私の個人主義1
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問題文
(わたしはきょうはじめてこのがくしゅういん)
私は今日初めてこの学習院
(というもののなかにはいりました。)
というものの中に這入りました。
(もっともいぜんからがくしゅういんは)
もっとも以前から学習院は
(たぶんこのけんとうだろうぐらいに)
多分この見当だろうぐらいに
(かんがえていたにはそういありませんが、)
考えていたには相違ありませんが、
(はっきりとはぞんじませんでした。)
はっきりとは存じませんでした。
(なかへはいったのはむろんきょうが)
中へ這入ったのは無論今日が
(はじめてでございます。さきほど)
初めてでございます。さきほど
(おかださんがしょうかいかたがたちょっと)
岡田さんが紹介かたがたちょっと
(おはなしになったとおりこのはるなにか)
お話になった通りこの春何か
(こうえんをというごちゅうもんでありましたが、)
講演をというご注文でありましたが、
(そのとうじはなにかさしつかえがあって、)
その当時は何か差支があって、
(おかださんのほうがとうにんのわたしより)
岡田さんの方が当人の私より
(よくごきおくとみえてあなたがたに)
よくご記憶と見えてあなたがたに
(ごなっとくのできるようにただいま)
ご納得のできるようにただいま
(ごせつめいがありましたが、とにかく)
ご説明がありましたが、とにかく
(ひとまずおことわりをいたさなければ)
ひとまずお断りを致さなければ
(ならんことになりました。しかしただ)
ならん事になりました。しかしただ
(おことわりをいたすのもあまりしつれいと)
お断りを致すのもあまり失礼と
(ぞんじまして、このつぎにはまいりますから)
存じまして、この次には参りますから
(というじょうけんをつけくわえておきました。)
という条件をつけ加えておきました。
(そのときねんのためこのつぎはいつごろ)
その時念のためこの次はいつごろ
(になりますかとおかださんにうかがいましたら、)
になりますかと岡田さんに伺いましたら、
(このとしのじゅうがつだというおへんじであったので、)
此年の十月だというお返事であったので、
(こころのうちにはるからじゅうがつまでのにっすうを)
心のうちに春から十月までの日数を
(だいたいくってみて、それだけのじかんが)
大体繰ってみて、それだけの時間が
(あればそのうちにどうにかできるだろうと)
あればそのうちにどうにかできるだろうと
(おもったものですから、よろしゅうございます)
思ったものですから、よろしゅうございます
(とはっきりおうけあもうしたのであります。)
とはっきりお受合申したのであります。
(ところがこうかふこうかびょうきにかかりまして、)
ところが幸か不幸か病気に罹りまして、
(くがついっぱいゆかについておりますうちに)
九月いっぱい床についておりますうちに
(おやくそくのじゅうがつがまいりました。じゅうがつには)
お約束の十月が参りました。十月には
(もうふせってはおりませんでしたけれども、)
もう臥せってはおりませんでしたけれども、
(なにしろひょろひょろするのでこうえんは)
何しろひょろひょろするので講演は
(ちょっとむずかしかったのです。しかし)
ちょっとむずかしかったのです。しかし
(おやくそくをわすれてはならないのですから、)
お約束を忘れてはならないのですから、
(はらのなかでは、いまになにかいってこられるだろう)
腹の中では、今に何か云って来られるだろう
(こられるだろうとおもって、うちうちはこわがって)
来られるだろうと思って、内々は怖がって
(いました。そのうちひょろひょろも)
いました。そのうちひょろひょろも
(ついにいやってしまったけれども、)
ついに癒ってしまったけれども、
(こちらからはじゅうがつまつまでなにのごさたもなく)
こちらからは十月末まで何のご沙汰もなく
(うちすぎました。わたしはむろんびょうきのことを)
打ち過ぎました。私は無論病気の事を
(ごつうちはしておきませんでしたが、)
ご通知はしておきませんでしたが、
(にさんのしんぶんにちょっとでたというはなしですから、)
二三の新聞にちょっと出たという話ですから、
(あるいはそのへんのじじょうをさっせられて、)
あるいはその辺の事情を察せられて、
(だれかがわたしのかわりにこうえんをやってくださったのだろう)
誰かが私の代りに講演をやって下さったのだろう
(とすいそくしてあんしんしだしました。ところへ)
と推測して安心し出しました。ところへ
(またおかださんがまたとつぜんみえたのであります。)
また岡田さんがまた突然見えたのであります。
(おかださんはわざわざながぐつをはいてみえたので)
岡田さんはわざわざ長靴を穿いて見えたので
(あります。(もっともあめのふるひであったから)
あります。(もっとも雨の降る日であったから
(でもありましょうが、)そういったみごしらえで、)
でもありましょうが、)そう云った身拵えで、
