半七捕物帳 弁天娘17

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第13話

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問題文

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(「もうここまでおはなしをすれば、たいていおわかりでしょう」と、はんしちろうじんはいった。)

「もうここまでお話をすれば、大抵お判りでしょう」と、半七老人は云った。

(「でんすけはおとめがよしわらにいたころからのなじみで、ねんがあけてもじぶんのほうへ)

「伝介はお留が吉原にいた頃からの馴染で、年(ねん)があけても自分の方へ

(ひきとるほどのちからもないので、そうだんずくでとくぞうのうちへころげこませて、)

引き取るほどの力もないので、相談ずくで徳蔵の家へ転げ込ませて、

(じぶんもそこへではいりしていたんですが、よほどじょうずにあいびきを)

自分もそこへ出這入りしていたんですが、よほど上手に逢い曳きを

(やっていたとみえて、ていしゅはもちろん、きんじょのものもきがつかなかったんです。)

やっていたとみえて、亭主は勿論、近所の者も気がつかなかったんです。

(ところで、ふしぎなことには、そのおとめというおんなはつとめあがりで、)

ところで、不思議なことには、そのお留という女は勤めあがりで、

(おまけにそんなふらちをはたらいているやつにもにあわず、おそろしく)

おまけにそんな不埒を働いている奴にも似あわず、おそろしく

(かいがいしいおんなで、はたらくにはよくはたらくんです。せけんていをごまかすため)

かいがいしい女で、働くにはよく働くんです。世間体をごまかす為

(ばかりでなく、まったくなりにもふりにもかまわずにはたらいて、)

ばかりでなく、まったく服装(なり)にも振りにも構わずに働いて、

(いっしょうけんめいにかねをためる。いろおとこのでんすけにはなにひとつみついでやったことは)

一生懸命に金をためる。色男の伝介には何一つ貢いでやったことは

(なかったそうです。つまりけちなんでしょうね」)

無かったそうです。つまり吝嗇(けち)なんでしょうね」

(「そうすると、やましろやへいんねんをつけさせたのも、みんなにょうぼうの)

「そうすると、山城屋へ因縁を付けさせたのも、みんな女房の

(さしがねなんですね」と、わたしはいった。)

指尺(さしがね)なんですね」と、私は云った。

(「むろんそうです。ていしゅをけしかけてさんびゃくりょうまきあげさせようとしたのを、)

「無論そうです。亭主をけしかけて三百両まき上げさせようとしたのを、

(とくぞうがひゃくりょうでおりあってきたもんですから、ひどくくやしがって)

徳蔵が百両で折り合って来たもんですから、ひどく口惜しがって

(どくづいたんですが、もうしかたがありません。まあなきねいりで、)

毒づいたんですが、もう仕方がありません。まあ泣き寝入りで、

(いよいよとむらいをだすことになってしまったんです」)

いよいよ葬式(とむらい)を出すことになってしまったんです」

(「じゃあ、ていしゅをころして、そのひゃくりょうをもってでんすけとふうふになるつもり)

「じゃあ、亭主を殺して、その百両を持って伝介と夫婦になるつもり

(だったんですね」)

だったんですね」

(「と、まあだれでもおもいましょう」と、ろうじんはほほえんだ。「わたくしも)

「と、まあ誰でも思いましょう」と、老人はほほえんだ。「わたくしも

など

(さいしょはそうおもっていたんですが、でんすけをしめあげてとうとうはくじょうさせると、)

最初はそう思っていたんですが、伝介をしめ上げてとうとう白状させると、

(それがすこしちがっているんです。でんすけはたしかにおとめとかんけいしていましたが、)

それが少し違っているんです。伝介はたしかにお留と関係していましたが、

(いまもいうとおり、なにひとつみついでもらうどころか、あべこべになんとかかとか)

今もいう通り、何一つ貢いで貰うどころか、あべこべに何とか彼(か)とか

(なをつけて、いくらかずつおとめにしぼりとられていたんだそうです。)

名をつけて、幾らかずつお留に絞り取られていたんだそうです。

(そんなわけですから、こんどのていしゅごろしもおとめのいちぞんで、でんすけはなんにも)

そんなわけですから、今度の亭主殺しもお留の一存で、伝介はなんにも

(かかりあいのないことがわかりました」)

係り合いのないことがわかりました」

(「なるほど、それはすこしあんがいでしたね」)

「なるほど、それは少し案外でしたね」

(「あんがいでしたよ。それならおとめがなぜていしゅをころしたかというと、)

「案外でしたよ。それならお留がなぜ亭主を殺したかというと、

(やましろやからうけとったひゃくりょうのかねがほしかったからです。ていしゅのものは)

山城屋から受け取った百両の金が欲しかったからです。亭主のものは

(にょうぼうのもので、どっちがどうでもよさそうなものですが、そこがおとめの)

女房の物で、どっちがどうでもよさそうなものですが、そこがお留の

(かわったところで、どうしてもそのかねをじぶんのものにしたかったんです。)

変ったところで、どうしてもその金を自分の物にしたかったんです。

(それでもはじめからさすがにていしゅをころすりょうけんはなく、ていしゅのねいきをうかがって)

それでも初めからさすがに亭主を殺す料簡はなく、亭主の寝息をうかがって

(そっとぬすみだして、だいどころのゆかしたへかくしておいて、よそからどろぼうが)

そっと盗み出して、台所の床下へかくして置いて、よそから泥坊が

(はいったようにごまかすつもりだったのを、とくぞうにみつけられて)

はいったように誤魔化すつもりだったのを、徳蔵に見つけられて

(しまったんです。それでもにょうぼうがすぐにあやまれば、またなんとかぶじに)

しまったんです。それでも女房がすぐにあやまれば、又なんとか無事に

(おさまったんでしょうが、おとめはいったんじぶんのてにつかんだかねをどうしても)

納まったんでしょうが、お留は一旦自分の手につかんだ金をどうしても

(はなしたくないので、いきなりみせにあるあじきりぼうちょうをもちだして、)

放したくないので、いきなり店にある鰺切り庖丁を持ち出して、

(はんぶんはむちゅうでていしゅをにかしょもきってしまった。いや、じつにおそろしいやつで、)

半分は夢中で亭主を二ヵ所も斬ってしまった。いや、実におそろしい奴で、

(こんなおんなにであってはたまりません」)

こんな女に出逢ってはたまりません」

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