銀河鉄道の夜 30

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九、ジョバンニの切符 2/36
宮沢賢治 作
「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」
車掌がたずねました。
「なんだかわかりません。」
ジョバンニはそっちを見あげてくつくつ笑いました。

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問題文

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(「さあ。」)

「さあ。」

(じょばんにはこまって、もじもじしていましたら、)

ジョバンニは困って、もじもじしていましたら、

(かむぱねるらは、わけもないというふうにで、)

カムパネルラは、わけもないというふうにで、

(ちいさなねずみいろのきっぷをだしました。)

小さなねずみいろの切符を出しました。

(じょばんには、すっかりあわててしまって、)

ジョバンニは、すっかりあわててしまって、

(もしかうわぎのぽけっとにでも、はいっていたかとおもいながら、)

もしか上着のポケットにでも、入っていたかとおもいながら、

(てをいれてみましたら、)

手を入れて見ましたら、

(なにかおおきなたたんだかみきれにあたりました。)

何か大きなたたんだ紙きれにあたりました。

(こんなものはいっていたろうかとおもって、)

こんなもの入っていたろうかと思って、

(いそいでだしてみましたら、)

急いで出してみましたら、

(それはよっつにおったはがきぐらいのおおきさのみどりいろのかみでした。)

それは四つに折ったはがきぐらいの大きさの緑いろの紙でした。

(しゃしょうがてをだしているもんですからなんでもかまわない、)

車掌が手を出しているもんですからなんでもかまわない、

(やっちまえとおもってわたしましたら、)

やっちまえと思って渡しましたら、

(しゃしょうはまっすぐにたちなおって)

車掌はまっすぐに立ち直って

(ていねいにそれをひらいてみていました。)

ていねいにそれを開いて見ていました。

(そしてよみながらうわぎのぼたんやなんか)

そして読みながら上着のぼたんやなんか

(しきりになおしたりしていましたし、)

しきりに直したりしていましたし、

(とうだいかんしゅもしたからねっしんにのぞいていましたから、)

燈台看守も下から熱心にのぞいていましたから、

(じょばんにはたしかにあれはしょうめいしょかなにかだったとかんがえて)

ジョバンニはたしかにあれは証明書か何かだったと考えて

(すこしむねがあつくなるようなきがしました。)

少し胸が熱くなるような気がしました。

など

(「これはさんじくうかんのほうからおもちになったのですか。」)

「これは三次空間の方からお持ちになったのですか。」

(しゃしょうがたずねました。)

車掌がたずねました。

(「なんだかわかりません。」)

「なんだかわかりません。」

(もうだいじょうぶだとあんしんしながら)

もう大丈夫だと安心しながら

(じょばんにはそっちをみあげてくつくつわらいました。)

ジョバンニはそっちを見あげてくつくつ笑いました。

(「よろしゅうございます。)

「よろしゅうございます。

(さざんくろすへつきますのは、)

南十字(サザンクロス)へ着きますのは、

(つぎのだいさんじごろになります。」)

つぎの第三時ごろになります。」

(しゃしょうはかみをじょばんににわたしてむこうへいきました。)

車掌は紙をジョバンニに渡して向こうへ行きました。

(かむぱねるらは、そのかみきれがなんだったか)

カムパネルラは、その紙切れがなんだったか

(まちかねたというようにいそいでのぞきこみました。)

待ちかねたというように急いでのぞきこみました。

(じょばんにもまったくはやくみたかったのです。)

ジョバンニもまったく早く見たかったのです。

(ところがそれはいちめんくろいからくさのようなもようのなかに、)

ところがそれはいちめん黒い唐草のような模様の中に、

(おかしなとおばかりのじをいんさつしたもので、)

おかしな十ばかりの字を印刷したもので、

(だまってみているとなんだかそのなかへ)

だまって見ているとなんだかその中へ

(すいこまれてしまうようなきがするのでした。)

吸い込まれてしまうような気がするのでした。

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