその帯に巻き込まれて、

(いけのそこへしずめられてしまうんです。なんでもいけのぬしがにしきのおびにばけて、)

池の底へ沈められてしまうんです。なんでも池のぬしが錦の帯に化けて、

(とおりがかりのにんげんをひきよせるんだというんです」)

通りがかりの人間をひき寄せるんだと云うんです」

(「おおきいにしきへびでもすんでいたんでしょう」と、わたしはがくしゃめかしていった。)

「大きい錦蛇でも棲んでいたんでしょう」と、わたしは学者めかして云った。

(「そんなことかもしれませんよ」と、はんしちろうじんはさからわずに)

「そんなことかも知れませんよ」と、半七老人は忤(さか)らわずに

(うなずいた。「またあるせつによると、だいじゃがみずのそこにすんでいるはずはない。)

うなずいた。「又ある説によると、大蛇が水の底に棲んでいる筈はない。

(これはすいれんにたっしたとうぞくがみずのそこにかくれていて、にしきのおびをおとりに)

これは水練に達した盗賊が水の底にかくれていて、錦の帯を囮(おとり)に

(おうらいのたびびとをひきずりこんで、そのかいちゅうぶつやきものをみんな)

往来の旅人を引き摺り込んで、その懐中物や着物をみんな

(はぎとるのだろうというんです。まあ、どっちにしても)

剥ぎ取るのだろうと云うんです。まあ、どっちにしても

など

(きみのよくないところで、むかしはたいへんにひろいいけであったのを、)

気味のよくない所で、むかしは大変に広い池であったのを、

(えどじだいになってだんだんにせばめられたのだそうで、)

江戸時代になってだんだんに狭(せば)められたのだそうで、

(わたくしどものしっているじぶんには、きしのほうはもうあさいどろぬまのようになって、)

わたくしどもの知っている時分には、岸の方はもう浅い泥沼のようになって、

(なつになるとあしなどがはえていました。それでもおびとりのいけという)

夏になると葦などが生えていました。それでも帯取りの池という

(いやなでんせつがのこっているもんですから、だれもそこへいって)

忌(いや)な伝説が残っているもんですから、誰もそこへ行って

(さかなをとるものもなし、およぐものもなかったようでした。)

魚を捕る者も無し、泳ぐ者もなかったようでした。

(するとあるとき、そのおびとりのいけにおんなのおびがういていたもんだから、)

すると或る時、その帯取りの池に女の帯が浮いていたもんだから、

(みんなおどろいておおさわぎになったんですよ」)

みんな驚いて大騒ぎになったんですよ」

(それはあんせいろくねんのさんがつはじめであった。そのとしはよかんがわりあいに)

…… それは安政六年の三月はじめであった。その年は余寒が割合に

(ながかったせいか、いけのきしにもあしのあおいめがまだみえなかった。)

長かったせいか、池の岸にも葦の青い芽がまだ見えなかった。

(あるとき、きんじょのものがとおりかかると、きしのあさいところに)

ある時、近所のものが通りかかると、岸の浅いところに

(おんなのはでなおびがながくおをひいて、まんなかのみずのほうまでながれているのを)

女の派手な帯が長く尾をひいて、まん中の水の方まで流れているのを

(はっけんした。これがふつうのいけでもそうとうのもんだいになるべきはっけんであるのに、)

発見した。これが普通の池でも相当の問題になるべき発見であるのに、

(ましてむかしからおびとりのいけというきかいなでんせつをもっているこのいけに)

まして昔から帯取りの池という奇怪な伝説をもっている此の池に

(おんなのうつくしいおびがうかんでいるのであるから、そのうわさはそれからそれへと)

女の美しい帯が浮かんでいるのであるから、その噂はそれからそれへと

(つたわって、たちまちきんじょのだいひょうばんとなったが、うっかりちかよったら)

伝わって、勿ち近所の大評判となったが、うっかり近寄ったら

(どんなにおそろしいめにあうかもしれないというふあんがあるので、)

どんなに恐ろしい目に遇うかも知れないという不安があるので、

(おくびょうなけんぶつにんはただとおいほうからながめているばかりで、)

臆病な見物人はただ遠いほうから眺めているばかりで、

(たれもすすんでそのおびのしょうたいをみとどけるものがなかった。)

たれも進んでその帯の正体を見とどける者がなかった。

(そのうちにびしゅうけからさむらいがに、さんにんでてきた。かれらははかまの)

そのうちに尾州家から侍が二、三人出て来た。かれらは袴(はかま)の

(ももだちをとって、このどろぶかいきしにおりたって、)

股立(ももだ)ちを取って、この泥ぶかい岸に降り立って、

(ぎもんのおびをずるずるとたぐりあげたが、おびはべつにふしぎのはたらきをも)

疑問の帯をずるずると手繰りあげたが、帯は別に不思議の働きをも

(みせないで、ぬれたおをひきずりながらあかるいはるのひのもとにさらされた。)

見せないで、濡れた尾をひき摺りながら明るい春の日の下にさらされた。

(おびはいけのぬしではなかった。やはりふつうのわかいおんながしめるはでなおびで、)

帯は池の主(ぬし)ではなかった。やはり普通の若い女が締める派手な帯で、

(あおとべにとむらさきとさんだんにそめわけたちりめんじにあさのはもようが)

青と紅とむらさきと三段に染め分けた縮緬地に麻の葉模様が

(しろくしぼりだされてあった。)

白く絞り出されてあった。

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