葉桜と魔笛2/太宰治

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1 HAKU 7810 8.1 96.5% 351.3 2847 103 45 2024/09/16

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問題文

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(あとでしったことでございますが、あのおそろしいふしぎなものおとは、にほんかい)

あとで知ったことでございますが、あの恐ろしい不思議な物音は、日本海

(だいかいせん、ぐんかんのたいほうのおとだったのでございます。とうごうていとくのめいれいいっかで、ろこくの)

大海戦、軍艦の大砲の音だったのでございます。東郷提督の命令一下で、露国の

(ばるちっくかんたいをいっきょにげきめつなさるための、だいげきせんのさいちゅうだったので)

バルチック艦隊を一挙に撃滅なさるための、大激戦の最中だったので

(ございます。ちょうど、そのころでございますものね。かいぐんきねんびは、)

ございます。ちょうど、そのころでございますものね。海軍記念日は、

(ことしも、また、そろそろやってまいります。あのかいがんのじょうかまちにも、)

ことしも、また、そろそろやってまいります。あの海岸の城下まちにも、

(たいほうのおとが、おどろおどろきこえてきて、まちのひとたちも、いきたそらがなかった)

大砲の音が、おどろおどろ聞えて来て、まちの人たちも、生きたそらが無かった

(のでございましょうが、わたしは、そんなこととはしらず、ただもういもうとのことで)

のでございましょうが、私は、そんなこととは知らず、ただもう妹のことで

(いっぱいで、はんきちがいのありさまだったので、なにかふきつなじごくのたいこのようなきが)

一ぱいで、半気違いの有様だったので、何か不吉な地獄の太鼓のような気が

(して、ながいことそうげんで、かおもあげずになきつづけておりました。ひが)

して、ながいこと草原で、顔もあげずに泣きつづけて居りました。日が

(くれかけてきたころ、わたしはやっとたちあがって、しんだように、ぼんやりなって)

暮れかけて来たころ、私はやっと立ちあがって、死んだように、ぼんやりなって

(おてらへかえってまいりました。)

お寺へ帰ってまいりました。

(「ねえさん。」といもうとがよんでおります。いもうとも、そのころは、やせおとろえて、ちから)

「ねえさん。」と妹が呼んでおります。妹も、そのころは、痩せ衰えて、ちから

(なく、じぶんでも、うすうす、もうそんなにながくないことをしってきている)

無く、自分でも、うすうす、もうそんなに永くないことを知って来ている

(ようすで、いぜんのように、あまりなにかとわたしにむりなんだいいいつけてあまったれるような)

様子で、以前のように、あまり何かと私に無理難題いいつけて甘ったれるような

(ことがなくなってしまって、わたしには、それがまたいっそうつらいのでございます。)

ことがなくなってしまって、私には、それがまた一そうつらいのでございます。

(「ねえさん、このてがみ、いつきたの?」)

「ねえさん、この手紙、いつ来たの?」

(わたしは、はっと、むねをつかれ、かおのちのけがなくなったのをじぶんではっきりいしき)

私は、はっと、むねを突かれ、顔の血の気が無くなったのを自分ではっきり意識

(いたしました。)

いたしました。

(「いつきたの?」いもうとは、むしんのようでございます。わたしは、きをとりなおして、)

「いつ来たの?」妹は、無心のようでございます。私は、気を取り直して、

(「ついさっき。あなたがねむっていらっしゃるあいだに。あなた、わらいながらねむって)

「ついさっき。あなたが眠っていらっしゃる間に。あなた、笑いながら眠って

など

(いたわ。あたし、こっそりあなたのまくらもとにおいといたの。)

いたわ。あたし、こっそりあなたの枕もとに置いといたの。

(しらなかったでしょう?」)

知らなかったでしょう?」

(「ああ、しらなかった。」いもうとは、ゆうやみのせまったうすぐらいへやのなかで、しろくうつくしく)

