太宰治『走れメロス』抜き書き
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問題文
(めろすはげきどした。かならず、かのじゃちぼうぎゃくのおうをのぞかなければならぬとけついした。)
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
(めろすにはせいじがわからぬ。めろすは、むらのぼくじんである。)
メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。
(めろすにはちくばのともがあった。せりぬんてぃうすである。)
メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。
(あるいているうちにめろすは、まちのようすをあやしくおもった。ひっそりしている。)
歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。
(のんきなめろすも、だんだんふあんになってきた。)
のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。
(きいて、めろすはげきどした。「あきれたおうだ。いかしておけぬ。」)
聞いて、メロスは激怒した。「呆れた王だ。生かして置けぬ。」
(「しかたのないやつじゃ。おまえには、わしのこどくがわからぬ。」)
「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」
(「わしだって、へいわをのぞんでいるのだが。」)
「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
(「つみのないひとをころして、なにがへいわだ。」)
「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」
(「そうです。かえってくるのです。」めろすはひっしでいいはった。)
「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。
(なまいきなことをいうわい。どうせかえってこないにきまっている。)
生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。
(ちくばのとも、せりぬんてぃうすは、しんや、おうじょうにめされた。)
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。
(めろすは、ともにいっさいのじじょうをかたった。)
メロスは、友に一切の事情を語った。
(せりぬんてぃうすは、なわうたれた。めろすは、すぐにしゅっぱつした。)
セリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。
(めがさめたのはよるだった。めろすはおきてすぐ、はなむこのいえをおとずれた。)
眼が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。
(めろすは、いっしょうこのままここにいたい、とおもった。)
メロスは、一生このままここにいたい、と思った。
(めろすは、わがみにむちうち、ついにしゅっぱつをけついした。)
メロスは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
(めろすほどのおとこにも、やはりみれんのじょうというものはある。)
メロスほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。
(めがさめたのはあくるひのはくめいのころである。)
眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
(さて、めろすは、ぶるんとりょううでをおおきくふって、うちゅう、やのごとくはしりでた。)
さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
(ころされるためにはしるのだ。みがわりのともをすくうためにはしるのだ。)
殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。
(はしらなければならぬ。そうして、わたしはころされる。)
走らなければならぬ。そうして、私は殺される。
(えい、えいとおおごえあげてじしんをしかりながらはしった。)
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
(かれはぼうぜんと、たちすくんだ。)
彼は茫然と、立ちすくんだ。
(だくりゅうは、めろすのさけびをせせらわらうごとく、ますますはげしくおどりくるう。)
濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
(いまはめろすもかくごした。およぎきるよりほかにない。)
今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。
(いっこくといえども、むだにはできない。ひはすでににしにかたむきかけている。)
一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。
(「なにをするのだ。わたしはひのしずまぬうちにおうじょうへいかなければならぬ。はなせ。」)
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」
(たちあがることができぬのだ。てんをあおいで、くやしなきになきだした。)
立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
(しんのゆうしゃ、めろすよ。いま、ここで、つかれきってうごけなくなるとはなさけない。)
真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
(あいするともは、おまえをしんじたばかりに、やがてころされなければならぬ。)
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
(きみは、いつでもわたしをしんじた。わたしもきみを、あざむかなかった。)
君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。
(きみはわたしをむしんにまっているだろう。ああ、まっているだろう。)
君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。
(おうはわたしに、ちょっとおくれてこい、とみみうちした。)
王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
(きみだけはわたしをしんじてくれるにちがいない。いや、それもわたしの、ひとりよがりか?)
君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか?
(わたしは、みにくいうらぎりものだ。どうとも、かってにするがよい。やんぬるかな。)
私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。
(あるける。いこう。にくたいのひろうかいふくとともに、わずかながらきぼうがうまれた。)
歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。
(わたしは、しんらいにむくいなければならぬ。いまはただそのいちじだ。)
私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。
(わたしはうまれたときからしょうじきなおとこであった。しょうじきなおとこのままにしてしなせてください。)
私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。
(そのおとこをしなせてはならない。いそげ、めろす。おくれてはならぬ。)
その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。
(いうにやおよぶ。まだひはしずまぬ。さいごのしりょくをつくして、めろすははしった。)
言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、メロスは走った。
(ぐんしゅうは、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、とくちぐちにわめいた。)
群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。
(せりぬんてぃうすのなわは、ほどかれたのである。)
セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。