黒蜥蜴38
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | ひま | 5534 | A | 5.8 | 94.3% | 801.0 | 4717 | 284 | 69 | 2024/10/17 |
関連タイピング
問題文
(ほほほほほ、よくできたいきにんぎょうでしょう。でも、すこうしよくできすぎていは)
「ホホホホホ、よくできた生人形でしょう。でも、すこうしよくでき過ぎていは
(しなくって?もっとがらすにちかよってごらんなさい。ほら、このひとたちの)
しなくって?もっとガラスに近寄ってごらんなさい。ほら、この人たちの
(からだには、こまかいうぶげがはえているでしょう。うぶげのはえたいきにんぎょうなんて、)
からだには、細かい産毛が生えているでしょう。産毛の生えた生人形なんて、
(きいたこともないわね さなえさんは、ふとこうきしんをそそられて、そのがらすいたに)
聞いたこともないわね」早苗さんは、ふと好奇心をそそられて、そのガラス板に
(ちかづいた。かのじょじしんのうんめいのおそろしさをも、ついわすれるほど、そのにんぎょうたちには)
近づいた。彼女自身の運命の恐ろしさをも、つい忘れるほど、その人形たちには
(いっしゅふしぎなみりょくがあった。まあ、ほんとうにうぶげがはえているわ。それに、)
一種不思議な魅力があった。まあ、ほんとうに産毛が生えているわ。それに、
(このはだのいろ、こまかいこまかいしわまでも、こんなにしんにせまったろうにんぎょうなんて、)
この肌の色、細かい細かいしわまでも、こんなに真にせまった蝋人形なんて、
(あるのかしら。さなえさん、これ、ろうにんぎょうだとおもって?くろこふじんが、)
あるのかしら。「早苗さん、これ、蝋人形だと思って?」黒衣婦人が、
(うすきみのわるいびしょうをふくんで、じらすようにたずねる。そのことばが、)
薄気味のわるい微笑をふくんで、じらすようにたずねる。その言葉が、
(さなえさんをどきんとさせた。どことなく、にんぎょうとはちがった、おそろしいような)
早苗さんをドキンとさせた。「どことなく、人形とは違った、恐ろしいような
(ところがあるでしょう。さなえさんは、はくせいのどうぶつひょうほんをみたことなくって?)
ところがあるでしょう。早苗さんは、剥製の動物標本を見たことなくって?
(ちょうどあんなふうににんげんのうつくしいすがたを、えいきゅうにほぞんするほうほうがはつめいされたら、)
ちょうどあんなふうに人間の美しい姿を、永久に保存する方法が発明されたら、
(すばらしいとはおもわない?それなのよ。あたしのぶかのものが、そのにんげんの)
すばらしいとは思わない?それなのよ。あたしの部下のものが、その人間の
(はくせいというものをこうあんしたのよ。ここにいるのは、そのひとのしさくひんなの。)
剥製という者を考案したのよ。ここにいるのは、その人の試作品なの。
(まだかんぜんというところまではいっていないけれど、でも、ろうにんぎょうなんかのような)
まだ完全というところまではいっていないけれど、でも、蝋人形なんかのような
(しぶつではありませんわ。いきているでしょう。なかみはやっぱりろうなのだけれど、)
死物ではありませんわ。生きているでしょう。中味はやっぱり蝋なのだけれど、
(ひふともうはつとは、ほんとうのにんげんなのよ。そこににんげんのたましいがつきまとって)
皮膚と毛髪とは、ほんとうの人間なのよ。そこに人間の魂がつきまとって
(いるんだわ。にんげんのにおいがのこっているんだわ。すばらしくはなくって?)
いるんだわ。人間のにおいが残っているんだわ。すばらしくはなくって?
