心理試験8/江戸川乱歩

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ヌオー 5578 A 6.0 93.0% 488.7 2947 221 50 2024/12/18
2 ヌオー 4960 B 5.2 94.0% 558.6 2957 186 50 2024/11/28
3 もっちゃん先生 4724 C++ 5.0 93.6% 588.9 2983 201 50 2024/12/19
4 kei 4714 C++ 4.9 95.3% 599.9 2974 146 50 2024/12/19

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問題文

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(「これをみると、じつにおもしろいですね」あけちがきろくをてにしてはじめた。)

「これを見ると、実に面白いですね」明智が記録を手にして始めた。

(「ふきやもさいとうもなかなかべんきょうかだっていいますが、「ほん」というたんごにたいして、)

「蕗屋も斎藤も中々勉強家だって云いますが、『本』という単語に対して、

(りょうにんとも、「まるぜん」とこたえたところなどは、よくせいしつがあらわれていますね。)

両人共、『丸善』と答えた所などは、よく性質が現れていますね。

(もっとおもしろいのは、ふきやのこたえは、みなどことなくぶっしつてきで、りちてきなのにはんして、)

もっと面白いのは、蕗屋の答は、皆どことなく物質的で、理知的なのに反して、

(さいとうのはいかにもやさしいところがあるじゃありませんか。じょじょうてきですね。)

斎藤のは如何にもやさしい所があるじゃありませんか。叙情的ですね。

(たとえば「おんな」だとか「きもの」だとか「はな」だとか「にんぎょう」だとか「けしき」だとか)

例えば『女』だとか『着物』だとか『花』だとか『人形』だとか『景色』だとか

(「いもうと」だとかいうこたえは、どちらかといえば、せんちめんたるなよわよわしいおとこを)

『妹』だとかいう答は、どちらかと云えば、センチメンタルな弱々しい男を

(おもわせますね。それから、さいとうはきっとびょうしんですよ。「きらい」に「びょうき」)

思わせますね。それから、斎藤はきっと病身ですよ。『嫌い』に『病気』

(とこたえ「びょうき」に「はいびょう」とこたえてるじゃありませんか。へいぜいからはいびょうに)

と答え『病気』に『肺病』と答えてるじゃありませんか。平生から肺病に

(なりはしないかとおそれているしょうこですよ」)

なりはしないかと恐れている証拠ですよ」

(「そういうみかたもありますね。れんそうしんだんてやつは、かんがえればかんがえるだけ、)

「そういう見方もありますね。聯想診断て奴は、考えれば考える丈け、

(いろいろおもしろいはんだんがでてくるものですよ」)

色々面白い判断が出て来るものですよ」

(「ところで」あけちはすこしくちょうをかえていった。「あなたは、しんりしけんという)

「ところで」明智は少し口調を換えて云った。「あなたは、心理試験という

(もののじゃくてんについてかんがえられたことがありますかしら。)

ものの弱点について考えられたことがありますかしら。

(で・きろすはしんりしけんのていしょうしゃみゅんすたーべるひのかんがえをひひょうして、)

デ・キロスは心理試験の提唱者ミュンスターベルヒの考を批評して、

(このほうほうはごうもんにかわるべくこうあんされたものだけれど、そのけっかは、)

この方法は拷問に代るべく考案されたものだけれど、その結果は、

(やはりごうもんとおなじように、むこのものをつみにおとしいれ、ゆうざいしゃをいっすることがある)

やはり拷問と同じ様に、無辜のものを罪に陥れ、有罪者を逸することがある

(といっていますね。みゅんすたーべるひじしんも、しんりしけんのしんのこうのうは、)

といっていますね。ミュンスターベルヒ自身も、心理試験の真の効能は、

(けんぎしゃが、あるばしょとか、ひととか、ものについてしっているかどうかを)

嫌疑者が、ある場所とか、人とか、物について知っているかどうかを

(みいだすばあいにかぎってかくていてきだけれど、そのほかのばあいにはいくぶんきけんだという)

見出す場合に限って確定的だけれど、その他の場合には幾分危険だという

など

(ようなことを、どっかでかいていました。あなたにこんなことをおはなしするのは)

様なことを、どっかで書いていました。あなたにこんな事を御話するのは

(しゃかにせっぽうかもしれませんね。でも、これはたしかにたいせつなてんだとおもいますが、)

