半七捕物帳 帯取りの池3

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第八話

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問題文

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(「おみよがしんでいます。みなさん、はやくきてください」)

「おみよが死んでいます。皆さん、早く来てください」

(きんじょのひとたちもおどろいてかけつけると、むすめのおみよはおくのろくじょうまに)

近所の人達もおどろいて駈け付けると、娘のおみよは奥の六畳間に

(あおむけさまにたおれていた。それをきいていえぬしもかけつけた。)

仰向けさまに倒れていた。それを聞いて家主(いえぬし)も駈け付けた。

(やがていしもきた。いしのしんだんによると、おみよはなにものかに)

やがて医師も来た。医師の診断によると、おみよは何者かに

(しめころされたのであった。さらにふしぎなことは、おみよはおふくろといっしょに)

絞め殺されたのであった。更に不思議なことは、おみよは阿母と一緒に

(うちをでたときとおなじみなりをしているにもかかわらず、そのあさのはのおびが)

家を出た時と同じ服装(みなり)をしているにも拘らず、その麻の葉の帯が

(みえなかった。かのじょをまずしめころしておいて、それからそのしたいを)

見えなかった。彼女をまず絞め殺して置いて、それからその死体を

(てきとうのいちにすえなおしていったことは、そのしにざまのちっとも)

適当の位置に据え直して行ったことは、その死にざまのちっとも

(とりみだしていないのをみてもさとられた。)

取り乱していないのを見てもさとられた。

(「おみよさんがいつのまにかえってきたんだろう」)

「おみよさんがいつの間に帰って来たんだろう」

(それがだいいちにわからなかった。おちかのせつめいによると、そのひ)

それが第一に判らなかった。おちかの説明によると、その日

(ねりまへゆくとちゅうで、むすめのすがたがきゅうにみえなくなった。)

練馬へゆく途中で、娘のすがたが急に見えなくなった。

(もちろんそのまえからねりまへゆくのをひどくいやがっていたから、)

勿論その前から練馬へゆくのをひどく忌(いや)がっていたから、

(とちゅうでおふくろをまいてにげかえったのであろうと、おちかはすいりょうした。)

途中でおふくろを撒いて逃げ帰ったのであろうと、おちかは推量した。

(さきをいそぐみはいまさらひっかえしてせんぎもならないので、かのじょはむすめを)

先をいそぐ身は今更引っ返して詮議もならないので、彼女は娘を

(そのままにしてせんぽうへいった。つややらそうしきやらにみっかばかりの)

そのままにして先方へ行った。通夜やら葬式やらに三日ばかりの

(ひまをつぶして、よっかめのけさはやくにねりまをたって、たったいまかえりついてみると)

暇を潰して、四日目のけさ早くに練馬を発って、たった今帰りついて見ると

(おもてのじょうははずれていた。あんのとおり、むすめはさきにかえっているものとおもって、)

表の錠は外れていた。案の通り、娘は先に帰っているものと思って、

(こうしをあけてはいるとうちはひるでもまっくらであった。くちこごとをいいながら)

格子をあけてはいると内は昼でも真っ暗であった。口小言を云いながら

(まどをあけると、まずめにはいったものはむすめのあさましいなきがらで、)

窓をあけると、まず眼にはいったものは娘の浅ましい亡骸(なきがら)で、

など

(おちかはこしのぬけるほどおどろいたのであった。)

おちかは腰のぬけるほど驚いたのであった。

(「なにがなにやらいっこうにわかりません。わたくしはまるでゆめのようで)

「何がなにやら一向に判りません。わたくしはまるで夢のようで

(ございます」と、おちかはしょうたいもなくなきくずれていた。)

ございます」と、おちかは正体もなく泣き崩れていた。

(きんじょのひとたちもゆめのようであった。おみよがいつのまにかえってきて、)

近所の人達も夢のようであった。おみよがいつの間に帰って来て、

(いつのまにころされたか、りょうどなりのものすらもきがつかなかった。)

いつの間に殺されたか、両隣りの者すらも気がつかなかった。

(それにしてもおみよのおびをだれがといていったのかとせんぎのすえに、)

それにしてもおみよの帯を誰が解いて行ったのかと詮議の末に、

(それがおとといのあさ、かのおびとりのいけにうかんでいたということが)

それがおとといの朝、かの帯取りの池に浮かんでいたということが

(はじめてわかった。おちかもそのおびをみて、これはむすめのものにそういないと)

初めて判った。おちかもその帯を見て、これは娘の物に相違ないと

(なきながらしょうめいした。してみると、なにものかがおみよをしめころして、)

泣きながら証明した。して見ると、何者かがおみよを絞め殺して、

(そのおびをといてかかえだして、わざわざおびとりのいけへなげこんだものであろう。)

その帯を解いて抱え出して、わざわざ帯取りの池へ投げ込んだものであろう。

(しかし、なんのためにかのじょのおびをといたか、よくのためならばこのかないに)

しかし、なんの為に彼女の帯を解いたか、慾の為ならばこの家内に

(もっとかねめのしなはいくらもある。かのじょのおびばかりでなく、きものをも)

もっと金目の品は幾らもある。彼女の帯ばかりでなく、着物をも

(はいでいきそうなものであるのに、たんにおびばかりにめをつけて、)

剥いでいきそうなものであるのに、単に帯ばかりに眼をつけて、

(しかもばしょをえらんで、それをおびとりのいけへしずめたというには)

しかも場所をえらんで、それを帯取りの池へ沈めたというには

(なにかふかいしさいがなければならない。まさかにいけのぬしがうつくしいおみよを)

何か深い仔細がなければならない。まさかに池の主が美しいおみよを

(みこんだわけでもあるまい。どうかんがえても、このぎもんがまだよういに)

魅こんだ訳でもあるまい。どう考えても、この疑問がまだ容易に

(とけそうもなかった。)

解けそうもなかった。

(こうなるときんじょめいわくで、ながやじゅうのものはみなじしんばんのとりしらべをうけた。)

こうなると近所迷惑で、長屋中のものはみな自身番の取り調べをうけた。

(とりわけてははのおちかは、じぶんがむすめをしめころしておいて、)

取り分けて母のおちかは、自分が娘を絞め殺して置いて、

(わざとうちをるすにしていたのではないかといううたがいをうけて、)

わざと家を留守にしていたのではないかという疑いをうけて、

(そのなかでもいちばんげんじゅうにぎんみされたが、おちかはまったくなんにもしらないと)

そのなかでも一番厳重に吟味されたが、おちかは全くなんにも知らないと

(いいはった。きんじょのひとたちもおやこがふたりづれででていくところを)

云い張った。近所の人達も母子が二人づれで出て行くところを

(みとどけたとしょうめいした。ことにこのおやこはふだんからなかよしで、)

見とどけたと証明した。ことにこの母子はふだんから仲良しで、

(おふくろがむすめをころすようなりゆうはだれのめにもはっけんされなかった。)

おふくろが娘を殺すような理由は誰の眼にも発見されなかった。

(おびとりのいけのひみつはそのおそろしいでんせつとおなじように、)

帯取りの池の秘密はそのおそろしい伝説と同じように、

(いつまでもぎもんのままでのこされていた。)

いつまでも疑問のままで残されていた。

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