半七捕物帳 朝顔屋敷4

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第11話

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問題文

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(かみかくしーーこのじだいにうまれたはんしちはまんざらそれをうそともおもって)

二 神隠しーーこの時代に生まれた半七はまんざらそれを嘘とも思って

(いなかった。よのなかにはそんなふしぎがないともかぎらないとおもっていた。)

いなかった。世の中にはそんな不思議がないとも限らないと思っていた。

(そこで、それがしんじつのかみかくしであるとすれば、とてもじぶんたちのちからには)

そこで、それが真実の神隠しであるとすれば、とても自分たちの力には

(およばないことであるが、まんいちほかにしさいがあるとすれば、なんとかして)

及ばないことであるが、万一ほかに仔細があるとすれば、何とかして

(さがしあたらないはずはないというじしんもあるので、ともかくもできるだけのことは)

探し当らない筈はないという自信もあるので、ともかくも出来るだけのことは

(いたしますと、かれはかくえもんにやくそくしてわかれた。)

致しますと、彼は角右衛門に約束して別れた。

(うちへかえるとちゅうでかれはかんがえた。ゆらい、はたもとやしきなどには、せけんにもれない、)

家へ帰る途中で彼はかんがえた。由来、旗本屋敷などには、世間に洩れない、

(いろいろのひみつがひそんでいる。しょうじきになにもかもはなしてくれたようであるが、)

いろいろの秘密がひそんでいる。正直に何もかも話してくれたようであるが、

(ようにんとてもしゅかのめいわくになるようなことはこうがいしなかったにそういない。)

用人とても主家の迷惑になるようなことは口外しなかったに相違ない。

(したがってこのじけんのおくには、どんないりくんだじじょうがわだかまっていないとも)

したがって此の事件の奥には、どんな入り組んだ事情がわだかまっていないとも

(かぎらない。ようにんのはなしだけでうっかりみこみをつけようとすると、)

限らない。用人の話だけでうっかり見込みを付けようとすると、

(とんだけんとうちがいになるかもしれない。とりあえずうらよばんちょうのきんじょへいって、)

飛んだ見当違いになるかも知れない。とりあえず裏四番町の近所へ行って、

(すぎののやしきのようすをさぐってきたうえでなければ、みぎへもひだりへもふりむくことが)

杉野の屋敷の様子を探って来た上でなければ、右へも左へも振り向くことが

(できそうもないとおもったので、はんしちはかんだのうちへいったんかえって、)

出来そうもないと思ったので、半七は神田の家へ一旦帰って、

(それからまたでなおしてくだんのさかをのぼった。)

それから又出直して九段の坂を登った。

(うめたてのあきちをよこにみて、うらよばんちょうのやしきちょうへはいると、すぎののやしきは)

埋め立ての空地を横に見て、裏四番町の屋敷町へはいると、杉野の屋敷は

(かなりおおきそうなかまえで、ひるすぎのふゆのひはみなみむきのながやまどを)

可なり大きそうな構えで、午(ひる)すぎの冬の日は南向きの長屋窓を

(あかるくてらしていた。もんからでてきたさかやのごようききをつかまえて、)

明るく照らしていた。門から出て来た酒屋の御用聞きをつかまえて、

(はんしちはそれとなくやしきのようすをきいてみたが、べつにとりとめたてがかりも)

半七はそれとなく屋敷の様子を訊いてみたが、別に取り留めた手がかりも

(なかった。きんじょのひけしやしきにしっているものがあるので、そこへいって)

なかった。近所の火消し屋敷に知っている者があるので、そこへ行って

など

(ききだしたらまたなにかのほりだしものがあるかもしれないと、かれはさかやの)

訊き出したら又なにかの掘り出し物があるかも知れないと、彼は酒屋の

(ごようききにわかれて7、8けんばかりあるきだすと、そのとなりのおおきいやしきから)

御用聞きに別れて七、八間ばかり歩き出すと、その隣りの大きい屋敷から

(さげじゅうをもったわかいおんながすこしあかいかおをしてでてきた。)

提重(さげじゅう)を持った若い女が少し紅い顔をして出て来た。

(「おい、おろくじゃねえか」)

「おい、お六じゃねえか」

(はんしちにこえをかけられて、わかいおんなはたちどまった。せのひくいふとったおんなで、)

半七に声をかけられて、若い女は立ち停まった。背の低い肥った女で、

(ひきがえるのようなかおにおしろいをべたべたなすって、)

蝦蟆(ひきがえる)のような顔に白粉(おしろい)をべたべたなすって、

(まえがみにあかいきれなどをかけていた。)

前髪にあかい布(きれ)などをかけていた。

(「あら、みかわちょうのおやぶんさんでしたか。どうもしばらく」と、)

「あら、三河町の親分さんでしたか。どうもしばらく」と、

(おろくはいやにしなをつくりながらあいさつした。)

お六はいやに嬌態(しな)をつくりながら挨拶した。

(「ひるまからいいごきげんだね」)

「昼間から好い御機嫌だね」

(「あら」と、おろくはそでぐちでほおをおさえながらわらった。「そんなにあかくなって)

「あら」と、お六は袖口で頬を押さえながら笑った。「そんなに紅くなって

(いますか。いまここのおへやでむりにちゃわんでいっぱいのまされたもんですから」)

いますか。今ここのお部屋で無理に茶碗で一杯飲まされたもんですから」

(かれはぶけやしきのちゅうげんべやへでいりをするものうりのおんなであった。)

彼は武家屋敷の中間部屋へ出入りをする物売りの女であった。

(かれのさげているじゅうばこのなかにはすしやだがしのたぐいをいれてあるが、)

かれの提げている重箱の中には鮓(すし)や駄菓子のたぐいを入れてあるが、

(それをうるばかりがかれらのもくてきではなかった。もちろん、いいおんななどは)

それを売るばかりが彼等の目的ではなかった。勿論、美(い)い女などは

(けっしていない。よたかになるか、さげじゅうになるか、いずれにしても)

決していない。夜鷹になるか、提重になるか、いずれにしても

(ぶきりょうのかおにべにやおしろいをぬって、おんなにうえているちゅうげんどもにこびをうるのが)

不器量の顔に紅や白粉を塗って、女に飢えている中間どもに媚を売るのが

(かれらのならわしであった。ここでさげじゅうのおろくにであったのは)

彼等のならわしであった。ここで提重のお六に出逢ったのは

(もっけのさいわいだとおもったので、はんしちはすりよってこごえできいた。)

勿怪(もっけ)の幸いだと思ったので、半七は摺り寄って小声で訊いた。

(「おまえ、このすぎのさまのへやへもでいりをするんだろう」)

「お前、この杉野様の部屋へも出入りをするんだろう」

(「いいえ。あたし、あのおやしきへはいちどもいったことはありませんよ」)

「いいえ。あたし、あのお屋敷へは一度も行ったことはありませんよ」

(「そうか・・・・・・」とはんしちはすこししつぼうした。)

「そうか……」と半七は少し失望した。

(「だって、あすこはなだいのばけものやしきですもの」)

「だって、あすこは名代(なだい)の化け物屋敷ですもの」

(「ふうむ。あすこはばけものやしきか」と、はんしちはくびをかしげた。)

「ふうむ。あすこは化け物屋敷か」と、半七は首をかしげた。

(「そうして、あのやしきへなにがでる」)

「そうして、あの屋敷へ何が出る」

(「なにがでるかしりませんけれど、いやですわ。)

「なにが出るか知りませんけれど、いやですわ。

(ここらであさがおやしきといえばだれでもしっていますよ」)

ここらで朝顔屋敷といえば誰でも知っていますよ」

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