「ああ、知らなかった。」妹は、夕闇の迫った薄暗い部屋の中で、白く美しく

(わらって、「ねえさん、あたし、このてがみよんだの。おかしいわ。あたしの)

笑って、「ねえさん、あたし、この手紙読んだの。おかしいわ。あたしの

(しらないひとなのよ。」)

知らない人なのよ。」

(しらないことがあるものか。わたしは、そのてがみのさしだしにんのm・tというおとこのひとを)

知らないことがあるものか。私は、その手紙の差出人のM・Tという男のひとを

(しっております。ちゃんとしっていたのでございます。いいえ、おあいした)

知っております。ちゃんと知っていたのでございます。いいえ、お逢いした

(ことはないのでございますが、わたしが、そのご、ろくにちまえ、いもうとのたんすをそっと)

ことは無いのでございますが、私が、その五、六日まえ、妹の箪笥をそっと

(せいりして、そのおりに、ひとつのひきだしのおくそこに、ひとたばのてがみが、みどりのりぼんで)

整理して、その折に、ひとつの引き出しの奥底に、一束の手紙が、緑のリボンで

(きっちりむすばれてかくされてあるのをはっけんいたし、いけないことでしょう)

きっちり結ばれて隠されて在るのを発見いたし、いけないことでしょう

(けれども、りぼんをほどいて、みてしまったのでございます。およそさんじゅっつう)

けれども、リボンをほどいて、見てしまったのでございます。およそ三十通

(ほどのてがみ、ぜんぶがそのm・tさんからのおてがみだったのでございます。)

ほどの手紙、全部がそのM・Tさんからのお手紙だったのでございます。

(もっともてがみのおもてには、m・tさんのおなまえはかかれておりませぬ。てがみの)

もっとも手紙のおもてには、M・Tさんのお名前は書かれておりませぬ。手紙の

(なかにちゃんとかかれてあるのでございます。そうして、てがみのおもてには、)

中にちゃんと書かれてあるのでございます。そうして、手紙のおもてには、

(さしだしにんとしていろいろのおんなのひとのなまえがしるされてあって、それがみんな、)

差出人としていろいろの女のひとの名前が記されてあって、それがみんな、

(じつざいの、いもうとのおともだちのおなまえでございましたので、わたしもちちも、こんなにどっさり)

実在の、妹のお友達のお名前でございましたので、私も父も、こんなにどっさり

(おとこのひととぶんつうしているなど、ゆめにもきづかなかったのでございます。)

男のひとと文通しているなど、夢にも気附かなかったのでございます。

(きっと、そのm・tというひとは、ようじんぶかく、いもうとからおともだちのなまえをたくさん)

きっと、そのM・Tという人は、用心深く、妹からお友達の名前をたくさん

(きいておいて、つぎつぎとそのかずあるなまえをもちいててがみをよこしていたので)

聞いて置いて、つぎつぎとその数ある名前を用いて手紙を寄こしていたので

(ございましょう。わたしは、それにきめてしまって、わかいひとたちのだいたんさに、)

ございましょう。私は、それにきめてしまって、若い人たちの大胆さに、

(ひそかにしたをまき、あのげんかくなちちにしれたら、どんなことになるだろう、と)

ひそかに舌を巻き、あの厳格な父に知れたら、どんなことになるだろう、と

(みぶるいするほどおそろしく、けれども、いっつうずつひふにしたがってよんでゆくに)

身震いするほどおそろしく、けれども、一通ずつ日附にしたがって読んでゆくに

(つれて、わたしまで、なんだかたのしくうきうきしてきて、ときどきは、あまりの)

つれて、私まで、なんだか楽しく浮き浮きして来て、ときどきは、あまりの

(たわいなさに、ひとりでくすくすわらってしまって、おしまいにはじぶんじしんにさえ、)

他愛なさに、ひとりでくすくす笑ってしまって、おしまいには自分自身にさえ、

(ひろいおおきなせかいがひらけてくるようなきがいたしました。)

広い大きな世界がひらけて来るような気がいたしました。

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