半七捕物帳 帯取りの池5

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第八話

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問題文

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(ふたりはたんぼみちをいきぬけて、きしぼじんまえのながいおうらいへでると、)

二人は田圃(たんぼ)路を行きぬけて、鬼子母神前の長い往来へ出ると、

(ここらのきぶんをしょうちょうするようなおおきいけやきのきはだが、)

ここらの気分を象徴するような大きい欅(けやき)の木肌が、

(あかるいはるのひにひかっていた。てんぽういらい、さんけいのあしがすこしゆるんだとは)

あかるい春の日に光っていた。天保以来、参詣の足が少しゆるんだとは

(いいながら、あきのえしきについで、はるのさくらどきはここもさすがに)

いいながら、秋の会式(えしき)についで、春の桜時はここもさすがに

(にぎわって、だんごぢゃやにうちわのおとがいそがしかった。すすきのみみずくは)

賑わって、団子茶屋に団扇の音が忙しかった。すすきの木菟(みみずく)は

(しゅんはずれで、このころはそのとがったくちばしをみせなかったが、)

旬はずれで、この頃はその尖ったくちばしを見せなかったが、

(めいぶつのかざぐるまははるかぜがそよそよとわたって、これもめいぶつのまきわらにさしてある)

名物の風車は春風がそよそよと渡って、これも名物の巻藁にさしてある

(ささのえだに、むぎわらのおいらんがあかいたもとをかるくなびかせて、)

笹の枝に、麦藁の花魁(おいらん)があかい袂を軽くなびかせて、

(かみざいくのちょうのはねがひらひらとしろくもつれあっているのも、)

紙細工の蝶の翅が(はね)がひらひらと白くもつれ合っているのも、

(のどかなはるらしいかげをつくっていた。)

のどかな春らしい影を作っていた。

(ふたりはけやきとさくらのあいだをくぐってほんどうのまえにたった。)

ふたりは欅と桜の間をくぐって本堂の前に立った。

(「おやぶん、なかなかごさんけいがあるねえ」)

「親分、なかなか御参詣があるねえ」

(「はなどきだ。おれたちのようなうわきまいりもあるんだろう。)

「花どきだ。おれたちのような浮気参りもあるんだろう。

(せっかくきたもんだ。よくおがんでいけ」)

折角来たもんだ。よく拝んでいけ」

(まつきちもまじめになっておがんだ。なだいのやぶそばやこうこうていはもう)

松吉もまじめになって拝んだ。名代の藪蕎麦や向畊亭(こうこうてい)はもう

(あとかたもなくなったので、ふたりはみょうがやへひるめしをくいにはいった。)

跡方もなくなったので、二人は茗荷屋へ午飯(ひるめし)を食いにはいった。

(まつきちはさけをのむので、はんしちもいち、にはいつきあった。ふたりはうすあかいかおをして)

松吉は酒をのむので、半七も一、二杯附き合った。二人はうす紅い顔をして

(ちゃやをでると、かどぐちでこいきなふうをしたにじゅうさんしのおんなにであった。)

茶屋を出ると、門口(かどぐち)で小粋なふうをした二十三四の女に出会った。

(おんなはいもうとらしいじゅうしごのこむすめをつれて、きりやのあめのふくろをさげていた。)

女は妹らしい十四五の小娘をつれて、桐屋の飴の袋をさげていた。

(こむすめはささのえだにつけたすみよしおどりのむぎわらにんぎょうをかついでいた。)

小娘は笹の枝につけた住吉踊りの麦藁人形をかついでいた。

など

(「あら、みかわちょうのおやぶんさん」と、おんなはたちどまってあいそのいいえがおをみせた。)

「あら、三河町の親分さん」と、女は立ち停まって愛想のいい笑顔をみせた。

(「ごしんじんだね」と、はんしちもわらってえしゃくすると、こむすめもわらってあいさつした。)

「御信心だね」と、半七も笑って会釈すると、小娘も笑って挨拶した。

(「おまえたちもおひるかえ。もうすこしはやいとおしゃくでもしてもらうものを、)

「お前たちもお午飯(ひる)かえ。もう少し早いとお酌でもして貰うものを、

(おしいことをしたっけな」と、はんしちはまたわらった。)

惜しいことをしたっけな」と、半七はまた笑った。

(「ほんとうにざんねんでございますね」と、おんなもわらった。「いもうととふたりで)

「ほんとうに残念でございますね」と、女も笑った。「妹と二人で

(うちをあけちゃあこまるんですけれど、きょうはよんどころないごだいさんを)

家をあけちゃあ困るんですけれど、きょうはよんどころない御代参を

(たのまれたもんですからね。ひとりでふたつねがっちゃあ、あんまりよくばっているようで)

頼まれたもんですからね。一人で二つ願っちゃあ、あんまり慾張っているようで

(もったいのうござんすから、じぶんはじぶん。いもうとはごだいさんと、)

勿体のうござんすから、自分は自分。妹は御代参と、

(こうやくわりをきめてまいりました」)

こう役割を決めてまいりました」

(「これがびょうきとでもいうのかえ」)

「これが病気とでもいうのかえ」

(まつきちはおやゆびをだしてみせると、おんなはかたをすこしそらせてわらった。)

松吉は親指を出してみせると、女は肩を少しそらせて笑った。

(「ほほ、ごじょうだんでしょう。かわいそうにこれでもまだおよめいりまえでさあね。)

「ほほ、御冗談でしょう。可哀そうにこれでもまだお嫁入り前でさあね。

(ごだいさんをたのまれたのは、ちょうないのふるぎやのおっかさんに・・・・・・。)

御代参をたのまれたのは、町内の古着屋のおっかさんに……。

(といいわけをするのもやぼですが、そこのいもうとがあたしのところへ)

と云い訳をするのも野暮ですが、そこの妹があたしのところへ

(おけいこにくるもんですから」)

お稽古に来るもんですから」

(「じゃあ、そのおっかさんもごしんじんなんだね」と、はんしちはなんのきも)

「じゃあ、そのおっかさんも御信心なんだね」と、半七は何の気も

(つかずにいった。)

つかずに云った。

(「ごしんじんもごしんじんですけれど、すこししんぱいごとがありましてね。)

「御信心も御信心ですけれど、すこし心配事がありましてね。

(そこのむすこさんがとおかばかりもまえから、どこへいってしまったか)

そこの息子さんが十日ばかりも前から、どこへ行ってしまったか

(わからないんですよ。ほうぼうのうらないにみてもらったら、けんなんがあるの、)

判らないんですよ。方々の卜者(うらない)にみて貰ったら、剣難があるの、

(すいなんがあるのといわれたそうで、おっかさんはなおなおくろうしているんです。)

水難があるのと云われたそうで、おっかさんはなおなお苦労しているんです。

(いまでもおどうでおみくじをいただいたんですが、やっぱりきょうと)

今でもお堂で御神籤(おみくじ)を頂いたんですが、やっぱり凶と

(でたので・・・・・・」と、おんなはくろうありそうにほそいまゆをよせた。)

出たので……」と、女は苦労ありそうに細い眉を寄せた。

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