半七捕物帳 帯取りの池9
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問題文
(「ごくろうさまでございます。なにかごようでございますか」)
「御苦労さまでございます。なにか御用でございますか」
(「このうらのむすめのうちには、そのあとなんにもかわったことはありませんかね」)
「この裏の娘の家には、その後なんにも変ったことはありませんかね」
(「けさほどもちょうごろうおやぶんがみえましたので、ちょっとおはなしを)
「けさほども長五郎親分が見えましたので、ちょっとお話を
(いたしておきましたが・・・・・・」)
いたして置きましたが……」
(ちょうごろうというのはよつやからこのあたりをなわばりにしているやまのてのおかっぴきである。)
長五郎というのは四谷から此の辺を縄張りにしている山の手の岡っ引である。
(ちょうごろうがもうてをつけているところへわりこんではいるのも)
長五郎がもう手をつけているところへ割り込んではいるのも
(よくないとおもったが、せっかくきたものであるから、ともかくも)
良くないと思ったが、折角来たものであるから、ともかくも
(きくだけのことはきいていこうとおもった。)
聞くだけのことは聞いて行こうと思った。
(「ちょうごろうにどんなはなしをしなすったんだ」)
「長五郎にどんな話をしなすったんだ」
(「あのおみよはひとにころされたんじゃないんです」と、ていしゅはいった。)
「あのおみよは人に殺されたんじゃないんです」と、亭主は云った。
(「おふくろもそのとうざはきがてんとうしているもんですから、)
「おふくろもその当座は気が転倒しているもんですから、
(なんにもきがつかなかったんですが、きのうのあさ、ながひばちの)
なんにも気が付かなかったんですが、きのうの朝、長火鉢の
(まんなかのひきだしをあけようとすると、おくのほうになにか)
まん中の抽斗(ひきだし)をあけようとすると、奥の方に何か
(つかえているようですなおにあかないんです。へんだとおもって)
つかえているようで素直にあかないんです。変だと思って
(むりにこじあけると、おくのほうになにかかいたかみきれがはさまっていたので、)
無理にこじあけると、奥の方に何か書いた紙きれが挟まっていたので、
(ひっぱりだしてよんでみると、それがむすめのかきおきなんです。)
引っ張り出して読んでみると、それが娘の書置なんです。
(はしりがきのみじかいてがみで、よんどころないわけがあってしにますから)
走り書きの短い手紙で、よんどころない訳があって死にますから
(さきだつふこうはゆるしてくださいというようなことがかいてあったので、)
先立つ不孝はゆるしてくださいというようなことが書いてあったので、
(おふくろはまたびっくりして、すぐにそのかきおきをつかんで)
おふくろはまたびっくりして、すぐにその書置をつかんで
(わたしのところへとんできました。むすめのじはわたくしもしっています。)
私のところへ飛んで来ました。娘の字はわたくしも知っています。
(おふくろもむすめのかいたものにそういないというんです。してみると、)
おふくろも娘の書いたものに相違ないと云うんです。して見ると、
(あのおみよはなにかいうにいわれないしさいがあって、じぶんでくびをくくって)
あのおみよは何か云うに云われない仔細があって、自分で首を縊(くく)って
(しんだものとみえます。そのことはとりあえずじしんばんのほうへも)
死んだものと見えます。そのことは取りあえず自身番の方へも
(おとどけもうしておきましたが、けさもちょうごろうおやぶんがみえましたから)
お届け申して置きましたが、けさも長五郎親分が見えましたから
(くわしくもうしあげました」)
詳しく申し上げました」
(「そりゃああんがいなことになったね。そうして、ちょうごろうはなんといいましたえ」)
「そりゃあ案外な事になったね。そうして、長五郎はなんと云いましたえ」
(と、はんしちはきいた。)
と、半七は訊いた。
(「おやぶんもくびをかしげていましたが、じめつじゃあどうもしかたがないと・・・・・・」)
「親分も首をかしげていましたが、自滅じゃあどうも仕方がないと……」
(「そうさ。じめつじゃあせんぎにもならねえ」)
「そうさ。自滅じゃあ詮議にもならねえ」
(それからおみよがふだんのぎょうじょうなどをすこしばかりきいて、)
それからおみよが平素(ふだん)の行状などを少しばかり訊いて、
(はんしちはここをでた。しかしかれはまだふにおちなかった。)
半七はここを出た。しかし彼はまだ腑に落ちなかった。
(たといおみよがじぶんでのどをしめたとしても、だれがそのしがいを)
たといおみよが自分で喉を絞めたとしても、誰がその死骸を
(ぎょうぎよくねかしておいたのであろう。ちょうごろうはどうかんがえているかしらないが、)
行儀よく寝かして置いたのであろう。長五郎はどう考えているか知らないが、
(たんにじめつというだけでこのじけんをこのままにほうむってしまうのは、)
単に自滅というだけで此の事件をこのままに葬ってしまうのは、
(ちっとせんぎがたりないようにおもわれた。それにしても、)
ちっと詮議が足りないように思われた。それにしても、
(おみよのかきおきがぎひつでないいじょう、かれがじさつをくわだてたのはじじつである。)
おみよの書置が偽筆でない以上、かれが自殺を企てたのは事実である。
(わかいおんなはなぜじぶんでしにいそぎをしたのか、はんしちはそのしさいを)
若い女はなぜ自分で死に急ぎをしたのか、半七はその仔細を
(いろいろにかんがえたすえに、ふとおもいついたことがあった。)
いろいろに考えた末に、ふと思い付いたことがあった。
(かれはそのままかんだのうちへかえって、まつきちのたよりをまっていると、)
彼はそのまま神田の家へ帰って、松吉のたよりを待っていると、
(それからいつかめのひるすぎに、まつきちがきまりのわるそうなかおをだした。)
それから五日目の午すぎに、松吉がきまりの悪そうな顔を出した。