釈迦に説法かも知れませんね。でも、これは確かに大切な点だと思いますが、

(どうでしょう」)

どうでしょう」

(「それはわるいばあいをかんがえれば、そうでしょうがね。むろんぼくもそれは)

「それは悪い場合を考えれば、そうでしょうがね。無論僕もそれは

(しってますよ」)

知ってますよ」

(はんじはすこしいやなかおをしてこたえた。)

判事は少しいやな顔をして答えた。

(「しかし、そのわるいばあいが、ぞんがいてぢかにないともかぎりませんからね。)

「併し、その悪い場合が、存外手近かにないとも限りませんからね。

(こういうことはいえないでしょうか。たとえば、ひじょうにしんけいかびんな、)

こういうことは云えないでしょうか。例えば、非常に神経過敏な、

(むこのおとこが、あるはんざいのけんぎをうけたとかていしますね。そのおとこは)

無辜の男が、ある犯罪の嫌疑を受けたと仮定しますね。その男は

(はんざいのげんばをとらえられ、はんざいじじつもよくしっているのです。)

犯罪の現場を捕えられ、犯罪事実もよく知っているのです。

(このばあい、かれははたしてしんりしけんにたいしてへいきでいることができるでしょうか。)

この場合、彼は果して心理試験に対して平気でいることができるでしょうか。

(「あ、これはおれをためすのだな、どうこたえたらうたがわれないだろう」などという)

『ア、これは俺を試すのだな、どう答えたら疑われないだろう』などという

(ふうにこうふんするのがとうぜんではないでしょうか。ですから、そういうじじょうのもとに)

風に亢奮するのが当然ではないでしょうか。ですから、そういう事情の下に

(おこなわれたしんりしけんはで・きろすのいわゆる「むこのものをつみにおとしいれる」)

行われた心理試験はデ・キロスの所謂『無辜のものを罪に陥れる』

(ことになりはしないでしょうか」)

ことになりはしないでしょうか」

(「きみはさいとういさむのことをいっているのですね。いや、それは、ぼくもなんとなく)

「君は斎藤勇のことを云っているのですね。イヤ、それは、僕も何となく

(そうかんじたものだから、いまもいったように、まだまよっているのじゃありませんか」)

そう感じたものだから、今も云った様に、まだ迷っているのじゃありませんか」

(はんじはますますにがいかおをした。)

判事は益々苦い顔をした。

(「では、そういうふうに、さいとうがむざいだとすれば(もっともかねをぬすんだつみは)

「では、そういう風に、斎藤が無罪だとすれば(尤も金を盗んだ罪は

(まぬがれませんけれど)いったいだれがろうばをころしたのでしょう・・・」)

免れませんけれど)一体誰が老婆を殺したのでしょう・・・」

(はんじはこのあけちのことばをちゅうとからひきとって、あらあらしくたずねた。)

判事はこの明智の言葉を中途から引取って、荒々しく尋ねた。

(「そんなら、きみは、ほかにはんにんのめあてでもあるのですか」)

「そんなら、君は、外に犯人の目当てでもあるのですか」

(「あります」あけちがにこにこしながらこたえた。)

「あります」明智がニコニコしながら答えた。

(「ぼくはこのれんそうしけんのけっかからみてふきやがはんにんだとおもうのですよ。)

「僕はこの聯想試験の結果から見て蕗屋が犯人だと思うのですよ。

(しかしまだかくじつにそうだとはいえませんけれど、)

併しまだ確実にそうだとは云えませんけれど、

(あのおとこはもうきたくしたでしょうね。どうでしょう。それとなくかれをここへ)

あの男はもう帰宅したでしょうね。どうでしょう。それとなく彼をここへ

(よぶわけにはいきませんかしら、そうすれば、ぼくはきっとしんそうをつきとめて)

呼ぶ訳には行きませんかしら、そうすれば、僕はきっと真相をつき止めて

(おめにかけますがね」)

御目にかけますがね」

(「なんですって。それにはなにかたしかなしょうこでもあるのですか」)

「なんですって。それには何か確かな証拠でもあるのですか」

(はんじがすくなからずおどろいてたずねた。)

判事が少なからず驚いて尋ねた。

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