心理試験7/江戸川乱歩
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ヌオー | 5281 | B++ | 5.6 | 93.6% | 747.1 | 4233 | 287 | 65 | 2024/11/28 |
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問題文
(かれはまた、いっぽうにおいて、あるひとつのゆうりなじじょうをかんじょうにいれていた。)
彼は又、一方に於いて、ある一つの有利な事情を勘定に入れていた。
(それをかんがえると、たとい、よきしないじんもんにせっしても、さらにいっぽをすすめて、)
それを考えると、仮令、予期しない訊問に接しても、更らに一歩を進めて、
(よきしたじんもんにたいしてふりなはんのうをしめしてもごうもおそれることはないのだった。)
予期した訊問に対して不利な反応を示しても毫も恐れることはないのだった。
(というのは、しけんされるのは、ふきやひとりではないからだ。あのしんけいかびんな)
というのは、試験されるのは、蕗屋一人ではないからだ。あの神経過敏な
(さいとういさおがいくらみにおぼえがないといって、さまざまのじんもんにたいして、はたしてきょしん)
斎藤勇がいくら身に覚えがないといって、様々の訊問に対して、果して虚心
(へいきでいることができるだろうか。おそらく、かれとても、すくなくともふきやとどうようくらいの)
平気でいることが出来るだろうか。恐らく、彼とても、少くとも蕗屋と同様位の
(はんのうをしめすのがしぜんではあるまいか。)
反応を示すのが自然ではあるまいか。
(ふきやはかんがえるにしたがって、だんだんあんしんしてきた。なんだかはなうたでもうたいだしたいような)
蕗屋は考えるに随って、段々安心して来た。何だか鼻唄でも歌い出したい様な
(きもちになってきた。かれはいまはかえって、かさもりはんじのよびだしをまちかまえるようにさえ)
気持になって来た。彼は今は却って、笠森判事の呼び出しを待構える様にさえ
(なった。)
なった。
(かさもりはんじのしんりしけんがいかようにおこなわれたか。それにたいして、しんけいかのさいとうが)
笠森判事の心理試験が如何様に行われたか。それに対して、神経家の斎藤が
(どんなはんのうをしめしたか。ふきやが、いかにおちつきはらってしけんにおうじたか。)
どんな反応を示したか。蕗屋が、如何に落ちつきはらって試験に応じたか。
(ここにそれらのくだくだしいじょじゅつをならべたてることをさけて、ただちにそのけっかに)
ここにそれらの管々しい叙述を並べ立てることを避けて、直ちにその結果に
(はなしをすすめることにする。)
話を進めることにする。
(それはしんりしけんがおこなわれたよくじつのことである。かさもりはんじが、じたくのしょさいで、)
それは心理試験が行われた翌日のことである。笠森判事が、自宅の書斎で、
(しけんのけっかをかきとめたしょるいをまえにして、こくびをかしげているところへ、)
試験の結果を書きとめた書類を前にして、小首を傾ている所へ、
(あけちこごろうのめいしがつうじられた。)
明智小五郎の名刺が通じられた。
(「dざかのさつじんじけん」をよんだひとは、)
「D坂の殺人事件」を読んだ人は、
(このあけちこごろうがどんなおとこだかということを、いくぶんごぞんじであろう。)
この明智小五郎がどんな男だかと言うことを、幾分御存じであろう。
(かれはそのあと、しばしばこんなんなさつじんじけんにかんけいして、そのめずらしいさいのうをあらわし、)
彼はその後、屡々困難な殺人事件に関係して、その珍らしい才能を現し、
(せんもんかたちはもちろんいっぱんのせけんからも、もうりっぱにみとめられていた。)
専門家達は勿論一般の世間からも、もう立派に認められていた。
(かさもりしともあるじけんからこころやすくなったのだ。)
笠森氏ともある事件から心易くなったのだ。
(じょちゅうのあんないにつれて、はんじのしょさいに、あけちのにこにこしたかおがあらわれた。)
女中の案内につれて、判事の書斎に、明智のニコニコした顔が現れた。
(このおはなしは「dざかのさつじんじけん」からすうねんごのことで、)
このお話は「D坂の殺人事件」から数年後のことで、
(かれももうむかしのしょせいではなくなっていた。)
彼ももう昔の書生ではなくなっていた。
(「なかなか、ごせいがでますね」)
「却々、御精が出ますね」
(あけちははんじのつくえのうえをのぞきながらいった。)
明智は判事の机の上を覗きながら云った。
(「いや、どうも、こんどはまったくよわりましたよ」)
「イヤ、どうも、今度はまったく弱りましたよ」
(はんじが、らいきゃくのほうにからだのむきをかえながらおうじた。)
判事が、来客の方に身体の向きを換えながら応じた。
(「れいのろうばごろしのじけんですね。どうでした、しんりしけんのけっかは」)
「例の老婆殺しの事件ですね。どうでした、心理試験の結果は」
(あけちは、じけんいらい、たびたびかさもりはんじにあってくわしいじじょうをきいていたのだ。)
明智は、事件以来、度々笠森判事に逢って詳しい事情を聞いていたのだ。
(「いや、けっかはめいはくですがね」とはんじ「それがどうも、ぼくにはなんだかとくしん)
「イヤ、結果は明白ですがね」と判事「それがどうも、僕には何だか得心
(できないのですよ。きのうはみゃくはくのしけんとれんそうしんだんをやってみたのですが、)
できないのですよ。昨日は脈搏の試験と聯想診断をやって見たのですが、