(わかいうつくしいにんげんを、そのままはくせいにして、いきていればだんだんうしなわれて)
若い美しい人間を、そのまま剥製にして、生きていればだんだん失われて
(いったにちがいないそのうつくしさを、えいえんにたもっておくなんて、どんな)
行ったにちがいないその美しさを、永遠に保っておくなんて、どんな
(はくぶつかんだって、まねもできなければ、おもいつきもしないのだわ くろこふじんは、)
博物館だって、まねもできなければ、思いつきもしないのだわ」黒衣婦人は、
(われとわがことばにこうふんして、いよいよゆうべんになっていった。さあ、こちらへ)
われとわが言葉に昴奮して、いよいよ雄弁になって行った。「さあ、こちらへ
(いらっしゃい。このおくにはもっとすばらしいものがちんれつしてあるのよ。これは)
いらっしゃい。この奥にはもっとすばらしいものが陳列してあるのよ。これは
(いくらしんにせまっても、たましいをもっていても、うごくことはできないのだけれど、)
いくら真にせまっても、魂を持っていても、動くことはできないのだけれど、
(このおくには、ぴちぴちとうごいているものがあるのよ みちびかれるままに、)
この奥には、ピチピチと動いているものがあるのよ」みちびかれるままに、
(またいっぽかどをまがると、いままでのせいてきなふうけいとはがらりとかわって、そこには、)
また一歩角を曲がると、今までの静的な風景とはガラリと変って、そこには、
(うごくびじゅつひんがちんれつされていた。ふといてつぼうの、ししかとらのおりのようなものがあって)
動く美術品が陳列されていた。太い鉄棒の、獅子か虎の檻のようなものがあって
(そのなかに、あかあかともえるでんきすとーヴといっしょに、ひとりのじんるいが)
その中に、赤々と燃える電気ストーヴといっしょに、一人の人類が
(とじこめられているのだ。それはにほんじんであったが、tというえいがはいゆうに)
とじこめられているのだ。それは日本人であったが、Tという映画俳優に
(よくにた、にじゅうし、ごさいのみずぎわだったびせいねん。それがすっきりと、)
よく似た、ニ十四、五歳の水ぎわ立った美青年。それがスッキリと、
(きんせいのとれたにくたいをまるはだかにされて、いっぴきのうつくしいやじゅうのようにおりのなかに)
均整のとれた肉体を丸はだかにされて、一匹の美しい野獣のように檻の中に
(いれられている。かれはふさふさとしたとうはつを、りょうてでかきむしるようにして、)
入れられている。彼はふさふさとした頭髪を、両手でかきむしるようにして、
(おりのなかをいらいらとあるきまわっていたが、くろこふじんのすがたをみつけると、どうぶつえんの)
檻の中をイライラと歩き廻っていたが、黒衣婦人の姿を見つけると、動物園の
(さるのように、てつぼうをゆすぶりながら、おおごえにわめきだすのであった。)
猿のように、鉄棒をゆすぶりながら、大声にわめき出すのであった。
(まて!どくふ!きさまはおれをきちがいにしてしまうきか。いっそはやく)
「待て!毒婦!貴様はおれを気ちがいにしてしまう気か。いっそ早く
(ころしてくれ。おれはもういちにちもおりのなかなんぞで、いきていたくはないんだ。)
殺してくれ。おれはもう一日も檻の中なんぞで、生きていたくはないんだ。
(こら、ここをあけろ、あけてくれ......かれはしろいうでをてつぼうのあいだから)
コラ、ここをあけろ、あけてくれ......」彼は白い腕を鉄棒のあいだから
(にゅっとつきだして、にょぞくのくろこをつかもうとした。まあ、そんなに)
ニュッと突き出して、女賊の黒衣をつかもうとした。「まあ、そんなに
(おこるもんじゃないわ。うつくしいかおがだいなしじゃないの。ええ、おのぞみどおり、いまに)
怒るもんじゃないわ。美しい顔が台なしじゃないの。ええ、お望み通り、今に
(やがて、いきのねをとめてあげますわ。そして、このあいだまでにこのおりのなかに)
やがて、息の根をとめて上げますわ。そして、このあいだまでにこの檻の中に
(どうきょしていたkこさんとおなじように、えいえんにとしをとらないおにんぎょうさんに)
同居していたK子さんと同じように、永遠に年をとらないお人形さんに
(こしらえてあげますわ。ほほほほほ くろこふじんがざんこくにちょうしょうした。)
こしらえてあげますわ。ホホホホホ」黒衣婦人が残酷に嘲笑した。
(え、なんだって?kこさんがにんぎょうになったって?ちくしょうめ、それじゃ、とうとう)
「え、なんだって?K子さんが人形になったって?畜生め、それじゃ、とうとう
