半七捕物帳 猫騒動4

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第12話

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問題文

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(しんめいのまつりのよるであった。おなじながやにすんでいる)

二 神明の祭礼(まつり)の夜であった。おなじ長屋に住んでいる

(いかけじょうまえなおしのしょくにんのにょうぼうがななつになるおんなのこをつれて、)

鋳掛(いかけ)錠前直しの職人の女房が七歳(ななつ)になる女の児をつれて、

(しんめいのおみやへさんけいにいって、よっつ(ごごじゅうじ)すこしまえにかえってくると、)

神明のお宮へ参詣に行って、四ツ(午後十時)少し前に帰って来ると、

(そのばんはつきがさえて、あかるいやねのうえにつゆがうすじろくひかっていた。)

その晩は月が冴えて、明るい屋根の上に露が薄白く光っていた。

(「あら、おっかさん」)

「あら、阿母(おっか)さん」

(おんなのこはなにをみたか、ははのたもとをひいてきゅうにたちすくんだ。)

女の児はなにを見たか、母の袂をひいて急に立ちすくんだ。

(にょうぼうもおなじくたちどまった。ねこばばのやねのうえにちいさいしろいかげが)

女房もおなじく立ち停まった。猫婆の屋根の上に小さい白い影が

(まよっているのであった。それはいっぴきのしろねこで、しかもまえあしにほんをたかくあげて、)

迷っているのであった。それは一匹の白猫で、しかも前脚二本を高くあげて、

(あとあしにほんはにんげんのようにつったっているのをみたときに、にょうぼうははっといきを)

後足二本は人間のように突っ立っているのを見た時に、女房ははっと息を

(のみこんだ。かれはむすめをこごえでせいして、しばらくそっとうかがっていると、)

のみ込んだ。かれは娘を小声で制して、しばらくそっと窺っていると、

(ねこはながいおをひきずりながら、おどるようなあしどりでこけらやねのうえを)

猫は長い尾を引き摺りながら、踊るような足取りで板葺(こけら)屋根の上を

(ふらふらとたってあるいた。にょうぼうはぞっとしてとりはだになった。)

ふらふらと立ってあるいた。女房はぞっとして鶏肌(とりはだ)になった。

(ねこがやねをわたりきって、そのしろいかげがおまきのうちのひきまどのなかにかくれたのを)

猫が屋根を渡りきって、その白い影がおまきの家の引窓のなかに隠れたのを

(みとどけると、かのじょはむすめのてをつよくにぎってころげるようにじぶんのうちへかけこんで、)

見とどけると、彼女は娘の手を強く握って転げるように自分の家へかけ込んで、

(ひきまどやあまどをげんじゅうにしめてしまった。)

引窓や雨戸を厳重に閉めてしまった。

(ていしゅはよるおそくかえってきてとをたたいた。にょうぼうがそっとおきてきて、)

亭主は夜遅く帰って来て戸をたたいた。女房がそっと起きて来て、

(こんやじぶんがみとどけたあやしいできごとをはなすと、まつりのさけによっているていしゅは)

今夜自分が見とどけた怪しい出来事を話すと、祭礼の酒に酔っている亭主は

(それをしんじなかった。)

それを信じなかった。

(にょうぼうのとめるのもきかずに、かれはおまきのだいどころへしのんでいって、)

女房の制(と)めるのもきかずに、彼はおまきの台所へ忍んで行って、

(うちのようすをうかがっていると、やがておまきのうれしそうなこえがきこえた。)

内の様子を窺っていると、やがておまきの嬉しそうな声がきこえた。

など

(「おお、こんやかえってきたのかい、おそかったねえ」)

「おお、今夜帰ってきたのかい、遅かったねえ」

(これにこたえるようなねこのなきごえがつづいてきこえた。ていしゅもぎょっとして、)

これに答えるような猫の啼き声がつづいて聞えた。亭主もぎょっとして、

(さけのよいがすこしさめてきた。かれはぬきあしをしてうちへかえった。)

酒の酔いが少しさめて来た。彼はぬき足をして家へ帰った。

(「ほんとうにたってあるいたか」)

「ほんとうに立って歩いたか」

(「あたしもよしぼうもたしかにみたんだもの」と、にょうぼうもかおをしかめてささやいた。)

「あたしも芳坊も確かに見たんだもの」と、女房も顔をしかめてささやいた。

(ちいさいむすめのおよしもそれにそういないとふるえながらいった。)

小さい娘のお芳もそれに相違ないとふるえながら云った。

(ていしゅもなんだかうすきみがわるくなってきた。ことにかれはねこをすてにいったひとりで)

亭主もなんだか薄気味が悪くなって来た。ことに彼は猫を捨てに行った一人で

(あるだけに、いよいよいいこころもちがしなかった。かれはまたさけをむやみにのんで)

あるだけに、いよいよ好い心持がしなかった。彼はまた酒を無暗に飲んで

(よいたおれてしまった。にょうぼうとむすめとはしっかりだきあったままで、)

酔い倒れてしまった。女房と娘とはしっかり抱きあったままで、

(よるのあけるまでおちおちねむられなかった。)

夜のあけるまでおちおち睡(ねむ)られなかった。

(おまきのうちのねこはゆうべのうちにみなかえっていた。ことにいかけやのにょうぼうのはなしを)

おまきの家の猫はゆうべのうちにみな帰っていた。ことに鋳掛屋の女房の話を

(きいて、ながやじゅうのものはめをみあわせた。ふつうのねこがたってあるくはずはない、)

聴いて、長屋じゅうの者は眼をみあわせた。普通の猫が立ってあるく筈はない、

(ねこばばのうちのかいねこはばけねこにそういないということにきめられてしまった。)

猫婆の家の飼猫は化け猫に相違ないということに決められてしまった。

(そのうわさがいえぬしのみみへもはいったので、かれもうすきみがわるくなった。)

その噂が家主の耳へもはいったので、彼も薄気味が悪くなった。

(かれはふたたびおまきおやこにむかってたちのきをせまると、おまきはじぶんのおっとのだいから)

彼は再びおまき親子にむかって立ち退きを迫ると、おまきは自分の夫の代から

(すみなれているうちをはなれたくない。ねこはいかようにごしょぶんなすってもいいから、)

住み慣れている家を離れたくない。猫はいかように御処分なすっても好いから、

(どうかたなだてをゆるしてもらいたいとなみだをこぼしていえぬしになげいた。)

どうか店立をゆるして貰いたいと涙をこぼして家主に嘆いた。

(そうなると、いえぬしにもふびんがでて、たってこのおやこを)

そうなると、家主にも不憫が出て、たってこの親子を

(おいはらうわけにもいかなかった。)

追い払うわけにも行かなかった。

(「ただすててくるから、またすぐもどってくるのだ。こんどはにどとかえられないように)

「ただ捨てて来るから、又すぐ戻って来るのだ。今度は二度と帰られないように

(おもしをつけてうみへしずめてしまえ。こんなばけねこをいかしておくと、)

重量(おもし)をつけて海へ沈めてしまえ。こんな化け猫を生かして置くと、

(どんなわざわいをするかしれない」)

どんな禍いをするか知れない」

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