(わせだのおくまできてくだすって、れいのこうえんは)
早稲田の奥まで来て下すって、例の講演は
(じゅういちがつのまつまでくりのばすことにしたから)
十一月の末まで繰り延ばす事にしたから
(やくそくどおりや)
約束通りや
(ってもらいたいというごこうじょう)
ってもらいたいというご口上
(なのです。わたしはもうせきにんを)
なのです。私はもう責任を
(のがれたようにかんがえていたものですから)
逃れたように考えていたものですから
(じつはしょうしょうおどろかしろきました。)
実は少々驚ろきました。
(しかしまだいちかげつもよゆうがあるから、)
しかしまだ一カ月も余裕があるから、
(そのあいだにどうかなるだろうとおもって、)
その間にどうかなるだろうと思って、
(よろしゅうございますとまたごへんじを)
よろしゅうございますとまたご返事を
(いたしました。みぎのしだいで、このはるから)
致しました。右の次第で、この春から
(じゅうがつにいたるまで、じゅうがつまつからまた)
十月に至るまで、十月末からまた
(じゅういちがつにじゅうごにちにいたるまでのあいだに、)
十一月二十五日に至るまでの間に、
(なにかまとったおはなしをすべきじかんはいくらでも)
何か纏ったお話をすべき時間はいくらでも
(こしらえられるのですが、どうもすこしきぶんが)
拵えられるのですが、どうも少し気分が
(わるくって、そんなことをかんがえるのがめんどうで)
悪くって、そんな事を考えるのが面倒で
(たまらなくなりました。そこでまあ)
たまらなくなりました。そこでまあ
(じゅういちがつにじゅうごにちがくるまではかまえうまいという)
十一月二十五日が来るまでは構うまいという
(おうちゃくなりょうけんをおこして、ずるずるべったりに)
横着な料簡を起して、ずるずるべったりに
(そのひそのひをおくっていたのです。)
その日その日を送っていたのです。
(いよいよとじじつがせまったにさんにちまえになって、)
いよいよと時日が逼った二三日前になって、
(なにかかんがえなければならないというきが)
何か考えなければならないという気が
(すこししたのですが、やはりかんがえるのが)
少ししたのですが、やはり考えるのが
(ふゆかいなので、とうとうえをかいてくらして)
不愉快なので、とうとう絵を描いて暮らして
(しまいました。えをかくというとなにかえらい)
しまいました。絵を描くというと何かえらい
(ものがえがけるようにきこえるかもしれませんが、)
ものが描けるように聞えるかも知れませんが、
(じつはたわいもないものをえがいて、それを)
実は他愛もないものを描いて、それを
(かべにはりつけてひとりでふつかもみっかも)
壁に貼りつけて一人で二日も三日も
(ぼんやりながめているだけなのです。)
ぼんやり眺めているだけなのです。
(きのうでしたかあるひとがこて、このえは)
昨日でしたかある人が来て、この絵は
(たいへんおもしろいいやおもしろいといったのでは)
大変面白いいや面白いと云ったのでは
(ありません、おもしろいきぶんのときにえがいたえらしく)
ありません、面白い気分の時に描いた画らしく
(みえるといってくれたのでした。それから)
見えると云ってくれたのでした。それから
(わたしはゆかいだからえがいたのではない、ふゆかい)
私は愉快だから描いたのではない、不愉快
(だからえがいたのだといってわたしのこころのじょうたいを)
だから描いたのだと云って私の心の状態を
(そのおとこにせつめいしてやりました。よのなかには)
その男に説明してやりました。世の中には
(ゆかいでじっとしていられないけっかをえにしたり、)
愉快でじっとしていられない結果を画にしたり、
(しょにしたり、またはぶんにしたりするひとが)
書にしたり、または文にしたりする人が
(あるとおり、ふゆかいだから、どうかしてよい)
ある通り、不愉快だから、どうかして好い
(こころもちになりたいとおもって、ふでをとって)
心持になりたいと思って、筆を執って
(えなりぶんしょうなりをつくるひともあります。)
画なり文章なりを作る人もあります。
(そうしてふしぎにもこのふたつのしんてきじょうたいが)
そうして不思議にもこの二つの心的状態が
(けっかにあらわれたところをみるとよくいっちして)
結果に現われたところを見るとよく一致して
(いるばあいがおこるのです。しかしこれはほんの)
いる場合が起るのです。しかしこれはほんの
(ついでにもうしあげることで、はなしのすじにかんけいした)
ついでに申し上る事で、話の筋に関係した
(もんだいでもありませんからふかくはたちいりません。)
問題でもありませんから深くは立ち入りません。
(なにしろわたしはそのへんなえをながめるだけで、)
何しろ私はその変な画を眺めるだけで、
(こうえんのないようをちっともくみたてずにくらして)
講演の内容をちっとも組み立てずに暮らして
(しまったのです。そのうちいよいよにじゅうごにちが)
しまったのです。そのうちいよいよ二十五日が