(ふきやのほうはほとんどはんのうがないのです。もっともみゃくはくでは、だいぶんうたがわしいところも)
蕗屋の方は殆ど反応がないのです。尤も脈搏では、大分疑わしい所も
(ありましたが、しかし、さいとうにくらべれば、もんだいにもならぬくらいわずかなんです。)
ありましたが、併し、斎藤に比べれば、問題にもならぬ位僅かなんです。
(これをごらんなさい。ここにしつもんじこうと、みゃくはくのきろくがありますよ。)
これを御覧なさい。ここに質問事項と、脈搏の記録がありますよ。
(さいとうのほうはじつにいちじるしいはんのうをしめしているでしょう。れんそうしけんでもおなじことです。)
斎藤の方は実に著しい反応を示しているでしょう。聯想試験でも同じことです。
(この「うえきばち」というしげきごにたいするはんのうじかんをみてもわかりますよ。)
この『植木鉢』という刺戟語に対する反応時間を見ても分りますよ。
(ふきやのほうはほかのむいみなことばよりもかえってみじかいじかんでこたえているのにさいとうの)
蕗屋の方は外の無意味な言葉よりも却って短い時間で答えているのに斎藤の
(ほうは、どうです。ろくびょうもかかっているじゃありませんか」)
方は、どうです。六秒もかかっているじゃありませんか」
(はんじがしめしたれんそうしんだんのきろくはひだりのようにしるされていた。)
判事が示した聯想診断の記録は左の様に記されていた。
(まるじるしははんざいにかんけいあるたんご。じっさいはひゃくくらいつかわれるし、さらにそれを)
○印は犯罪に関係ある単語。実際は百位使われるし、更にそれを
(ふたくみもさんくみもよういして、つぎつぎとしけんするのだが、みぎのひょうはわかりやすくするために)
二組も三組も用意して、次々と試験するのだが、右の表は解り易くする為めに
(かんたんにしたものである。)
簡単にしたものである。
(「ね、ひじょうにめいりょうでしょう」はんじはあけちがきろくにめをとおすのをまってつづけた。)
「ね、非常に明瞭でしょう」判事は明智が記録に目を通すのを待って続けた。
(「これでみると、さいとうはいろいろこいのさいくをやっている。いちばんよくわかるのは)
「これで見ると、斎藤は色々故意の細工をやっている。一番よく分るのは
(はんのうじかんのおそいことですが、それがもんだいのたんごばかりでなくそのすぐあとのや、)
反応時間の遅いことですが、それが問題の単語ばかりでなくその直ぐあとのや、
(ふたつめのにまでえいきょうしているのです。それからまた、「かね」にたいして「てつ」)
二つ目のにまで影響しているのです。それから又、『金』に対して『鉄』
(といったり、「ぬすむ」にたいして「うま」といったり、かなりむりなれんそうを)
と云ったり、『盗む』に対して『馬』といったり、可也無理な聯想を
(やってますよ、「うえきばち」にいちばんながくかかったのは、おそらく「かね」と「まつ」)
やってますよ、『植木鉢』に一番長くかかったのは、恐らく『金』と『松』
(というふたつのれんそうをおさえつけるためにてまどったのでしょう。それにはんして、)
という二つの聯想を押さえつける為に手間取ったのでしょう。それに反して、
(ふきやのほうはごくしぜんです。「うえきばち」に「まつ」だとか、「あぶらがみ」に「かくす」)
蕗屋の方はごく自然です。『植木鉢』に『松』だとか、『油紙』に『隠す』
(だとか、「はんざい」に「ひとごろし」だとか、もしはんにんだったらぜひかくさなければ)
だとか、『犯罪』に『人殺し』だとか、若し犯人だったら是非隠さなければ
(ならないようなれんそうをへいきで、しかもみじかいじかんにこたえています。かれがひとごろしの)
ならない様な聯想を平気で、而も短い時間に答えています。彼が人殺しの
(ほんにんでいて、こんなはんのうをしめしたとすれば、よほどのていのうじにちがいありません。)
本人でいて、こんな反応を示したとすれば、余程の低能児に違いありません。
(ところが、じっさいはかれはーだいがくのがくせいで、それになかなかしゅうさいなのですからね」)
ところが、実際は彼はー大学の学生で、それに却々秀才なのですからね」
(「そんなふうにもとれますね」)
「そんな風にも取れますね」
(あけちはなにかかんがえかんがえいった。しかしはんじはかれのいみありげなひょうじょうには、)
明智は何か考え考え云った。併し判事は彼の意味あり気な表情には、
(すこしもきづかないで、はなしをすすめた。)
少しも気附かないで、話を進めた。
(「ところがですね。これで、もうふきやのほうはうたがうところはないのだが、さいとうが)
「ところがですね。これで、もう蕗屋の方は疑う所はないのだが、斎藤が
(はたしてはんにんかどうかというてんになると、しけんのけっかはこんなにはっきりして)
果して犯人かどうかという点になると、試験の結果はこんなにハッキリして
(いるのに、どうもぼくはかくしんができないのですよ。なにもよしんでゆうざいにしたとて、)
いるのに、どうも僕は確信が出来ないのですよ。何も予審で有罪にしたとて、
(それがさいごのけっていになるわけではなし、まあこのくらいでいいのですが、)
それが最後の決定になる訳ではなし、まあこの位でいいのですが、
(ごしょうちのようにぼくはれいのまけぬきでね。こうはんでぼくのかんがえをひっくりかえされるのが)
御承知の様に僕は例のまけぬ気でね。公判で僕の考をひっくり返されるのが
(しゃくなんですよ。そんなわけでじつはまだまよっているしまつです」)
癪なんですよ。そんな訳で実はまだ迷っている始末です」