半七捕物帳 帯取りの池11

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第八話

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問題文

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(「おや、みかわちょうのおやぶんさん。せんじつはどうもごやっかいになりました。)

四 「おや、三河町の親分さん。先日はどうも御厄介になりました。

(そのごまだおれいにもうかがいませんで、なにしろびんぼうひまなしのうえに、)

その後まだお礼にも伺いませんで、なにしろ貧乏暇無しの上に、

(すこしからだがわるかったもんでございますから。ほほほほほ」)

少し身体が悪かったもんでございますから。ほほほほほ」

(きねやおとくはべんべらもののはんてんのえりをゆりなおしながらわらいがおをして)

杵屋お登久はべんべら物の半纏の襟を揺り直しながら笑い顔をして

(はんしちをむかえた。かのじょはまつきちがうらぐちにしのんでいるのをしらないらしかった。)

半七をむかえた。彼女は松吉が裏口に忍んでいるのを知らないらしかった。

(はんしちはおくへとおされて、ちいさいおきどこのまえにすわった。)

半七は奥へ通されて、小さい置床(おきどこ)の前に坐った。

(よりつきのよじょうはんにはながひばちやたんすやちゃだんすがならんでいて、)

寄付(よりつき)の四畳半には長火鉢や簞笥や茶簞笥が列んでいて、

(おくのろくじょうがけいこばになっているらしく、そこにはけいこようのほんばこや)

奥の六畳が稽古場になっているらしく、そこには稽古用の本箱や

(しゃみせんがおいてあった。やっつ(ごごにじ)すこしまえで、てならいごもまだ)

三味線が置いてあった。八ツ(午後二時)少し前で、手習い子もまだ

(かえってこないじこくのせいか、でしはひとりもまっていなかった。)

帰って来ない時刻のせいか、弟子は一人も待っていなかった。

(「いもうとはどうした」 「あの、きょうもごさんけいにまいりました」)

「妹はどうした」 「あの、きょうも御参詣にまいりました」

(「きしぼじんさまかえ」と、はんしちはおとくのもってきたさくらゆをのみながら)

「鬼子母神様かえ」と、半七はお登久の持って来た桜湯をのみながら

(にがわらいをした。「なかなかごしんじんだねえ。だが、きしぼじんさまを)

苦笑いをした。「なかなか御信心だねえ。だが、鬼子母神様を

(おがむよりおれをおがんだほうがいいかもしれねえ。せんじろうのたよりは)

拝むより俺を拝んだ方がいいかも知れねえ。千次郎のたよりは

(すっかりわかったぜ」)

すっかり判ったぜ」

(おとくはまゆをすこしうごかしたが、やがてちょうしをあわせるように、はなやかにわらった。)

お登久は眉を少し動かしたが、やがて調子をあわせるように、華やかに笑った。

(「ほんとうにそうでございますね。おやぶんさんにおねがいもうしておけば、)

「ほんとうにそうでございますね。親分さんにお願い申して置けば、

(それでもうあんしんなんでございますけれど・・・・・・」)

それでもう安心なんでございますけれど……」

(「じょうだんじゃねえ。ほんとうにたよりがわかったんだ。それをおしえてやろうと)

「冗談じゃねえ。ほんとうにたよりが判ったんだ。それを教えてやろうと

(おもって、わざわざしたまちのほうからのぼってきたんだぜ。ししょう、)

思って、わざわざ下町のほうからのぼって来たんだぜ。師匠、

など

(だれもほかにいやあしめえね」)

だれもほかにいやあしめえね」

(「はあ」と、おとくはからだをかたくしてはんしちのかおをみつめていた。)

「はあ」と、お登久はからだを固くして半七の顔を見つめていた。

(「ししょうのまえじゃあちっといいにくいことだが、せんじろうはいちがやかっぱざかしたの)

「師匠の前じゃあちっと云いにくいことだが、千次郎は市ヶ谷合羽坂下の

(さかやのうらにいるおみよというわかいおんなと、きんじょのしちやにほうこうしているじぶんから)

酒屋の裏にいるおみよという若い女と、近所の質屋に奉公している時分から

(ひっからんでいたんだ。おまえがふだんからきをまわしているあいてというのは)

引っからんでいたんだ。お前がふだんから気をまわしている相手というのは

(そのおんなだ。ところで、そこにどういういんねんがあったかしらねえが、)

その女だ。ところで、そこにどういう因縁があったか知らねえが、

(せんじろうとおみよはしんじゅうすることになって、おとこはまずおんなをしめころした」)

千次郎とおみよは心中することになって、男はまず女を絞め殺した」

(「まあ」と、おとくのかおはまっさおになった。「ほんとうにふたりで)

「まあ」と、お登久の顔は真っ蒼になった。「ほんとうに二人で

(しぬきだったんでしょうか」)

死ぬ気だったんでしょうか」

(「ほんとうもうそもねえ。しんけんにしぬきだったんだろう。だが、)

「ほんとうも嘘もねえ。真剣に死ぬ気だったんだろう。だが、

(おんなのしぬのをみると、おとこははくじょうなものさ。きゅうにきがかわってにげだして、)

女の死ぬのを見ると、男は薄情なものさ。急に気が変って逃げ出して、

(それからどこかにかくれてしまったんだ。しんだおんなはいいつらのかわで、)

それから何処かに隠れてしまったんだ。死んだ女は好い面(つら)の皮で、

(さぞうらんでいるだろうよ」)

さぞ怨んでいるだろうよ」

(「ふたりがしんじゅうだというたしかなしょうこがあるんでしょうか」)

「二人が心中だという確かな証拠があるんでしょうか」

(「おんなのかきおきがみつかったからまちがいもあるめえ」)

「女の書置が見付かったから間違いもあるめえ」

(いいかけてふときがつくと、おとくのすずしいめにはなみだがいっぱいにたまっていた。)

云いかけてふと気がつくと、お登久の涼しい眼には涙がいっぱいに溜っていた。

(「そのおんなとしんじゅうまでするくらいじゃあ、つまりわたしはだまされていたんですね」)

「その女と心中までする位じゃあ、つまり私は欺されていたんですね」

(「ししょうにゃあきのどくだが、せんじつめると、まあそんなりくつにも)

「師匠にゃあ気の毒だが、煎じつめると、まあそんな理窟にも

(なるようだね」)

なるようだね」

(「あたしはなぜこんなにばかなんでしょうね」)

「あたしはなぜこんなに馬鹿なんでしょうね」

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