半七捕物帳 弁天娘4
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問題文
(「とくぞうというのはおやじですかえ」)
「徳蔵というのは親父ですかえ」
(「いえ、とくじろうのあにでございます。おやじもおふくろもとうにぼっしまして、)
「いえ、徳次郎の兄でございます。親父もおふくろもとうに歿しまして、
(ただいまではあにのとくぞう・・・・・・たしかにじゅうごだときいております。)
只今では兄の徳蔵……たしか二十五だと聞いております。
(それがうちのほうをやっているのでございます。ふだんはしょうじきで)
それが家の方をやっているのでございます。ふだんは正直で
(おとなしいおとこですが、きょうはにんげんがまるでかわったようでございまして、)
おとなしい男ですが、きょうは人間がまるで変ったようでございまして、
(いくらしゅじんのむすめでもむやみにほうこうにんをころしてすむかというような、)
いくら主人の娘でも無暗(むやみ)に奉公人を殺して済むかというような、
(ひどいけんまくのかけあいに、しゅじんかたでももてあましております。)
ひどい権幕(けんまく)の掛け合いに、主人方でも持て余して居ります。
(ただいまももうしあげるとおり、てまえのほうにおりますときには、ちっともくちの)
唯今も申し上げる通り、手前の方に居ります時には、ちっとも口の
(きけなかったびょうにんが、うちへかえってからどうしてそんなことをいいましたか、)
利けなかった病人が、家へ帰ってからどうしてそんなことを云いましたか、
(どうもそこがうろんなのでございますが、とくぞうはたしかにそういったともうします。)
どうもそこが胡乱なのでございますが、徳蔵は確かにそう云ったと申します。
(いわばみずかけろんで、こちらはあくまでもしらないとつきはなしてしまえば、)
いわば水かけ論で、こちらはあくまでも知らないと突き放してしまえば、
(まあそれまでのようなものでございますが、なにぶんにもせけんのがいぶんも)
まあそれまでのようなものでございますが、なにぶんにも世間の外聞も
(ございますので、てまえどもがきをいためております」)
ございますので、手前共が気を痛めて居ります」
(「おさっしもうします」と、はんしちはうなずいた。「そりゃあおこまりでしょう」)
「お察し申します」と、半七はうなずいた。「そりゃあお困りでしょう」
(「もちろん、てまえかたでもそうとうのとむらいりょうをつかわすつもりでおりますが、)
「勿論、手前方でも相当のとむらい料を遣(つか)わすつもりで居りますが、
(どうもその、あいてかたのもうしじょうがほうがいでございまして、どうしてもさんびゃくりょうよこせ、)
どうもその、相手方の申し条が法外でございまして、どうしても三百両よこせ、
(さもなければ、おこのさんをげしゅにんにうったえるともうすのでございます。)
さもなければ、お此さんを下手人に訴えると申すのでございます。
(それもおこのさんがたしかにころしたものならば、ひゃくりょうがせんりょうでもすなおに)
それもお此さんが確かに殺したものならば、百両が千両でも素直に
(だしますが、いまもうすとおりのみずかけろんで、こちらからうたがえば・・・・・・)
出しますが、今申す通りの水かけ論で、こちらから疑えば……
(まあゆすりとも、いいがかりとも、おもわれないこともございません。)
まあ強請(ゆすり)とも、云いがかりとも、思われないこともございません。
(しゅじんにかわって、てまえがたいだんいたしまして、まずじゅうごりょうかにじゅうりょうでも)
主人に代って、手前が対談いたしまして、まず十五両か二十両でも
(くぎろうとぞんじたのでございますが、あいてがどうしてもしょうちいたしません。)
句切ろうと存じたのでございますが、相手がどうしても承知いたしません。
(とどのつまりがとうざのとむらいりょうともうし、さんりょうだけうけとりまして、)
とどの詰りが当座のとむらい料と申し、三両だけ受け取りまして、
(いずれとむらいのすみしだいあらためてかけあいにくるといって)
いずれ葬式(とむらい)のすみ次第あらためて掛け合いにくると云って
(かえりましたが、おやぶんさん、これはどうしたものでございましょう」)
帰りましたが、親分さん、これはどうしたものでございましょう」
(やましろやもそうとうのしんだいではあるが、さんびゃくりょうといえばたいきんである。)
山城屋も相当の身代(しんだい)ではあるが、三百両といえば大金である。
(ましていんねんをつけられて、なんのしさいもなしにそのたいきんをしぼりとられるのは)
まして因縁をつけられて、なんの仔細もなしに其の大金を絞り取られるのは
(めいわくであろう。りへえがどうしたものであろうとそうだんをかけるのも、)
迷惑であろう。利兵衛がどうしたものであろうと相談をかけるのも、
(しょせんははんしちのちからをかりて、なんとかあいてをおさえつけてもらいたい)
所詮は半七の力をかりて、なんとか相手をおさえ付けて貰いたい
(したごころであることはよくわかっていた。やくめのいこうをかさにきて、)
下心であることはよく判っていた。役目の威光を嵩にきて、
(きんせんじょうのもんだいにかかりあうのは、じぶんのもっともきらうところであるので、)
金銭上の問題にかかり合うのは、自分の最も嫌うところであるので、
(ただそれだけのそうだんならば、はんしちはなんとかいってことわってしまいたいと)
唯それだけの相談ならば、半七はなんとか云って断わってしまいたいと
(おもったが、ひさんのしをとげたとくじろうというこぞうのゆいごんがうそかほんとか、)
思ったが、悲惨の死を遂げた徳次郎という小僧の遺言が嘘かほんとか、
(またそのあにのとくぞうのうしろにはだれかいとをあやつっているものがあるかないか、)
又その兄の徳蔵のうしろには誰か糸をあやつっている物があるかないか、
(それらのひみつをさぐりだしてみたいというねんもあったので、)
それらの秘密を探り出してみたいという念もあったので、
(かれはしばらくかんがえたあとにりへえにきいた。)
彼はしばらく考えた後に利兵衛に訊いた。
(「ばんとうさん。いったいあのおこのさんというこは、なぜいつまでもひとりで)
「番頭さん。一体あのお此さんという子は、なぜいつまでも独りで
(いるんですね。いいこだけれども、おしいことにちっととうが)
いるんですね。いい子だけれども、惜しいことにちっと薹(とう)が
(たってしまいましたね」)
立ってしまいましたね」
(「そうでございますよ」 りへえもかおをしかめていた。)
「そうでございますよ」 利兵衛も顔をしかめていた。