心理試験1/江戸川乱歩

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 にょん 5681 A 5.9 96.1% 1240.1 7339 293 99 2024/12/04
2 ヌオー 5530 A 5.9 93.5% 1240.4 7364 504 99 2024/11/28
3 くま 2757 E+ 3.0 91.0% 2406.2 7354 719 99 2024/12/20

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問題文

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(ふきやせいいちろうが、なぜこれからしるすようなおそろしいあくじをおもいたったか、そのどうきに)

蕗屋清一郎が、何故これから記す様な恐ろしい悪事を思立ったか、その動機に

(ついてはくわしいことはわからぬ。またたといわかったとしてもこのおはなしにはたいしてかんけいが)

ついては詳しいことは分らぬ。又仮令分ったとしてもこのお話には大して関係が

(ないのだ。かれがなかばくがくみたいなことをして、あるだいがくにかよっていたところを)

ないのだ。彼がなかば苦学見たいなことをして、ある大学に通っていた所を

(みると、がくしのひつようにせまられたのかともかんがえられる。かれはまれにみるしゅうさいで、しかも)

見ると、学資の必要に迫られたのかとも考えられる。彼は稀に見る秀才で、而も

(ひじょうなべんきょうかだったから、がくしをえるために、つまらぬないしょくにときをとられて、)

非常な勉強家だったから、学資を得る為に、つまらぬ内職に時を取られて、

(すきなどくしょやしさくがじゅうぶんできないのをざんねんにおもっていたのはたしかだ。だが、)

好きな読書や思索が十分出来ないのを残念に思っていたのは確かだ。だが、

(そのくらいのりゆうで、にんげんはあんなたいざいをおかすものだろうか。おそらくかれはせんてんてきの)

その位の理由で、人間はあんな大罪を犯すものだろうか。恐らく彼は先天的の

(あくにんだったのかもしれない。そして、がくしばかりでなくほかのさまざまなよくぼうをおさえ)

悪人だったのかも知れない。そして、学資ばかりでなく他の様々な慾望を抑え

(かねたのかもしれない。それはともかく、かれがそれをおもいついてから、もうはんとしに)

兼ねたのかも知れない。それは兎も角、彼がそれを思いついてから、もう半年に

(なる。そのあいだ、かれはまよいにまよい、かんがえにかんがえたあげく、けっきょくやっつけることに)

なる。その間、彼は迷いに迷い、考えに考えた揚句、結局やッつけることに

(けっしんしたのだ。)

決心したのだ。

(あるとき、かれはふとしたことから、どうきゅうせいのさいとういさむとしたしくなった。それがことの)

ある時、彼はふとしたことから、同級生の斎藤勇と親しくなった。それが事の

(おこりだった。はじめはむろんなにのせいしんがあったわけではなかった。しかしちゅうとから、かれは)

起りだった。初めは無論何の成心があった訳ではなかった。併し中途から、彼は

(あるおぼろげなもくてきをいだいてさいとうにせっきんしていった。そして、せっきんしていくに)

あるおぼろげな目的を抱いて斎藤に接近して行った。そして、接近して行くに

(したがって、そのおぼろげなもくてきがだんだんはっきりしてきた。)

随って、そのおぼろげな目的が段々はっきりして来た。

(さいとうは、いちねんばかりまえから、やまのてのあるさびしいやしきまちのしろうとやにへやをかりて)

斎藤は、一年ばかり前から、山の手のある淋しい屋敷町の素人屋に部屋を借りて

(いた。そのいえのあるじは、かんりのみぼうじんで、といっても、もうろくじゅうにちかいろうばだった)

いた。その家の主は、官吏の未亡人で、といっても、もう六十に近い老婆だった

(が、ぼうふののこしていったすうけんのしゃくやからあげるりえきで、じゅうぶんせいかつができるにも)

が、亡夫の遺して行った数軒の借家から上る利益で、十分生活ができるにも

(かかわらず、こどもをめぐまれなかったかのじょは、「ただもうおかねがたよりだ」といって、)

