半七捕物帳 弁天娘11

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問題文
(そのうちにふかがわのてらへゆきついたが、とむらいはきわめてかんたんな)
そのうちに深川の寺へゆき着いたが、葬式(とむらい)は極めて簡単な
(ものであった。やましろやからさんりょうというとむらいりょうをとっておきながら、)
ものであった。山城屋から三両という送葬(とむらい)料を取って置きながら、
(こんななげこみどうようのことをするとはずいぶんひどいやつだとはんしちはおもった。)
こんな投げ込み同様のことをするとは随分ひどいやつだと半七は思った。
(そうれつのつくまえにきんじょのものがに、さんにんさきまわりをしていて、とくぞうにてつだって)
葬列の着くまえに近所の者が二、三人先廻りをしていて、徳蔵に手伝って
(なにかのせわをやいていたが、そのなかのひとりがはんしちをみてていねいにあいさつした。)
何かの世話をやいていたが、そのなかの一人が半七を見て丁寧に挨拶した。
(「やあ、かんだのおやぶん。おまえさんもみおくりにきてくだすったのですかえ。)
「やあ、神田の親分。おまえさんも見送りに来て下すったのですかえ。
(みちのわるいのにどうもおそれいりました」)
路の悪いのにどうも恐れ入りました」
(それはあさくさにすんでいるでんすけというおとこであった。さんじゅうにさんのこづくりなおとこで、)
それは浅草に住んでいる伝介という男であった。三十二三の小作りな男で、
(おもてむきのしょうばいはきざみたばこのにをかついで、しょやしきのきんばんべやや)
表向きの商売は刻み煙草の荷をかついで、諸屋敷の勤番部屋や
(しょほうのてらでらなどへうりあるいているのであるが、それはほんのせけんのてまえで、)
諸方の寺々などへ売りあるいているのであるが、それはほんの世間の手前で、
(じつはこばくちなどをうっているならずものであることを)
実は小博奕などを打っている無頼漢(ならずもの)であることを
(はんしちはしっていた。かたぎにみせかけてもなんとなくうしろぐらいところが)
半七は知っていた。堅気(かたぎ)に見せかけても何となくうしろ暗いところが
(あるので、かれははんしちにむかってはとくべつにこしをひくくして、しきりにじょさいなく)
あるので、彼は半七にむかっては特別に腰を低くして、しきりに如才なく
(あいさつしていた。とんだところでいやなやつにであったとはおもいながら、)
挨拶していた。飛んだところで忌(いや)な奴に出逢ったとは思いながら、
(はんしちはまずいいかげんにあしらっていると、でんすけはちゃをくんできてこごえできいた。)
半七はまずいい加減にあしらっていると、伝介は茶を汲んで来て小声で訊いた。
(「おやぶんもとくぞうのうちをごぞんじなんですかえ」)
「親分も徳蔵の家を御存じなんですかえ」
(「いや、あにきはしらねえが、おとうとのほうはやましろやさんにいるときからしっているので、)
「いや、兄貴は知らねえが、弟の方は山城屋さんにいる時から知っているので、
(きょうはみおくりにきたのさ。なにしろわけえのにかわいそうなことをしたよ」)
きょうは見送りに来たのさ。なにしろ若えのに可哀そうなことをしたよ」
(「そうでございますよ」と、でんすけはなんだかふにおちないようなかおをしていた。)
「そうでございますよ」と、伝介はなんだか腑に落ちないような顔をしていた。
(「おまえもこうしてはたらいているようじゃあ、とくぞうとよっぽどこころやすく)
「おまえもこうして働いているようじゃあ、徳蔵とよっぽど心安く
(しているとみえるな」)
していると見えるな」
(「ええ。ときどきあそびにいくもんですから」と、でんすけはあいまいな)
「ええ。ときどき遊びに行くもんですから」と、伝介はあいまいな
(へんじをしていた。)
返事をしていた。
(とむらいがすんでてらのもんをでると、このごろのはるのひはもうくれかかっていた。)
葬式が済んで寺の門を出ると、この頃の春の日はもう暮れかかっていた。
(かえるときにかいそうしゃはかたのとおりのしおがまをめいめいにもらったが、)
帰るときに会葬者は式(かた)の通りの塩釜をめいめいに貰ったが、
(もってかえるのもじゃまになるので、はんしちはそのかしをやましろやのこぞうにやった。)
持って帰るのも邪魔になるので、半七はその菓子を山城屋の小僧にやった。
(そうして、そばにいたりへえにささやいた。)
そうして、そばにいた利兵衛にささやいた。
(「ばんとうさん。すみませんが、すこしおはなしもうしたいことがありますから、)
「番頭さん。済みませんが、少しお話申したいことがありますから、
(こぞうさんだけをさきにかえして、おまえさんはちょいとそこらまで)
小僧さんだけを先に帰して、おまえさんはちょいと其処らまで
(いっしょにきてくださいませんか」)
一緒に来て下さいませんか」
(「はい、はい」)
「はい、はい」