半七捕物帳 猫騒動5

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第12話

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(いえぬしのはつぎで、ねこはいくつかのあきだわらにつめこまれ、これにおおきいいしをしばりつけて)

家主の発議で、猫は幾つかの空き俵に詰め込まれ、これに大きい石を縛りつけて

(しばうらのうみへしずめられることになった。こんどはながやじゅうのおとこというおとこは)

芝浦の海へ沈められることになった。今度は長屋じゅうの男という男は

(そうでになって、おまきのうちへにじゅっぴきのねこをうけとりにいった。)

総出になって、おまきの家へ二十匹の猫を受け取りに行った。

(おもしをつけてうみのそこへしずめられては、さすがのねこももうふたたび)

重量(おもし)をつけて海の底へ沈められては、さすがの猫ももう再び

(うかびあがれないものとおまきもかくごしたらしく、ひとびとにむかってたんがんした。)

浮かび上がれないものとおまきも覚悟したらしく、人々にむかって嘆願した。

(「こんどこそはながのわかれでございますから、ねこになにかたべさして)

「今度こそは長(なが)の別れでございますから、猫に何か食べさして

(やりとうございます。どうぞすこしおまちください」)

やりとうございます。どうぞ少しお待ち下さい」

(かのじょはにじゅっぴきのねこをじぶんのまわりによびあつめた。きょうはしちのすけも)

彼女は二十匹の猫を自分のまわりに呼びあつめた。きょうは七之助も

(しょうばいをやすんでうちにいたので、おまきはかれにてつだわせてなにかこざかなをにさせた。)

商売を休んで家にいたので、おまきは彼に手伝わせて何か小魚を煮させた。

(めしとさかなとをさらにもりわけて、いっぴきずつのまえにならべると、ねこははなをそろえて)

飯と魚とを皿に盛り分けて、一匹ずつの前にならべると、猫は鼻をそろえて

(いちどにくいはじめた。かれらはめしをくった。にくをくった。ほねをしゃぶった。)

一度に食いはじめた。彼等は飯を食った。肉を食った。骨をしゃぶった。

(いっぴきならばめずらしくない、しかもにじゅっぴきがいちどにのどをならし、きばをむきだして、)

一匹ならば珍しくない、しかも二十匹が一度に喉を鳴らし、牙をむき出して、

(めいめいのえじきをいそがしそうにくらっているありさまは、けっしてゆかいな)

めいめいの餌食を忙しそうに啖(くら)っているありさまは、決して愉快な

(かんじをあたえるものではなかった。きのよわいものにはむしろものすごい)

感じを与えるものではなかった。気の弱いものにはむしろ悽愴(ものすご)い

(ようにもおもわれた。しらがのおおい、ほおぼねのたかいおまきは、ふしめにそれを)

ようにも思われた。白髪の多い、頬骨の高いおまきは、伏目にそれを

(じっとながめながら、ときどきそっとめをふいていた。)

じっと眺めながら、ときどきそっと眼を拭いていた。

(おまきのてからひきはなされたねこのうんめいは、もうせつめいするまでもなかった。)

おまきの手から引き離された猫の運命は、もう説明するまでもなかった。

(ばんじがよていのけいかくどおりにはこばれて、かれらはいきながらしばうらのうみのそこへ)

万事が予定の計画通りに運ばれて、かれらは生きながら芝浦の海の底へ

(ほうむられてしまった。それからご、ろくにちをたってもねこはもうかえってこなかった。)

葬られてしまった。それから五、六日を経っても猫はもう帰って来なかった。

(ながやじゅうのものはほっとした。)

長屋じゅうの者はほっとした。

など

(しかしおまきはべつにさびしそうなかおもしていなかった。しちのすけはあいかわらず)

併しおまきは別にさびしそうな顔もしていなかった。七之助は相変わらず

(ばんだいをかついでまいにちのしょうばいにでていた。そのねこをしずめられてから)

盤台をかついで毎日の商売に出ていた。その猫を沈められてから

(ちょうどなのかめのゆうがたにおまきはとんししたのであった。)

丁度七日目の夕方におまきは頓死したのであった。

(それをはっけんしたのは、きたどなりのだいくのにょうぼうのおはつで、ていしゅはしごとから)

それを発見したのは、北隣りの大工の女房のお初で、亭主は仕事から

(まだかえってこなかったが、いつものならいでかのじょはこうしにじょうをおろして)

まだ帰って来なかったが、いつもの慣習(ならい)で彼女は格子に錠をおろして

(きんじょまでようたしにいった。みなみどなりはとうじあきやであった。したがって、)

近所まで用達に行った。南隣りは当時空家であった。したがって、

(おまきのしんだとうじのじょうきょうはだれにもわからなかったが、おはつのいうところに)

おまきの死んだ当時の状況は誰にも判らなかったが、お初の云うところに

(よると、かれがそとからかえってきて、ろじのおくへいこうとするときに、)

よると、かれが外から帰って来て、路地の奥へ行こうとする時に、

(おまきのうちのいりぐちにさかなのばんだいとてんびんぼうとがおいてあるのをみた。)

おまきの家の入口に魚の盤台と天秤棒とが置いてあるのを見た。

(しちのすけがしょうばいからもどってきたものとすいりょうしたかのじょは、そののきしたをとおりすぎながら)

七之助が商売から戻って来たものと推量した彼女は、その軒下を通り過ぎながら

(こえをかけたが、うちにはへんじがなかった。あきのゆうがたはもううすぐらいのに、)

声をかけたが、内には返事がなかった。秋の夕方はもう薄暗いのに、

(うちにはひをともしていなかった。くらいうちのなかははかばのようにしんと)

内には灯をともしていなかった。暗い家のなかは墓場のように森(しん)と

(しずんでいた。いっしゅのふあんにおそわれて、おはつはそっとうちをのぞくと、)

沈んでいた。一種の不安に襲われて、お初はそっと内をのぞくと、

(いりぐちのどまにはひとがころげているらしかった。こわごわながら)

入口の土間には人がころげているらしかった。怖々(こわごわ)ながら

(ひとあしふみこんですかしてみると、そこにころげているのはおんなであった。)

一と足ふみ込んで透かして視ると、そこに転げているのは女であった。

(ねこばばのおまきであった。おはつはこえをあげてひとをよんだ。)

猫婆のおまきであった。お初は声をあげて人を呼んだ。

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