拘らず、子供を恵まれなかった彼女は、「ただもうお金がたよりだ」といって、

(かくじつなしりあいにこがねをかしたりして、すこしずつちょきんをふやしていくのをこのうえもない)

確実な知合いに小金を貸したりして、少しずつ貯金を殖して行くのを此上もない

など

(たのしみにしていた。さいとうにへやをかしたのも、ひとつはおんなばかりのくらしではぶようじん)

楽しみにしていた。斎藤に部屋を貸したのも、一つは女ばかりの暮しでは不用心

(だからというりゆうもあっただろうが、いっぽうではへやだいだけでも、まいつきのちょきんがくが)

だからという理由もあっただろうが、一方では部屋代丈けでも、毎月の貯金額が

(ふえることをかんじょうにいれていたにそういない。そしてかのじょは、いまどきあまりきかぬはなし)

殖えることを勘定に入れていたに相違ない。そして彼女は、今時余り聞かぬ話

(だけれども、しゅせんどのしんりは、ここんとうざいをつうじておなじものとみえる、ひょうめんてきな)

だけれども、守銭奴の心理は、古今東西を通じて同じものと見える、表面的な

(ぎんこうよきんのほかに、ばくだいなげんきんをじたくのあるひみつなばしょへ)

銀行預金の外に、莫大な現金を自宅のある秘密な場所へ

(かくしているといううわさだった。)

隠しているという噂だった。

(ふきやはこのかねにゆうわくをかんじたのだ。あのおいぼれが、そんなたいきんをもっている)

蕗屋はこの金に誘惑を感じたのだ。あのおいぼれが、そんな大金を持っている

(ということになにのかちがある。それをおれのようなみらいのあるせいねんのがくしにしようする)

ということに何の価値がある。それを俺の様な未来のある青年の学資に使用する

(のは、きわめてごうりてきなことではないか。かんたんにいえば、これがかれのりろんだった。)

のは、極めて合理的なことではないか。簡単に云えば、これが彼の理論だった。

(そこでかれは、さいとうをつうじてできるだけろうばについてのちしきをえようとした。その)

そこで彼は、斎藤を通じて出来る丈け老婆についての智識を得ようとした。その

(たいきんのひみつなかくしばしょをさぐろうとした。しかしかれは、あるときさいとうが、ぐうぜんそのかくし)

大金の秘密な隠し場所を探ろうとした。併し彼は、ある時斎藤が、偶然その隠し

(ばしょをはっけんしたということをきくまでは、べつにかくていてきなかんがえをもっていたわけでも)

場所を発見したということを聞くまでは、別に確定的な考を持っていた訳でも

(なかった。)

なかった。

(「きみ、あのばあさんにしてはかんしんなおもいつきだよ、たいてい、えんのしたとか、てんじょううら)

「君、あの婆さんにしては感心な思いつきだよ、大抵、縁の下とか、天井裏

(とか、かねのかくしばしょなんてきまっているものだが、ばあさんのはちょっといがいなところなのだ)

とか、金の隠し場所なんて極っているものだが、婆さんのは一寸意外な所なのだ

(よ。あのおくざしきのとこのまに、おおきなもみじのうえきばちがおいてあるだろう。あの)

よ。あの奥座敷の床の間に、大きな紅葉の植木鉢が置いてあるだろう。あの

(うえきばちのそこなんだよ。そのかくしばしょがさ。どんなどろぼうだって、まさかうえきばちに)

植木鉢の底なんだよ。その隠し場所がさ。どんな泥坊だって、まさか植木鉢に

(かねがかくしてあろうとはきづくまいからね。ばあさんは、まあいってみれば、)

金が隠してあろうとは気づくまいからね。婆さんは、まあ云って見れば、

(しゅせんどのてんさいなんだね」)

守銭奴の天才なんだね」

(そのとき、さいとうはこういっておもしろそうにわらった。)

その時、斎藤はこう云って面白そうに笑った。

(それいらい、ふきやのかんがえはすこしずつぐたいてきになっていった。ろうばのかねをじぶんのがくしに)