(あのひとをころしたんだな。そしてはくせいにんぎょうにしたんだな......だれが、)
あの人を殺したんだな。そして剥製人形にしたんだな......だれが、
(だれがにんぎょうなんぞになるもんか。おれはきさまのおもちゃじゃないんだ。)
だれが人形なんぞになるもんか。おれは貴様のおもちゃじゃないんだ。
(ちっとでもおれにちかづいてみろ、どいつもこいつもようしゃはない、かたっぱしから)
ちっとでもおれに近づいてみろ、どいつもこいつも容赦はない、片っぱしから
(かみころしてやるぞ。のどぶえにかみついていきのねをとめてやるぞ ほほほほほ、)
噛み殺してやるぞ。喉笛に噛みついて息の根をとめてやるぞ」「ホホホホホ、
(まあいまのうちに、せいぜいあばれておくといいわ。おにんぎょうさんにされちまったら)
まあ今のうちに、せいぜいあばれておくといいわ。お人形さんにされちまったら
(いしのようにうごけなくなるんだから。それに、あたしは、そうしてうつくしいおとこのこの)
石のように動けなくなるんだから。それに、あたしは、そうして美しい男の子の
(あばれているのをみるのが、このうえもないたのしみなのよ。ほほほほほ)
あばれているのを見るのが、この上もない楽しみなのよ。ホホホホホ」
(くろこふじんは、せいねんのくもんをきょうらくしながら、さらにあたらしいきょうふにときすすんだ。)
黒衣婦人は、青年の苦悶を享楽しながら、さらに新しい恐怖に説き進んだ。
(あんた、kこさんがいなくなって、さびしいでしょう。どこのどうぶつえんへ)
「あんた、K子さんがいなくなって、さびしいでしょう。どこの動物園へ
(いってみても、もうじゅうのおりにはたいていおすとめすとがおそろいでいるものだわ。あたし、)
行って見ても、猛獣の檻には大てい牡と牝とがお揃いでいるものだわ。あたし、
(もうさきから、あんたにおよめさんをおせわしなけりゃとおもって、いろいろこころがけて)
もう先から、あんたにお嫁さんをお世話しなけりゃと思って、いろいろ心がけて
(いたのよ。そして、きょうやっと、そのはなよめさんをおつれもうしたって)
いたのよ。そして、きょうやっと、その花嫁さんをお連れ申したって
(わけなの。ごらんなさい。うつくしいおよめさんでしょう。どう?おきに)
わけなの。ごらんなさい。美しいお嫁さんでしょう。どう?お気に
(めさなくって?さなえさんはそれをきくと、ぞーっとおかんをかんじて、)
召さなくって?」早苗さんはそれを聞くと、ゾーッと悪寒を感じて、
(あごのあたりががくがくふるえるのをどうすることもできなかった。いまこそ、)
顎のあたりがガクガクふるえるのをどうすることもできなかった。今こそ、
(くろとかげ のじゃあくなたくらみのぜんぼうがあきらかになった。にょぞくは、)
「黒トカゲ」の邪悪なたくらみの全貌が明らかになった。女賊は、
(うつくしいさなえさんをまるはだかにして、このおりのなかになげこむために、それから、)
美しい早苗さんをまるはだかにして、この檻の中に投げ込むために、それから、
(ころをみて、かのじょのなまかわをはぎ、おそろしいはくせいにんぎょうとして、あくまのびじゅつかんを)
頃を見て、彼女の生皮を剥ぎ、恐ろしい剥製人形として、悪魔の美術館を
(かざるために、あれほどのくしんをして、かのじょをゆうかいしてきたのだ。あら、)
飾るために、あれほどの苦心をして、彼女を誘拐してきたのだ。「あら、
(さなえさん、どうなすったの?ふるえているんじゃないの?あしのはのように)
早苗さん、どうなすったの?ふるえているんじゃないの?葦の葉のように
(ふるえているわね。わかって、あなたのやくわりが。でも、このおむこさん、)
ふるえているわね。わかって、あなたの役割が。でも、このお婿さん、
(まんざらでもないでしょう。それともおきにめさないの?おきにめしても)
まんざらでもないでしょう。それともお気に召さないの?お気に召しても
(めさなくても、あたしは、もうちゃんと、そういうことにきめて)
召さなくても、あたしは、もうちゃんと、そういうことにきめて
(しまったんだから、がまんしてね さなえさんは、あまりのぶきみさおそろしさに、)
しまったんだから、我慢してね」早苗さんは、あまりの無気味さ恐ろしさに、
(もうくちをきくきりょくもなかった。たっているのがやっとだった。あたまのなかがすーっと)
もう口をきく気力もなかった。立っているのがやっとだった。頭の中がスーッと
(からっぽになって、ふらふらとくずおれそうであった。)
からっぽになって、フラフラとくずおれそうであった。