半七捕物帳 春の雪解6

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第九話
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 kkk4015 4848 B 5.0 96.7% 357.4 1794 61 36 2024/11/13

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問題文

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(たまちのじゅうべえがめをつけているのは、おきんのもんだいよりおそらく)

田町の重兵衛が眼をつけているのは、おきんの問題より恐らく

(このとらまつにかんけいしているじけんであろうとはんしちはそうぞうした。)

この寅松に関係している事件であろうと半七は想像した。

(かれはさらにとくじゅにきいた。)

かれは更に徳寿に訊いた。

(「あのたついせのりょうにいるたがそでというおんなも、やっぱりかなすぎの)

「あの辰伊勢の寮にいる誰袖(たがそで)という女も、やっぱり金杉の

(きんじょのものだというじゃあねえか。おまえ、しらねえか」)

近所の者だというじゃあねえか。お前、知らねえか」

(「ぞんじております。たがそでさんのおいらんもかなすぎのうまれで、)

「存じて居ります。誰袖さんの花魁も金杉の生まれで、

(やっぱりおきんのきんじょでそだったんだそうですが、ふたおやともに)

やっぱりおきんの近所で育ったんだそうですが、両親(ふたおや)ともに

(もうしにたえてしまいまして、これもあとかたはございませんよ」)

もう死に絶えてしまいまして、これも跡方はございませんよ」

(すべてのてがかりがたえてしまったので、はんしちはしつぼうさせられた。)

すべての手掛りが断えてしまったので、半七は失望させられた。

(それでもかれはごうじょうにこのあんまからなにかのてづるをさぐりだそうとこころみた。)

それでも彼は強情にこの按摩から何かの手蔓(てづる)を探り出そうと試みた。

(いまもむかしもこんきがとぼしくてはできないしごとである。)

今もむかしも根気が乏しくては出来ない仕事である。

(「ねえ、とくじゅさん。このあいだきいていりゃあ、そのたがそでのおいらんは)

「ねえ、徳寿さん。このあいだ聞いていりゃあ、その誰袖の花魁は

(たいへんおまえをひいきにして、ほかのあんまさんじゃいけねえと)

大変おまえを贔屓にして、ほかの按摩さんじゃいけねえと

(いっているそうじゃあねえか。おかしなことをきくようだが、)

云っているそうじゃあねえか。おかしなことを訊くようだが、

(どうしておまえ、そんなにおいらんのきにいったんだえ。)

どうしてお前、そんなに花魁の気に入ったんだえ。

(もみかたのじょうずばかりじゃあるめえ。なにかほかにわけがあるだろう」)

揉み方の上手ばかりじゃあるめえ。何かほかに訳があるだろう」

(「へえ」と、とくじゅはにやにやわらっていた。)

「へえ」と、徳寿はにやにや笑っていた。

(はんしちとしょうたはかおをみあわせた。なんとおもったか、はんしちはかみいれから)

半七と庄太は顔を見あわせた。なんと思ったか、半七は紙入れから

(いちぶのかねをだしてとくじゅのてににぎらせた。そうして、)

一歩の銀(かね)を出して徳寿の手に握らせた。そうして、

(ちょいとそこまできてくれといって、かれをひだりがわのよこちょうへつれこんだ。)

ちょいと其処まで来てくれと云って、彼を左側の横町へ連れ込んだ。

など

(やなぎはらけのかかえやしきとあんらくじというてらのあいだをぬけると、)

柳原家の抱え屋敷と安楽寺という寺の間をぬけると、

(しょうめんにはいちめんのたはたがひろくひらけていた。たのくろをながれる)

正面には一面の田畑が広く開けていた。田の畔(くろ)を流れる

(ちいさいみずのはたで、こどもがどじょうをすくっているほかに、)

小さい水のはたで、子供が泥鰌(どじょう)をすくっているほかに、

(ひとどおりもないのをみすまして、はんしちはまたきいた。)

人通りもないのを見すまして、半七はまた訊いた。

(「おまえかくしちゃあいけねえ。こんなやぼなことをいいたくねえが、)

「おまえ隠しちゃあいけねえ。こんな野暮なことを云いたくねえが、

(おれはじつはふところにじってをもっているんだ」)

おれは実はふところに十手を持っているんだ」

(とくじゅはにわかにかおのいろをかえて、おしつぶされたように、こごしをかがめた。)

徳寿は俄かに顔の色を変えて、おし潰されたように、小腰をかがめた。

(わたくしのしっているだけのことはなんでももうしあげますと、)

わたくしの知っているだけの事はなんでも申し上げますと、

(かれはふるえながらこたえた。)

かれはふるえながら答えた。

(「じゃあ、しょうじきにいってくれ。おまえ、たがそでにたのまれて、)

「じゃあ、正直に云ってくれ。おまえ、誰袖に頼まれて、

(なにかないしょのふみつかいでもするんじゃあねえか」)

なにか内証の文(ふみ)使いでもするんじゃあねえか」

(「おそれいりました」と、とくじゅはみえないめをとじてあたまをさげた。)

「恐れ入りました」と、徳寿は見えない眼をとじて頭を下げた。

(「おさっしのとおりでございます」)

「お察しの通りでございます」

(「そのふみつかいをするあいてはだれだ」)

「その文使いをする相手は誰だ」

(「それはたついせのわかだんなでございます」)

「それは辰伊勢の若旦那でございます」

(はんしちとしょうたはかおをみあわせた。)

半七と庄太は顔を見あわせた。

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