それ以来、蕗屋の考は少しずつ具体的になって行った。老婆の金を自分の学資に

(ふりかえるけいろのひとつひとつについて、あらゆるかのうせいをかんじょうにいれたうえ、もっともあんぜん)

振替える径路の一つ一つについて、あらゆる可能性を勘定に入れた上、最も安全

(なほうほうをかんがえだそうとした。それはよそういじょうにこんなんなしごとだった。これに)

な方法を考えだそうとした。それは予想以上に困難な仕事だった。これに

(くらべれば、どんなふくざつなすうがくのもんだいだって、なんでもなかった。かれはさきにも)

比べれば、どんな複雑な数学の問題だって、なんでもなかった。彼は先にも

(いったように、そのかんがえをまとめるだけのためにはんとしをついやしたのだ。)

云った様に、その考を纏める丈けの為に半年を費やしたのだ。

(なんてんは、いうまでもなく、いかにしてけいばつをまぬがれるかということにあった。)

難点は、云うまでもなく、如何にして刑罰を免れるかということにあった。

(りんりじょうのしょうがい、すなわちりょうしんのかしゃくというようなことは、かれにはさしてもんだいでは)

倫理上の障礙、即ち良心の呵責という様なことは、彼にはさして問題では

(なかった。かれはなぽれおんのおおがかりなさつじんをざいあくとはかんがえないで、むしろさんび)

なかった。彼はナポレオンの大掛かりな殺人を罪悪とは考えないで、寧ろ賛美

(するとおなじように、さいのうのあるせいねんが、そのさいのうをそだてるために、かんおけにかたあしをふみ)

すると同じ様に、才能のある青年が、その才能を育てる為に、棺桶に片足をふみ

(こんだおいぼれをぎせいにきょうすることを、とうぜんだとおもった。)

込んだおいぼれを犠牲に供することを、当然だと思った。

(ろうばはめったにがいしゅつしなかった。しゅうじつもくもくとしておくのざしきにまるくなっていた。)

老婆は滅多に外出しなかった。終日黙々として奥の座敷に丸くなっていた。

(たまにがいしゅつすることがあっても、るすちゅうは、いなかもののじょちゅうがかのじょのめいをうけて)

たまに外出することがあっても、留守中は、田舎者の女中が彼女の命を受けて

(しょうじきにみはりばんをつとめた。ふきやのあらゆるくしんにもかかわらず、ろうばのようじんにはすこしの)

正直に見張番を勤めた。蕗屋のあらゆる苦心にも拘らず、老婆の用心には少しの

(すきもなかった。ろうばとさいとうのいないときをみはからって、このじょちゅうをだましてつかいに)

隙もなかった。老婆と斎藤のいない時をみはからって、この女中を騙して使に

(だすかなにかして、そのすきにれいのかねをうえきばちからぬすみだしたら、ふきやはさいしょそんな)

出すか何かして、その隙に例の金を植木鉢から盗み出したら、蕗屋は最初そんな

(ふうにかんがえてみた。しかしそれははなはだむふんべつなかんがえだった。たといすこしのあいだでも、あのいえ)

風に考えて見た。併しそれは甚だ無分別な考だった。仮令少しの間でも、あの家

(にただひとりでいたことがわかっては、もうそれだけでじゅうぶんけんぎをかけられるでは)

にただ一人でいたことが分っては、もうそれ丈けで十分嫌疑をかけられるでは

(ないか。かれはこのしゅのさまざまなおろかなほうほうを、かんがえてはうちけし、かんがえてはうちけす)

ないか。彼はこの種の様々な愚かな方法を、考えては打消し、考えては打消す

(のに、たっぷりいっかげつをついやした。それはたとえば、さいとうかじょちゅうかまたはふつうのどろぼうが)

のに、たっぷり一ヶ月を費した。それは例えば、斎藤か女中か又は普通の泥坊が

(ぬすんだとみせかけるとりっくだとか、じょちゅうひとりのときにすこしもおとをたてないで)

盗んだと見せかけるトリックだとか、女中一人の時に少しも音を立てないで

(しのびこんで、かのじょのめにふれないようにぬすみだすほうほうだとか、よなか、ろうばのねむって)

忍込んで、彼女の目にふれない様に盗み出す方法だとか、夜中、老婆の眠って

(いるあいだにしごとをするほうほうだとか、そのほかかんがえうるあらゆるばあいを、かれはかんがえた。)

いる間に仕事をする方法だとか、其他考え得るあらゆる場合を、彼は考えた。

(しかし、どれにもこれにも、はっかくのかのうせいがたぶんにふくまれていた。)

併し、どれにもこれにも、発覚の可能性が多分に含まれていた。

(どうしてもろうばをやっつけるほかはない。かれはついにこのおそろしいけつろんにたっした。)

どうしても老婆をやっつける外はない。彼は遂にこの恐ろしい結論に達した。

(ろうばのかねがどれほどあるかよくわからぬけれど、いろいろのてんからかんがえて、さつじんのきけん)

老婆の金がどれ程あるかよく分からぬけれど、色々の点から考えて、殺人の危険

(をおかしてまでしゅうちゃくするほどたいしたきんがくだとはおもわれぬ。たかのしれたかねのためになんの)

を犯してまで執着する程大した金額だとは思われぬ。たかの知れた金の為に何の

(つみもないひとりのにんげんをころしてしまうというのは、あまりにざんこくすぎはしないか。)

罪もない一人の人間を殺して了うというのは、余りに残酷過ぎはしないか。

(しかし、それがせけんのひょうじゅんからみてはたいしたきんがくでなくとも、びんぼうなふきやにはじゅうぶん)

併し、それが世間の標準から見ては大した金額でなくとも、貧乏な蕗屋には十分

(まんぞくできるのだ。のみならず、かれのかんがえによれば、もんだいはきんがくのたしょうではなくて、)

満足出来るのだ。のみならず、彼の考によれば、問題は金額の多少ではなくて、

(ただはんざいのはっかくをぜったいにふかのうならしめることだった。そのためには、どんな)

ただ犯罪の発覚を絶対に不可能ならしめることだった。その為には、どんな

(おおきなぎせいをはらっても、すこしもさしつかえないのだ。)

大きな犠牲を払っても、少しも差支ないのだ。

(さつじんは、いっけん、たんなるせっとうよりはいくそうばいもきけんなしごとのようにみえる。だが、それ)

殺人は、一見、単なる窃盗よりは幾層倍も危険な仕事の様に見える。だが、それ

(はいっしゅのさっかくにすぎないのだ。なるほど、はっかくすることをよそうしてやるしごとなれば)

は一種の錯覚に過ぎないのだ。成程、発覚することを予想してやる仕事なれば

(さつじんはあらゆるはんざいのなかでもっともきけんにそういない。しかし、もしはんざいのけいちょうよりも、)

殺人はあらゆる犯罪の中で最も危険に相違ない。併し、若し犯罪の軽重よりも、

(はっかくのなんいをめやすにかんがえたならば、ばあいによっては(たとえばふきやのばあいのごときは)

発覚の難易を目安に考えたならば、場合によっては(例えば蕗屋の場合の如きは

()むしろせっとうのほうがあぶないしごとなのだ。これにはんして、あくじのはっけんしゃをばらしてしまう)

)寧ろ窃盗の方が危い仕事なのだ。これに反して、悪事の発見者をバラして了う

(ほうほうは、ざんこくなかわりにしんぱいがない。むかしから、えらいあくにんは、へいきでずばりずばりと)

方法は、残酷な代りに心配がない。昔から、偉い悪人は、平気でズバリズバリと

(ひとごろしをやっている。かれらがなかなかつかまらぬのは、かえってこのだいたんなさつじんのおかげ)

人殺しをやっている。彼等が却々つかまらぬのは、却ってこの大胆な殺人のお蔭

(なのではなかろうか。)

なのではなかろうか。

(では、ろうばをやっつけるとして、それにははたしてきけんがないか。このもんだいにぶっ)

では、老婆をやっつけるとして、それには果して危険がないか。この問題にぶッ

(つかってから、ふきやはすうかげつのあいだかんがえとおした。そのながいあいだに、かれがどんなふうに)

つかってから、蕗屋は数ヶ月の間考え通した。その長い間に、彼がどんな風に

(かんがえをそだてていったか。それはものがたりがすすむにしたがって、どくしゃにわかることだから、ここ)

考を育てて行ったか。それは物語が進むに随って、読者に分ることだから、ここ

(にはぶくが、ともかく、かれは、とうていふつうひとのかんがえおよぶこともできないほど、びにいりさい)

に省くが、兎も角、彼は、到底普通人の考え及ぶことも出来ない程、微に入り細

(をうがったぶんせきならびにそうごうのけっか、ちりひとすじのてぬかりもない、ぜったいにあんぜんなほうほうを)

を穿った分析並に綜合の結果、塵一筋の手抜かりもない、絶対に安全な方法を

(かんがえだしたのだ。)

考え出したのだ。

(いまはただ、じきのくるのをまつばかりだった。が、それはあんがいはやくきた。ある)

今はただ、時機の来るのを待つばかりだった。が、それは案外早く来た。ある

(ひ、さいとうはがっこうかんけいのことで、じょちゅうはつかいにだされて、ふたりともゆうがたまでけっしてきたく)

日、斎藤は学校関係のことで、女中は使に出されて、二人共夕方まで決して帰宅

(しないことがたしかめられた。それはちょうどふきやがさいごのじゅんびこういをおわったひから)

しないことが確かめられた。それは丁度蕗屋が最後の準備行為を終った日から

(ふつかめだった。そのさいごのじゅんびこういというのは(これだけはまえもってせつめいしておく)

二日目だった。その最後の準備行為というのは(これ丈けは前以て説明して置く

(ひつようがある)かつてさいとうにれいのかくしばしょをきいてから、もうはんとしもけいかしたこんにち)

必要がある)嘗つて斎藤に例の隠し場所を聞いてから、もう半年も経過した今日

(、それがまだとうじのままであるかどうかをたしかめるためのあるこういだった。かれは)

、それがまだ当時のままであるかどうかを確かめる為の或る行為だった。彼は

(そのひ(すなわちろうばごろしのふつかまえ)さいとうをたずねたついでに、はじめてろうばのへやである)

その日(即ち老婆殺しの二日前)斎藤を訪ねた序に、初めて老婆の部屋である

(おくざしきにはいって、かのじょといろいろせけんばなしをとりかわした。かれはそのせけんばなしをじょじょにひとつ)

奥座敷に入って、彼女と色々世間話を取交わした。彼はその世間話を徐々に一つ

(のほうこうへおとしていった。そして、しばしばろうばのざいさんのこと、それをかのじょがどこかへ)

の方向へ落して行った。そして、屡々老婆の財産のこと、それを彼女がどこかへ

(かくしているといううわさのあることなぞくちにした。かれは「かくす」ということばのでるごと)

隠しているという噂のあることなぞ口にした。彼は「隠す」という言葉のでる毎

(に、それとなくろうばのめをちゅういした。すると、かのじょのめは、かれのよきしたとおり、)

に、それとなく老婆の眼を注意した。すると、彼女の眼は、彼の予期した通り、

(そのつど、とこのまのうえきばち(もうそのときはもみじではなく、まつにうえかえてあった)

その都度、床の間の植木鉢(もうその時は紅葉ではなく、松に植えかえてあった

(けれど)にそっとそそがれるのだ。ふきやはそれをすうかいくりかえして、もはやすこしも)

けれど)にそっと注がれるのだ。蕗屋はそれを数回繰返して、最早や少しも

(うたがうよちのないことをたしかめることができた。)

疑う余地のないことを確かめることが出来た。

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